フェリキタス
焚火が燃え尽きると、気温が下がったような気がして寒さが身にしみる。
寝袋に潜ってクラシックを脳で直接聞いていると眠くなってきた。だが、見知らぬ土地ゆえに警戒は怠れない。こういう場合には、スケ・カク・コンビに見張りを頼んでいる。
しばらくすると誰か車内から出てくる気配がした。テントから顔を出して見ると、どうも桃色パジャマ姿のシュレムらしい。花柄のゆったりデザインだな……白衣以外の姿が見れて、ちょっと嬉しい。
「どうしたんだ?」
僕が眠い目を擦りながら怪訝そうな顔をして近寄ると、あからさまにイヤな表情を浮かべた。
「いや、ちょっと……」
僕が心配していると、彼女はもじもじとしながら、はっきりと言い放った。
「ついてこないで!」
どうやら彼女は催してきたらしい……これはレディーに対して失礼。しばらく、そっとしておいてやると、こんもりとした砂丘の向こうで悲鳴が上がった。
「キャーッ!」
「何だ! 今度は何が起こった?」
僕はアニマロイドを凌ぐスピードで、彼女の所までダッシュした。暗闇でよく見えなかったが、白いショーツを膝まで下ろしたシュレムが尻もちをついている。水分に敏感に反応したスナグソクムシが地中から数匹這い出してきたのだ。
「いやぁぁぁ! 見ないで!」
急いで下着を上げた彼女は足が絡まって、再び地面に転んでしまった。
「大丈夫か? しっかりしろ」
「離して、男には頼らない!」
「何だよ! せっかく心配して来てやったというのに」
見張り役のカクさんも騒ぎに気付いたのか、様子を見にやって来た。
「集まって来なくていいよ。少しビックリして、転んだだけだから」
シュレムはパジャマの中身のズレを器用に引っ張り上げた。
「確かにこんな奴を見たら、俺だってびびるわ」
僕はスニーカーぐらいの大きさのスリムなダンゴムシっぽい生物を無理矢理両手の中で丸めると、ソフトボール投げで次々と砂丘に放り投げたのだ。
「む、この臭いは……」
カクさんが、先ほどシュレムがしゃがんでいた場所をクンクンしている。
「やめて、馬鹿っ!」
カクさんはシュレムにティッシュペーパーの箱を投げつけられた。
「ひよーっ!」
相変わらず逃げ足だけは異様に早いな、あいつは。……何だか色々ありすぎて疲れたなぁ。その日の夜は、あっという間に深い眠りに落ちてしまった。
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