第13話 富樫弁護士の登場 彼が与える影響と、思考
富樫弁護士の登場 彼が与える影響と、思考
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「それで、私になんの相談でしょうか。久しぶりですねぇ、ここに来るのも。学校運営というのは儲かるものなんですかねぇ?」
嫌味ったらしい口調で男がソファに座りながら呟く。
そんな男の一言を聞きながら私立S学園理事長こと、桜井 雪下(さくらい ゆきした)は男の対面のソファに座った。
「学校まで来てもらって、すまなかったな」
「またまたぁ、そんなこと言っちゃって。どうせ大して悪いとも思っていないんでしょう?」
悪戯っ子のような微笑みをひとつ、男が桜井に投げる。
男はダークのスーツに、グレーのストライプのネクタイをつけている。その彼を見て、誰の目も惹き付けるのは、彼の頭頂部だろう。綺麗に禿げあがっていて、ひとつの毛根も存在しない。見事な不毛地帯だった。そしてさらに見事なのは、その禿げさがひとつのファッションに見えることだった。それは言うならば、ひとつのファッションとして確立された禿げ頭だった。
「まぁ、君のことだ。暇だろう、とは思っていたがね」
それに対し、桜井もそう返す。
「富樫君に頼みたいのは、ちょっと混み入ったことだ。どちらかと言うと、表に出せない物事だな」
「表に出せない物事、と一口に言っても、あらゆることが考えられます。政治ネタに絡むことなのか、それとも警察関係者、及び官僚の汚職に関わることなのか、それとも大企業を潰したいっていうちょっと過激的なこともあるわけです。もう少し具体的に言ってもらわないと、俺も何も言えないですねぇ」
「一人の人物、いや、正確に言えば、二人の人間を、司法から守りたい」
富樫の表情が固まった。抽象的で、何やら奥が深そうな桜井の一言に対して頭を巡らせているのだろう。そしておそらく、数秒考えれば答えに近い何かに気付くはずだ。
「……そう言えば最近、この学校の生徒が一人逮捕されたらしいですな?」
やはり気付いた。まぁ、この程度は当然と言えば当然だ。むしろこれぐらいは簡単に気づいてもらわなければ、これから頼みたいこともおいそれとは頼めなくなる。
「もしかしたらその殺人事件に関係あるとか、かな?」
「その通りだ。この事件に関わっている、ある二人を警察の手から守りたい」
「…………ふぅむ」
富樫は思案顔をした。人差し指を机の上に立てて、その指先をじっと見つめている。
「まぁ、とりあえず、話を聞かせてくれ。俺に何をしてほしいのか、そもそも、何が起きたのかを、もう少し詳しく。さすがに、殺人事件が起きたことぐらいは知ってはいるが、詳しい内容は知らないんだ」
富樫の顔には笑みが戻っていた。しかし、瞳は決して笑ってなどいなかった。桜井は深く頷くと、事の顛末を静かに語り始めた。これから、長い戦いが始まる……。
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