第29章 三つ巴の戦い

アーダルベルタ

  第二十九章 三つ巴の戦い


 奴隷サイドと支配者サイドに分れた二大勢力の競り合いは大地の潮流と化し、この星のあらゆる秩序をカオス状態にまで還元する勢いをもって人々を駆り立てる。

 神々の視点たる鳥瞰図からして、如実な勝利が見えてくるのは、長年奴隷身分に甘んじてきた男性陣。その争乱をあざ笑うかのごとく、オーミモリヤマ市に突如として緊急警報のサイレンが無情にも鳴り響いた。

 

 アディーが持っている警察用無線に情報が入る。無論チトマスにも同様にもたらされたのは言うまでもない。その画面に走る黒い文字列は、二人の顔を青ざめさせるには充分過ぎる内容であった。緊急情報は、オーミモリヤマ市を外敵から防衛する要となっている、最北端のゲートから発信されてきたものだ。

 アディーによると現在、辺境のバリケードに存在するゲートは、このたびの内乱のせいで防衛隊が駆り出されて外敵に対する防御が極端に手薄になっている。

 偶然なのか数年ぶりに、人類側の混乱状況を察知したかのごとく、ビワ湖の湖底から数体の巨大カルキノス、ケプラーモクズガ二が出現。その内の三体がゲートを突破し、市街地外縁部にまで侵入してきたとのこと。

 この世界ケプラー22bでは有名な人食いガニで、両腕のハサミ部分に食した人間の頭髪を大量にくっつけて毛だらけにする習性がある……という意味不明の凶暴な奴だ。


 小心者で悲観的な人物とのレッテルが貼られてしまったゴールドマン教授が、周囲の予想を裏切る事もなく騒ぎ始めた。


「何だと! ケプラーモクズガニがこの街に現れただと! うわぁあああ! 人類は、もうダメだぁあああ!」


「教授、こういう時こそ落ち着いて下さい」


 チトマスがショックで卒倒しそうになった教授に肩を貸す。


「そんなにすごい奴なのか?」


 半信半疑に訊くと、ゴールドマン教授は僕の楽観的な言動に怒りを露わにして叫んだ。


「君はいつも事の重大さが理解できていない! ケプラーモクズガニだぞ! この惑星の食物連鎖ピラミッドの頂点に君臨する世界最強の装甲殻類カルキノスが出てきたんだ~!」


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