フェロニア

 奴隷戦闘員の包囲網がだんだんと狭くなってくる。甲殻類の殻を加工してプロテクターに流用している彼らは、何だかカニの大群にも見えてきた。しかしながら槍や刀や弓矢が主な武器であっても決して侮れない。一気に襲いかかってこられると、あっという間に制圧されてしまうだろう。

 カクさんが、あろうことかデュアン総督をいやらしい目で見た。


「バスト88、ウエスト56、ヒップ87ってところか、畏れ多くも女王様体形だな……あ~、ムチで動物のようにしばかれたい」


「お前、まぎれもなく動物だろう……それにSMの趣味はないってさっき宣言していなかったか?」


 デュアン総督は、黒服女SPに囲まれてコルベットから降りた。軍服なのに高いヒールを履いている。


「……何をごちゃごちゃと話している!」


「見ろ、バカ、怒らせちまったじゃないか」


「男が女に逆らうなど、この星ではあってはならぬ事、今ここで死んでもらうか」


「客に対してえらく冷たい国だな。もう敬語はやめるぜ! ……取引しないか、俺が死ねば地球からの補給物資がすべてパーになると思え」


「そうくると思っていたよ」

 

 デュアンは私兵である戦闘員を一旦下げさせた。


「確かに俺はもう地球には戻れない。この星に骨を埋める覚悟でやってきた。だが、奴隷なんてまっぴらごめんだ……荷物をくれてやる代わりに女と同格の人権を特別にもらえないか」


「それは難しい提案だな。だが植民惑星の女に地球の男の強さを認めさせることができたら、それは不可能な願いでもない」


「何、それは一体どうすればいいんだ!」


 その時、我々の間に割って入るようにクラクションを盛大に鳴らしながら、黒いタクシーに乗った一人の女性が登場したのだ。ちゃんと律義に領収書ももらっている。

 血の気が多い戦闘員も、これには皆あっけにとられた。どうしようもなく話の腰を折られてしまい、本当に拍子抜け。

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