クリティア

 大方の予想通り、タクシーの後部座席から降りてきたのはミューラー市長だった。本当に無事でよかったと思う。

 査察団を受け入れたばかりに、市役所内は戦闘員によって踏み荒らされ、更に市長室は手榴弾で爆破されてしまった。当然ながら役所の機能は麻痺し、街は戦闘員が闊歩する非常事態。ミカミ山の爆発に加え、オーミモリヤマ市民は大混乱に陥っているはずだ。

 若干やつれた感のあるミューラー市長は、我々の前を通過して、いそいそとデュアン総督の元に挨拶に行った。市長には多大なる迷惑をかけてしまい、本当に申し訳ない事をしたなと思っているのだが。

 デュアン総督は、しばらくミューラー市長と会談した後で、何やら耳うちをしたようだ。

 市長は歪んだ眼鏡を直し、神妙な面持ちで戦闘員の山を掻き分けながら我々に近付いてきた。


「オカダさん、私もケプラー生まれで、男は奴隷として卑下する対象に見えています。いくらあなたが地球人でも見た目が男ならば、下賤と無理に会話しているという事実に変わりありません」


「市長……そんな目で俺を見ていたのか。あまりにひどすぎる。男性蔑視だ、人権無視だ、アマゾネス反対!」


「地球人がこの星で権利を認められたくば……要は男でも女と同等の強さがある、と誇示して民衆にアピールすればよいのです」


「そりゃあ、だから、どうすればいいんだって!」


「ビワ湖最北部の砂漠にサバクオニヤドカリが生息しています。ケプラー22b最強とされる凶悪な生物を倒し、その証拠として目玉を持ち帰ればいいのです。シンプルに、ただこれだけが条件です」


「なんだそりゃ、えらく前時代的だな」


「オカダ査察官、文句があるなら今すぐ奴隷達の仲間入りだ」

 

 デュアン様が偉そうに食ってかかってきた。

 怪物を退治して印を持ち帰るだと……ギリシャ神話か何かにそんな話がなかったっけ。

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