ガラテア

「化け物を退治してくるなんて、ヘラクレスの十二の功業みたいね。まあ、一つだけならまだ承諾できるかも……」


 スケさんが、あっさりと答えた。


「サバクオニヤドカリって何だ。名前の通りなのか?」


「さあ、どんな生物なのか見てみない事には分からないわ」


 デュアン様が指定してくるってことは、厄介な怪物に違いない。軽々しく『やってやるぜ』と約束してよいものだろうか。


「シュレム、鬼ヤドカリってどんな生物なんだ?」


「湖の北の砂漠に住む山のように大きなヤドカリよ。この世界最大のカルキノスで、人間が倒せる相手じゃないわ」


「ええ? カルキノスって何だ?」


「ケプラーモクズガニみたいな奴の事よ。査察官なのに何も知らないの?」


「知りませんがな! どんなカニですか? そいつは!」


 シュレムとやり取りしている間にミューラー市長は、乗ってきたタクシーの後部座席に座っている、謎の人物に手を振り合図をした。


「おい、気付かなかったがタクシーには、もう一人乗っていたんだ! 誰か……男が降りてくるぜ」


 カクさんに促されて黒タクシーの方を見ると、見た事もない人がゆっくりと我々の方に向かって歩んでくる。


「お前達の仲間だ……」


 デュアン総督は軍帽を脱ぐと、ピンで束ねた髪を解き、頭を左右に振って自慢の金髪を風になびかせた。ルージュの映える口元には氷の笑み。

 ミューラー市長は、高機動車上で雁首を揃える査察団に対して静かに説明を始める。


「30年前の査察団……10数名いたかしら? 彼らも同様にサバクオニヤドカリ退治のミッションが下されたけど全員失敗。たった一人の生き残りは今、奴隷長をしているわ」

 

 市長が指差す先には白髪の長老風情の男がいた。薄汚いラフなスーツを着てはいるが浮浪者に見えなくもない。


「あなたは……無事に生き残っていたのか!」


 僕には人物が誰なのか、すぐに分かった。


「顔の骨格から判定すると前回の査察団のメンバーの一人、ゴールドマン教授ですね」

 

 スケさんが問いかけても、老人は腕組みをしたまま黙り込みを決めた。



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