第14話 山梨 甲府市周辺の捜査
山梨 甲府市周辺の捜査
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茂上は山梨へと来ていた。甲府駅に降り立った彼がまず第一に感じたのは、なんとも言えぬ蒸し暑さだった。
「山梨ってホント、熱いですねぇ。もう9月っすよ」
茂上の後輩の高橋がそう言った。「ま、そんなもんだろ。我慢しろ」と口では言ったが、内心では同意見だった。
甲府駅北口に出る。目の前には緩やかな上りの坂があった。どれぐらいの坂なのか、ここからでは判断できない。が、かなり長い坂であることはわかった。
「えっと……すごいっすね、この坂。少なくとも、俺の家近くにはこんな坂は無かったですよ。自転車の運転手に喧嘩売ってるんですかね、これ」
高橋がそんな言葉を絞りだした。この坂を上った先には国立大学法人が運営する山梨大学がある。坂の上に住んでいる人にはあまり関係の無いことかもしれないが、駅周辺に住んでいる学生がもしいるのだとしたら(それなりにはいるだろう)、毎朝毎朝かなりの体力を使うのだろうなと高橋は思った。自転車はやはり平坦な道を走るに限る。
「そうだな。こりゃ、ここら辺回るのに体力を使いそうだ。んじゃ、一旦ここで別れよう。地図は持ってるな?」
「えぇ、もちろん持ってますよ。んじゃまぁ、目ぼしい情報が手に入ったら連絡すりゃいいんすよね?」
「あぁ、その通りだ。んじゃ、よろしく頼むよ」
と言って、二人は解散した。
茂上と高橋。ここ、山梨の甲府に来たのはもちろん、さいたま市で起きた殺人事件の調査のためだ。越県調査となる。本来、警察の諸々の手続きが必要となる。県を複数跨いだ連続殺人などが起こると広域捜査本部というものが組織され、合同捜査本部が置かれ、いくつもの県警の捜査官が集まり、会議をし、それぞれの役割が割り振られ、捜査が行われる。しかし今回は社会を震撼させる連続殺人が起きたわけでもなく、あくまで事件の被疑者、にもなっていない事件関係者が山梨に行っていたのかもしれないと思って捜査をしているだけのこと。これこれの件で、あなたの所轄の地域で当県警の捜査官がちょっくら捜査しますがよろしいですか、という書類を提出し、形だけのチェックを通し、初めて他県の人間が捜査可能となる。それだけの話はあったが、それは現場にいる茂上と高橋にはあまり関係のない話であった。総務部あたりがちょっくら本腰を入れてくれればいいだけの話だ。高橋は南口を。茂上は北口から歩きはじめ、甲府市内のホテル、民宿などの宿泊施設をまわる。もし、一之瀬と神宮が甲府市内のどこかに滞在していたとすれば、それは茂上の仮説をひとつ、大きく前進させるものになり得るからだ。
聞き込みを行うこと6時間。
茂上は気になる情報を得た。
曰く、若い男女2名が旅館から出てくるのを見た気がする、というものだった。
具体的にどのような男女であったかを聞いてみたが、詳しく覚えているわけではないようだった。しかし、この辺で見る顔ではまったくない、というのは覚えていたそうだ。それ以外の有力な情報はなかった。しかし、この情報は茂上にとって、切り捨てることのできないものだった。おそらく、これだ。真っ暗な水の底から、仄かな光を見つけた気持ちだった。
翌日、茂上は高橋を引き連れて件の旅館へと足を運んだ。
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