ゲルダ

「何が伝説の装甲殻類カルキノスハンターだ。口ほどにもない奴め……」


 カクさんはヒコヤンの服で尻を拭きながら、敗者の不甲斐なさを罵った。

 小学生の女の子は二次被害に巻き込まれないように、僕が安全圏まで避難させたのは言うまでもない。ただ、カクさんが生み出した例の凶悪物質は、後で僕が始末する時に色々と大変そうだな。


「大丈夫か? 何でヒコヤンと言い争っていたんだ?」


 服に付いた汚れを払いながら、ショートカットの女の子に訊いた。

 近くで見るとマリオットちゃんに勝るとも劣らない美少女だった。ロゴプリント付きの黒パーカー、下はホットパンツといった出で立ちで、少しシャツが破れているのを両手で隠している。


「違うよ! あいつは本物のヒコヤンなんかじゃない」


「ええ?」


「伝説や評判を利用して甘い汁を吸っているんだ。ヒコヤンの名をかたる真っ赤な偽物だよ!」


「やはり、そうだったのか……じゃあ、君は本物のヒコヤンの事は、知っているのかい?」


「もちろん、ボクが一番よく知っています!」


 カクさんと顔を見合わせた。信じていいものか?


「ヒコヤンは……ボクの父さんなのです」


 そう、この12歳前後の少女が、ヒコヤンの一人娘だったのだ。

 ブリュッケと名乗る少女は、まぎれもなく伝説の装甲殻類カルキノスハンター、ヒコヤンの二代目という事実に我々は驚愕した。


「是非とも、君のお父さんに会わせてくれ」


「それは無理……」


「どうして?」


「もうこの世にはいないんだ……ビワ湖で行われた飛人間コンテストの参加者がカルキノスに襲われた時、助けに入った父は重傷を負ったんです。その時の傷が元で亡くなってしまいました」


 ブリュッケは、こらえきれずに泣き出してしまった。


「……世間に公表していないようだな」


「ええ、父さんの遺言なので」



 僕とカクさんは本物のヒコヤンの本拠地、つまりブリュッケの住まいへとやってきた。伝説の人物が住んでいたのは駅前の古い建物の一角だ。

 ブリュッケは、部屋から父の形見だという赤いヘルメットを持ってきた。歴戦の傷跡からして本物であろう。伝説の男は、本当にオーミヒコネ市の伝説となってしまったのである。


「ブリュッケちゃん」


「え? これで信じてもらえましたか?」


「もちろんだとも。俺達と一緒に来ないか? 二代目ヒコヤンとして受け継がれた武器と知識が必要なんだ。まあ要するに、ご意見番だな!」



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