ポラナ
洞窟内は湿度が高くじめじめとしていた。鍾乳石の壁はケプラーシオマネキが削ったのか、幾筋もの線状の傷が刻まれている。こんな恐ろしい暗黒地下ダンジョンには盗賊さえ入ってこないだろう。
「きゃっ!」
ブリュッケちゃんの首筋に冷たい滴が垂れた。ドキッとするじゃないか。
15分ほど真っ暗な洞窟を進んでいくと隅の方だったが、巧妙に擬装された人工的な鉄製の扉があった。
「ドアがあるぜ、ブリュッケちゃん……カクさんと行ってみよう」
ジャージ姿に赤ヘルメット、銃を背負う彼女は、カクさんとペアになって濡れた地面に足を取られながらも先にたどり着いた。
「パリノー、君は怪妖洞に詳しいのかい?」
彼女の場合プラスチックのヘルメットにテープでライトを固定している。パリノーは整った顔立ちだが、不用意に触ったのか早くも顔が泥まみれだ。
「ここまでは単独で到達不可能だ。こんな扉があるなんて知らなかったよ」
パリノーと肩を組んで歩き、何とか合流。赤く錆びたドアには当然のように鍵がかかっていた。
「銃でドアノブを吹き飛ばそう、どいてろ!」
「! ちょっと待って」
ブリュッケちゃんは首から下げていた家の鍵を襟元から取りだした。ごく普通の鍵だが体温でホカホカ。
「これを使ってみてよ」
鍵穴に挿して回すとカチャリと音がした。何と自宅のキーで鍵が解錠された! ヒコヤンが使っていた隠し部屋に違いない。
「君を連れてきて本当によかったよ」
「エヘヘ……早く中に入ろうよ」
「そうや、早うせんとケプラーシオマネキの連中に感づかれまっせ」
三名と一頭で急いで入室する。松明を壁に掛け、自家発電機のエンジンに燃料が入っていることを確認した後、エンジンスターターの紐を引っ張る。二、三回繰り返しているうちにエンジンが目覚めてLEDライトが点灯した。
頑丈な扉のおかげで中は手つかず。人間にもカルキノスにも荒らされていなかった。ちょっとしたマンションの一室といった感じ。
ライトをかざすと、確かに間違いなく
本棚に大量のハードカバーの蔵書もあった。日本語と英語の本がほとんど。
「やったぁ! カルキノス辞典と図鑑をゲットしたぞって……娘のブリュッケちゃんの物だね」
「そうだけど、持つにふさわしいオカダさんにあげるよ」
「本当!? ありがとう」
ブリュッケちゃんにキスしようとしたが、うまくすり抜けた彼女によってカクさんの鼻にキスしてしまった……黒く濡れた鼻は……正露丸の味がした。
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