アジア
「ここは私が食い止めるから、あなた達は先に行って! ……この台詞、前から一度言ってみたかったの」
スケさんの周囲は倒れた戦闘員で埋め尽くされていた。さすがに迂闊に近付けない事を悟った男達は、作戦を練り直している。
「いくら弱くても数が違う。十分に気を付けろ」
「了解! カクさん……オカダ君とシュレムの事、頼んだわよ」
「任せとけ。また後でな!」
カクさんは窓に積み上げられたバリケードに体当たりした。落下物の音からそんなに高くはない。
彼が二階から地上を覗くと、煙幕の隙間から地上がうっすらと確認できる程度。待ち受けていたデュアン総督の戦闘員が、ボウガンの矢を次々と放ってくる。狙いは結構正確だ。カクさんは思わず頭を引っ込めて震えた。
そこにスタリオン高機動車が登場し、何人か弾き飛ばして停車。ボンネットには、まだ火がくすぶっている。カクさんは少し尻込みしたが、意を決してスタリオンの屋根にひらりと飛び降りた。
「てめえら、近寄るんじゃねえ! ケガするぜ!」
炎に照らされた銀色のオオカミは、逆立てた毛を不敵になびかせる。
「……かかれ~! 奴を、野獣をぶち殺せぇ!」
戦闘員の指揮官が、抜き身の日本刀を振りかざし血眼で周囲に下達する。
「アニマロイドのカクさんを、なめんじゃねぇぜ!」
彼は指揮官に飛びかかると、すんでの所で刀の一撃をかわし、肩に食らいついた。
二階ではスケさんが奮闘中。床にはマキビシが撒かれ、猛獣を網を使って捕らえようと必死になっている。戦闘員は手榴弾の使用許可を貰ったようだ。
僕はシュレムの腰を抱きかかえるとラぺリングで残されたロープに手をかけた。
「放してよ!」
「ここにいると普段から鬱憤の溜まっている男達から酷い目に会わされるかもしれないぜ。群集心理って奴を知らないのか?」
「B級奴隷の男達なんか怖くもないわ」
「それは下に降りてから言ってくれ!」
やっぱり女の子だな、持ち上げても柔らかくて軽い。
「キャッ! 高い所は苦手よ」
有無を言わせず、抱き合ってスタリオンの屋根目がけて飛び出した。ロープを掴んだラぺリンググローブは摩擦で煙り一気に穴が開く。
瞬間、上から爆発音が響くのを確かに聞いたのだ。
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