彼女は湯かき棒を振るう

大友 鎬

彼女は湯かき棒を背負う

1-(1) 突然だが、湯かき棒をご存知だろうか。

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 突然だが、湯かき棒をご存知だろうか。

 湯かき棒というのは六十センチメートルぐらいの長い柄にレンコンみたいな円盤をくっつけた、水色のプラスチック製品だ。

 名の通り、風呂の湯をかき、熱湯をぬるま湯に変貌させるすぐれものだ。

 百均のTHE・風呂コーナーにおいてあったりなかったり、沖縄には売ってなかったりとなかなかお目にかかれないため、見つけたら迷わず買っていただきたい。

 さてなぜ、俺がそんな話をいきなりし始めたかといえば理由がある。

 高校へ初登校の日、俺の目の前に湯かき棒を背負った女子が歩いていたからだ。

 重要だからもう一度言っておこう。

 俺の目の前に湯かき棒を背負った女子が歩いていた。

 なぜ湯かき棒を背負っているかは知らない。知ったこっちゃあない。

 ただ、俺が唯一わかるのはその女子が同じ学校のセンパイだということだけだ。

 センパイは紺色のブレザーに緑の帯リボン、赤と黒のチェックのスカートという制服にスレンダーなその身を包んでいた。

 俺が通う弓形ゆみなり高校は一年生が赤、二年生が緑、三年生が青と、帯リボンとネクタイの色が決まっているため、目の前を歩くセンパイが何年生かという判別は簡単だった。

 にしても、なぜに湯かき棒なのか。そしてなぜ背負っているのか。

 気になった俺はセンパイに視線を注ぐ。見ればほかのやつらもセンパイを、というか湯かき棒を凝視していた。

 けれどセンパイはそんな視線に慣れているのか、それとも気づいていないのか、見向きもせずに学校へと歩いていく。

 俺がセンパイの横に並んだとき、センパイの赤みがかったショートヘアが風にたなびき、泣きぼくろが見えた。それが少しだけ印象的で、胸がちくりと痛んだ。

 それが一目ぼれなのかどうか、経験のない俺にはわからなかった。

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