第4話 山梨に到着
山梨に到着
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甲府駅北口に降り立った二人を待ちうけていたのは、埼玉とは質の違う熱気だった。
「あっつ…………」
駅のホームに降りたときからなんとなく感じてはいたが、改札を出て、実際に駅の外に飛び出すとまた改めて実感させられた。一ノ瀬は思わず声を漏らしてしまう。
駅から降り、さてどこかへ行こうとすると目に飛び込んできたのはこれでもかと言うほどの坂だった。インターネットであらかじめ拾って印刷しておいた地図によればその坂は「武田通り」と呼ばれているものらしい。ずっと進むと坂の上には雲ではなく武田神社というものがあり、そこは躑躅ヶ崎館跡としても知られているが、今回、一ノ瀬と神宮双方とも特に興味はなかったのでそれは置いておくことにした。もしかしたらどちらか一方が信長の野望でもプレイしていたならば、もしくは日本史に並々以上の興味を持つ人間であるならば、行ってみたいという気持ちが生まれたかもしれない。しかし、あいにくどちらも信長の野望をプレイしたことはなかったし、日本史にも興味はなかった。二人共受験で使う科目は日本史でも地理でもなく、世界史だった。……もし、受験ができていたならば。
それよりも、その坂の先、いや、坂だけではない。左を見ても右を見ても前を見ても、そこには山が広がっていた。電車に乗っているときから気づいてはいたが、自分たちは今、山に囲まれた場所にいる。それは今まで一ノ瀬が、そしておそらくは神宮も感じたことのない、新鮮な体験だった。富士山はどれになるのだろう? 一ノ瀬は思ってキョロキョロと辺りを見回したが、やがてそれを止めた。富士山らしいものがなかったからだ。そもそも、富士山があったとしても、自分にはわかるまい。
アイフォンのマップのアプリを見ながら、二人は歩き始める。二人の位置を知らせる青い点が、一昔前では信じられないぐらいの精度で移動している。歩いて行けばここからあと20分もすれば着いてしまう。そんな場所に小さな宿がある。インターネットに掲載されていた写真では、ホテルとか高級宿とかそういった印象はまったくなく、畳が敷いてあり、申し訳程度に32型のテレビがちょこんと置いてあるようなものだった。
そしてある程度荷物を整理し、宿を出る。
急場でこしらえた山梨観光予定表を片手に取り、最後になるかもしれない観光へと二人は向かった。
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