イフィゲニア
見ざる言わざる聞かざるか……僕は今、聞かざるのポーズをしている。
しばらく両目を閉じていたが、何やら風の音に混じって動く気配がした。マリオットちゃんの反対側、つまり僕の正面から何かが近付いてくるような気がする。スケ・カク・コンビのどちらかな?
「マリオットちゃん、もう目を開けてもいいのかな?」
「まだ、だめぇ! ちょっと待ってよ! 聞いてるの?」
僕の耳が聞こえていると、恥ずかしいのでは?
「スケさんか? カクさんか? 返事をしてくれ」
何も声は聞こえない。返答や反応は一切なしだ。
おいおい、
「マリオットちゃん、俺の代わりに見……」
突然、奇妙な声を伴って、暗闇から何かが僕に覆い被さってきた。
「うわぁあああああああああーっ!」
「きやぁあああああああああーっ!」
しゃがんだままのマリオットちゃんは僕の叫び声に驚いたようだが、後ろを振り向けないので、実際にどのようになっているのかは不明だ。丸出しなのは間違いないと思う。
「オガダさ~ん……」
抱擁してきた正体は、水色チェック模様のパジャマに身を包んだアディーさんでした。髪を振り乱して僕にまとわりついてくる。やれやれといった感じで、彼女の両肩を持って訊いてみた。
「いきなり僕に抱きついてくるとは、一体どういう経緯なんだ?」
「あ、スミマセン。ちょっと飲みすぎたようです。私も外の闇の中、たった一人お尻を出すのは恐ろしくて、無防備で、つい……誰かに頼ってみたくなったのです」
警官なのに、こんな根性なしでいいのか。
……そういえばマリオットちゃんは?
「アディー! おどかさないでよ、本当にもう!」
いつの間にか彼女は色々と済ませていた。ほっとしたが、胸のドキドキが止まらないよ。
騒ぎを聞きつけて今度はスケさんが見張りから戻ってくる。
「あなた達、深夜に何やってるのよ」
「見れば分かるだろう。外に用を足しにきているのだ」
「オカダ君、忘れたの? 携帯式の簡易トイレが車内にあったじゃない」
「何だってー! オカダ君ー!」
マリオットちゃんがネグリジェの裾を引っ張るようにしてプンスカした。でもアディーは、外でするのが気持ちいいと、僕の目も気にせず岩陰で綺麗なお尻をチラ見せした。
何だか見てるこっちの方が恥ずかしくなってきて、スケさんにその場を任せた僕は、マリオットちゃんとその場を退散したのだった。
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