アテ
マリオットちゃんと一緒にテントを出て、重要任務を果たしに行こう。
昼間は暑かったのに、夜間は冷えるなあ……それでも人間が暮らしていくには何の問題もない気候だ。
ランタンを持ってスタリオンの向こう側まで行くのに、マリオットちゃんは僕にぴったりとくっ付いて離れようとしない。明かりを持った手と反対側の二の腕に、細い両腕を絡めてくるから正直歩きにくい……。
「オカダ査察官、外はやっぱり暗くて怖いです。置いてかないで下さいよ」
「大丈夫だって……」
スタリオンのフロント側に大きな岩があって、用を足すのに物陰になり、ちょうどよさそう。
「マリオットちゃん、俺は明かりを持ってこっち側にいるから安心しな。じゃあ……」
「やだ、行かないで! 私から離れないでよ」
「はいはい」
僕は、後ろを向いたままマリオットちゃんのすぐ傍まで近寄った。
「やだぁ! オカダ君、恥ずかしいよ。もっとあっちに行っててよ」
どっちやねん!! と僕は心の中で突っ込んだ。
「俺は何も見ていないし、何も聞こえません!」
耳を両手で塞ぎ、両目も閉じた。そう言うと安心したのか、マリオットちゃんは背後でキョロキョロしながら準備を始めたようだ。
だが、何でだろう……聞いちゃいけない、聞くもんか、と思えば思うほど聴覚が研ぎ澄まされ、塞いだはずの両耳から聞こえてくる物音から、マリオットちゃんの行動が手に取るように分かってしまう。
あっ今、汚さないようにネグリジェの裾を大胆にまくり上げ、口にくわえた所だな……。
パンツを下にずらす音が聞こえる。そして腰を落として、しゃがんだな……。
やばい、次に聞こえてくる音は……やっぱり……やばい……そうだ!
「2×2が4! 2×3が6! 2×4が8! ……大きな栗の木の下で~!」
「やだあ! オカダ君の独り言と歌が怖すぎる!!」
マリオットちゃんに気味悪がられちゃった……。
「い、いいから普通にしててよ! できないよ私」
「俺は何も聞こえませーん。聞こえませんよ~」
闇の中、僕はもう、そうつぶやくしかなかった。
寝る前にナノテク・コンタクトを外したので、余計な情報が入ってこなくて気分がいい。冷めた空気を肺に入れ、深呼吸をした。頭の中がクリアなんだな。何だか眠気も吹っ飛んじゃったぞ。
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