アンジェリーナ

 市長室のドアは今にも破られそうだ。丸太状の重量物で外部から突かれて、ありえない形まで歪んでいる。


「スタリオンが到着するまで、何とか時間を稼ごう」


 僕は戦闘員の身ぐるみを剥がしてロープで縛った。二名の武器を奪ったが、ナイフや警棒、スタンガンなどとロクなものを持っていないな。それから髪を乱して震えるミューラー市長に向かって念のため訊いた。


「市長、あなたの権限で、兵を引かせる事はできませんか?」


「無理よ……これはデュアン総督の指令で動いている軍隊に違いないわ」


「そうですか、分かりました」


 腰が抜けたミューラー市長をクローゼットの中に避難させた。どう考えても目標は我々査察団であり、市長やシュレムは巻き添えを食った感じだろう。


「シュレム、君もどこかに隠れていた方がいい」


 そう言いながら僕はスーツを脱いでズボンを下ろした。シュレムが悲鳴を上げる。


「こんな時に裸になって何を考えてるのよ!」


「戦闘員の服と装備に着替えた後、ドサクサに紛れて外に逃げるのだ。二着あるから君も着てみるかい?」


 シュレムはしばらく考えた後、白衣の胸元が少し破れている事に気付いた。


「あんた達、ちょっとあっち向いててよ」


 渡された服を手に、彼女は僕とカクさんに命令。仕方なく背を向けたが、非常事態だというのにカクさんが密かに教えてくれたのだ。ミューラー市長が使っている姿見の鏡がそこにある事を。

 シュレムは背中のファスナーを降ろすと、すばやくワンピース状の白衣をするりと脱いだ。

 嗚呼、ケプラー22bの神様ありがとう……鏡越しだがこんな美しい光景を見せてくれて。パーフェクトな大きさと曲線を描く胸、可愛いおへそ。それにメリハリが効いたウエスト周りも文句の付けようがない。下着のセンスを含めてトータルで完璧ではないか!

 ……鏡の中のシュレムと目が合った。


「イヤーッ!」 


 桃色の思考は、飛んできた右ナースシューズが頭部に命中することで雲散霧消してしまった。ちなみに左シューズはカクさんの尻に刺さって転がったのだ。



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