ニオベ
総督は軍帽にベージュの高級士官服とタイトスカート。コスプレ感もなく、至極まっとうな偉い人間にも見える。
「我が名はデュアン……デュアン総督だ。現ケプラー22b総督を務めさせてもらっている。市長から報告を受けたよ、オカダ査察官」
前代未聞。お互い車に乗ったままの話し合いが始まった。
簡単な自己紹介の後にデュアン総督が放った言葉。
「査察官殿のシャトルは、我がコロニー都市に接収させてもらうよ」
あくまで高圧的な総督の態度に辟易とする。見た目通り、噂通りの振る舞いに少しゲンナリ……。
「何ですって? 我々査察団は国際連合の名の下に、あらゆる不当な干渉を拒絶できる権利と独立性を有しています」
「それは地球人が勝手に決めたルール……査察官殿は、どうあがいても地球には戻れないのだろう。当方とのパワーバランスを保つためだが、宇宙船は解体して物資はすべて没収する事にしよう」
「無礼な振る舞いをしたのであれば謝罪しますが、あまりに強権的過ぎやしませんか? 衛星軌道上に母船が存在しているので、仮に奪われたとしても無駄ですよ」
「中継役のシャトルなしでは何もできまい……他の男達と同様、我が隷属下に入る事になろう」
僕とシュレムと二頭は、数を増す軍勢の前にも一歩も引かず睨み合った。
「オカダ君、コンタクト・ドライブシステムを使って宇宙のインディペンデンス号から“電神”を呼び寄せようぜ。」
カクさんが密かに提案した。
「いや、我々は国連の使命を帯びた植民惑星査察官ということを忘れるな。つまり戦争をしに来たんじゃない」
「でもこのままだと奴隷にされるか、殺されるのを待つだけよ」
スケさんも、あくまで争う構えだ。
「市長も話していたじゃないか。ただでさえ植民惑星に住む開拓移民の人口は減少傾向なんだ。争えば必ず死傷者が出る……それだけは何としてでも避けたい」
僕はそう答えた後に隣のシュレムを見た。
この惑星の絶対的権力者デュアン総督を前にして、さすがに恐れをなして青ざめている。また無関係な彼女を巻き込んでしまいそうだな。
「さて、どうするか……」
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