リディア

 深夜になって、また僕の睡眠を邪魔する人がいる。テント内の寝袋から出した顔に誰かいたずらしてくるのだ。気配で危険な者ではない事は分かっているのだが……。


「う~ん、誰だ? スケさんかカクさん? 見張りは頼むよ。僕は眠いんだ……」


 どうも鼻の下辺りを長い髪の毛の束で、くすぐっているようだ。長い黒髪? ランタンの光の中、うすぼんやりと小さな顔が浮かんできた。


「マリオットちゃん?」


 艶々のストレートヘアは結ばれていたが、間違いなく彼女だった。薄い桃色のネグリジェタイプのナイトウェアでフリル付き。ランタンの逆光に照らされて、体の線が透けて丸見えとなっている。


「どうしたの? 何かあったのか?」


 狭いテントの中で座り込んだ彼女は、困ったような表情をしてくちびるを尖らせた。


「オカダ君、起こしてゴメンね。 ちょっとお願いがあるの……」


「何だ、ひょっとして……」


「私と一緒に寝て欲しい」


「ええーっ!?」


「嘘よ、冗談よ! 私と一緒に、あの~……ついてきて欲しいの」


 ようやく分かってきた。姉と同じだな、こりゃ……。


「シュレムやアディーはどうしたんだ?」


「二人ともワインを飲んだからか、揺すっても声をかけても『う~ん』って言うだけなの」


「そうか、それは困ったな」


 僕は寝袋から出て、外に出る準備をした。マリオットちゃんは嬉しそうだったが、くしゃみを連発した。


「うっ! 我慢が限界となってきました。オカダ査察官!」


「そんな薄着じゃ、風邪ひくぜ。この毛布を被れよ」


「ありがと」


 ランタンの光を頼りに二人で砂丘の向こうまで行くか。だめだ、あそこはスナグソクムシって奴が出没するんだっけ。あれを見たらマリオットちゃんは、その場で漏らすだろう。


「もういいからさ、スタリオンの陰に隠れてやっちゃいなよ。ここでは誰も見てないぜ。俺はエスコートするが、向こうを向いたまま目と耳は塞いどくよ」


「うん、そうする。でも約束よ! 絶対に見たり聞いたりしないでね」


 スタリオン高機動車の周り以外は深い闇に包まれている。時々蛾のような小さいトビエビが光に吸い寄せられるように飛んできて肝を冷やす。

 闇夜は大人の男でも何だか怖いもんだ。城塞跡からは風のざわめきが、うめき声のように聞こえてくるし……。


 

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