悪人、黄金の瞳は夢界を捉え

 目を開けたら銀灰色の双眸と目が合った。そして足はブラブラと宙をぶら下がっている。俗に言う横抱き、お姫様抱っこというものであった。白馬の王子様ではなく、サイファーの場合は腕利きの無法者ガンマンと言った方がいいのかもしれないが。周りは別の住宅街で、相変わらず暗かった。どうやら袋小路にいるらしい。

「気が付いたか? DMの空間移動だ。あの野郎は断りもせずにかますから心臓に悪いんだ。フレデリカはなんか凄いことになっているし」

 瞳が刺されたように、焼け付いたように痛んでいる。そっと触れるとぬるりとした感触がした。

 赤い、紅い、赫い、血だ。

 大粒の涙のように鮮血が双眸から流れ出ている。

 荒事屋稼業を手伝い初めてから怪我はそこそこにあったが、覚えもないのに眼からの出血という異様な負傷は初めてだった。

 意識を失う直前に双眸に痛みが走った覚えはある。"瞳"の通告に『自動防御』というものを発動するという内容もあったことも。それが眼球からの出血にどう繋がっているのかフレデリカには知る由もないことだった。

「すいません。はやくぬぐってしまうので」

「なんか体調の変化があるなら言え。無理して倒れられても、僕としても心配するし困る」

 出血はすぐに止まった。

 白いハンカチが一枚ダメになる量だったが、御の字と思うことにした。

 体調は問題ない。元来、病気の類とは無縁だし、月のものの負担だって軽い方だし、今は来ていない。その分、精神的な部分がかなり脆い、なんてことを思ったことは幾度もあるのだが。人間というものは、どこかしらの部分でバランスをとっているらしい。

「DM、ウチの可愛いフレデリカがかなり悲惨なことになったけど、何か釈明や言い訳の類はないのかな?」

「ふつうは謝罪を求めるのが筋と思うんだが、そこんとこはどうなんだよ」

「謝罪したって事実が変わるわけでもないだろうに。僕の言いたいこと……というよりやりたいことはわかるだろう?」

「全力で遠慮…………オブゥッ!」

 サイファーの鉄拳がDMの顎に炸裂した。

 並の格闘家より重いと断言できる拳が綺麗に入ってる。しかも、割かしマジな力加減で腰が入っている。常人だったら脳震盪を起こして二日は目を覚まさない。そもそもかなり身長差があるのに、それを補えるだけ姿勢を低くする技術は何かしらの格闘技を匂わせる。

 さんざん推測予測を立てたが、じゃれあいの力加減じゃなかった。少なくともフレデリカの基準では。

 それでも数歩よろけただけのDMを見て、いつもこんな感じか、と納得できた。

 男の世界というものは、多分、いつまでも理解できないと改めて思った。

「悪かったな、お嬢さん。いつもの感覚でやっちまった」

「いえ、もう済んだことなので。気にしないでください」

 ほう、とDMは嘆息する。

 そのままサイファーの肩を叩いて、少し離れた場所でフレデリカに背を向けるように立って、聞こえないような小声で囁いた。

「アンタにはもったいなさすぎる女だな…………ゴヘブゥッ!」

「ちょっと黙っていようか。その手の話題で、僕がどれだけ冷やかしにからかいを受けたか、わからないわけじゃないだろう?」

「ちょっと礼節を欠いたようだな」

「親しき仲にも礼儀あり、だ。覚えておきなよ」

「その諺、そっくりそのまま返してやるよ」

 最後、二人はニヤッと笑い合う。どこかしら狂気の混ざった清々しい笑顔だった。

 サイファーがフレデリカの方に向き直った時には、DMは文字通りにフェードアウトしていた。全身が透き通っていき、最終的には消え失せてしまっていた。

 どこか歯痒そうな表情も、彼女の方を見る時には普通に戻っている。いや、実力行使請負業としてのポーカーフェイスである不適そうな笑みが少しだけ混じっているのは、何かしらの隠したい事柄でもあるのだろうか。

 多分、聞いてみようものなら面白いほど不機嫌になるだろうし、そこまでして聞き出したいことでもない。きっと男だけが分かり得る世界かもしれないし、アーカム下層の恐ろしい事情についてかもしれない。

「悪いな、二人だけで話し込んで」

「大丈夫ですよ。見ているだけで楽しませてもらいましたから」

「楽しんでた?」

「はい。お二人の仲というものが、はっきりわかるくらいに」

「そうなんだよ。憎めないやつでな」

 テンガロンハットを直しながら、やれやれといった体であった。

 そのまま住宅街の袋小路の中でも目立つ大きさの建物、その扉を乱暴にノックした。その上には文字が擦り切れた看板があり、かろうじて『Gun Smith』の一文が判別できることから、ここが話の銃工の店なのだろう。

 普通なら家主が怒りに任せて飛び出してきそうだが、沈黙が圧政をいたように気持ちが悪いほど静かであった。サイファーはこともあろうに、並の扉なら木端微塵に出来るような固いブーツと脚力で、思い切り扉を蹴っ飛ばしたのだ。

 思わず小規模な地震でも起きたのかと言わんばかりの揺れが起きたが、家主が飛び出してくるようなことはなかった。それどころか扉には傷一つとして存在しなかった。

「こりゃダメだな」

 完全に諦めたような表情だった。いつもは、さらに踏み込んでいくのに、少しだけ諦めが早すぎる気がしないでもない。

 しかし、お手上げなのは変わらないのだろう。扉から踵をすでに返してしまっていた。

「完全に引き籠もっちまってる。こうなると僕にもお手上げだ」

「お手上げ?」

「見せてやる」

 そう言って取り出したのは愛用の巨銃だ。反動抑制のバレルウェイトを兼ねた、異様なほど太く重厚な銃身には『Howler In The Moon』の刻印が彫られている。口径は七〇口径と規格外だが、サイファーは軽々と片手で取り扱って運用してのける。

 その巨銃をマホガニーであろう扉に向けて撃ったのだ。

 腹の底に達し、五臓六腑を震わせる轟砲が咆哮したのだ。

 普通であれば木の扉など爆散したように、撃ち砕かれるだろう。

 だが、それでも扉は壊れなかった。まるで巨銃の咆哮などなかったかのように、平然と無傷で健在していた。

「こうやって引き籠もっているのは、まだ完成してないからだな。あとでもう一回来よう」

「引き籠もってる?」

「ああ、作業に集中したいが為に、外界と遮断するどころか、ドアと外壁に窓で隔てて自宅を『一つの世界』として独立させる絶対防御を使うなんて、普通の発想じゃない。狂人の発想を、神の御業で叶える男なんだよ」

 頭を抱えたくなった。

 今まで以上に一線を画するほど規格外だ。ブッ飛び抜いている。

 言葉の綾、比喩隠喩直喩、物の例え。

 そのどれにも当てはまらない、言葉通りの事実とフレデリカの直感と金色の双眸が告げる。

 裏付けるようにフレデリカの視界は常人とは違っていた。何の変哲もないモルタルと煉瓦で作られた二階建てを、怪しく蠢く玉虫色に光る半透明の膜が覆っている。有機的でもなければ、無機質でもなければ、物質でさえない。おそらくは非物質ではあるが、エネルギーではない。何かしらの方法によって作られた概念に近い何かだと双眸は告げていた。

 それが建物を『一つの世界』として成り立たせる、概念的な境界線なのだろう。

 境界線を砕くということになると、本質的には世界を一つ砕くのと同じことになるのだろう。いかに規格外の威力を示すサイファーのリボルバーであっても、を使う限り永遠に破る時は訪れない。

 現状、銃工の店に入るには主が開けてくれるのを、待つしかなかった。

「お前さんの得物を取りに行きたかったんだが、無駄足になっちまった。格好悪いッたらありゃしない。すまんな」

 目に見えて意気消沈した様子だった。

 おそらくは身の安全も考えての事だったのだろうか。中層までなら余裕で通じるアーカム45とM2アナイアレイターの二挺も、この下層では無用の長物と言っていい。下層で広く出回っている非合法的妖技術を用いた四連発ペッパーボックス・ピストルの方が有用性がある。

 オーダーメイドで作られた専用の銃であれば言わずもがな。

 通用する武器に、扱いこなす技量があれば負けることは基本的にない。命を落とすことだって。

「いえ、気にしていませんから。そうなると次はどこに行くのでしょう?」

「久しぶりに会う友人のところに、お願いを聞いてあげて、それを叶えてあげる」

「素敵ですね。それにしては血生臭そうな気がしますけど」

「今更になって言うことでもないだろう?」

 いつものように不敵に笑った。

 そこをクラクションの音が割って入る。高級そうな多人数が乗れるタイプの蒸気自動車ガーニーだ。車体の色は黒で、昼間とは思えない暗さのせいでライトを点けている。

 運転手は初老の男だ。仕立ての良い燕尾服を着込んで、モノクルをかけて、白髪交じりの髪はオールバックにしてまとめていた。

「サイファー・アンダーソン様、主デリンジャーがお待ちになっております。そちらの女性はいかがいたしましょうか?」

「仕事上の大事なパートナーだ。連れていく」

「左様ですか。ではこちらのお車にどうぞ」

 ドアを開けて招いてくれた。

 所作の一つ一つに至るまで完璧な執事だ。もしかしたら相当裕福な人間かもしれない。まっとうな方法で収入を得ているのかは、ずいぶんと怪しい所だが。もしかしたら執事も裏の顔は殺し屋だったりするのかもしれない。

「一応、私はあなたのパートナーなんですね」

「ん? フレデリカが嫌なら変えるけど、それ以外に妥当な表現がなくてだな。僕のボキャブラリーというものは、思った以上に貧弱なのかもな」

「嫌ではないんです。ただ後ろをついていくだけだと思っていたのが、実はパートナーとして見てくれていたことが、少しだけ嬉しくて…………ごめんなさい、変な話をして」

 目を伏せて、口を真一文字に閉じたフレデリカを見て、そっとサイファーは耳も手で囁くように言う。

「いっそのことプライベートのパートナーになってみる?」

 ボン、と音がして湯気が出る勢いで赤面した。耳も首も、開いたデコルテから覗く鎖骨の辺りまで赤くなった。

 効果あり、と内心ほくそ笑む。

 言葉も出ないほどの衝撃だったらしい。サイファーの方を見たまま、プルプルと震えるだけだった。顔から脂汗が出ているし、手も汗で濡れてふやけているだろう。

 もっと追い打ちしてやろう、とサイファーの内で悪魔が囁いた。

「なんだ嫌なのか」

「そ……その、嫌なわけではなくて…………でも! プライベートなパートナーになるには、ちょっと時期尚早と言いますか、もっと段階を踏んで……うわぁ! 一体、私は何を言って…………」

「そんで最終的には新婚さんみたいに、僕の帰りにはご飯を作って待ってくれてると。あー、でも、これっていつもとあんまり変わらない気がするなぁ」

 そこでフレデリカの黄金の双眸が涙で潤んだ。

「…………いじわる」

 そう言って貝のように閉口して押し黙ってしまった。

 やっぱりからかい甲斐というものがあると楽しい。天邪鬼なのか、そうやって無垢で初心な娘を弄んでいる。ただ踏み越えてはいけない線というものは認識しているし、その辺もわきまえてどぎつい冗談をぶちかましてやるだけ。水商売的な女や、媚びに媚び抜く娼婦連中の相手なら腐るほどしてきたサイファーにとって、フレデリカのようなタイプは新鮮だ。

「僕の左手の薬指は空いてるけど……フレデリカはどうなのかな?」

「普通はあなたの方から…………ま、また私は何を言って……!」

「サイファー様、お戯れもほどほどに頼みます」

 執事の忠告があって、フレデリカは心の底から助かったと安堵した。

 あのまま続けられていたら精神衛生上、非常によろしくなかったことは明白だし、朝の考え事思い出してしまう。冷水のシャワーを浴びて無理矢理にでも振り切ったというのに、思い出してしまっては台無しだ。

 ――嫌いというわけではないけど。

 ――好きと聞かれれば、ハッキリとは答えられない。

 ――なんだか、微妙だな。

 友人に会えることが楽しみなのか、それともフレデリカをからかったのが存外に楽しくて尾を引いてるのか、サイファーの表情は幾分か晴れやかそうだ。フレデリカとしては前者であることを祈りたい。

 ――でも、知らないことはいっぱいある。

 ――それはサイファーさんも同じのはずだけど。

 ――お互いが分かり合えていないのなら、そういうことには、まだ早いのかな。

 ならば今まで通りに付き合っていくことが最善だろう。

 関係の変化は嬉しいことばかりではないし、その必要性もない。だから今は一緒にいるだけという程度の関係に留めておいて、どうするかはゆっくりと考えていけばいいと決めた。女の勘、というものの存在にはフレデリカは懐疑的であった。

 だから人間関係には慎重であった方がいいかもしれない。

 今は急ぐ必要なんてないのだから。多分きっと、この先も。

「どうかしたか?」

 座高でさえ見上げなければならないほど高く、灰色のロングコートを纏った偉丈夫。伊達で格好つけたようなテンガロンハットの鍔から、銀灰色の瞳が見つめてくる。

 今自分が何よりも頼れる存在、サイファー・アンダーソン。

「いえ、なんでもありませんよ」

「……具合でも悪いのか?」

「そういうわけでは……ただ、これからもよろしくお願いします」

 サイファーは何も言わなかった。

 ただ無言でフレデリカの頭に手を伸ばして、無造作に撫で繰り回す。俗に言えば頭なでなでというもので、慰撫ともいうべきものであった。

 なんだか複雑だ。嫌ではないけれども、フレデリカにとっては素直に喜べない事情がある。

「あの、私これでも二十歳越えてるんですけど……」

「ああ、ちょっとお前さんが若くて可愛いモンだから……」

「それって遠まわしに私が童顔だと言ってるんですね? 一杯飲みたいと思ってクラレットを買おうとしたら、十六歳だと思われて一悶着ありましたけど…………」

「す、すまん。まさかそんな苦労をしてるとは思わなかった」

「いいんです、いいんですよ。だいたい年相応の見た目じゃないだけで、なんでこんな苦労をしなくちゃいけないんですか。見た目で若く見られても交渉事じゃなめられるし、私の年齢で年下に見られるって完全に十代の子供にしか見えないと言ってるも同じですよ。そうやって割を食ってばっかりで、良いことなんてひとっつもないんですよ」

 思い切り地雷を踏み抜いたらしい。

 フレデリカ・エインズワースはハイ・ティーンの少女である! と言ってもいいくらいに童顔だ。サイファーがもう少し老けた見た目だったら、完全に親子として見られるくらいに。二〇代後半くらいの外見年齢が幸いしてか、どう深く穿って見ても年の離れた兄妹として扱われるだろう。

 若く見られる苦労は理解しているし、ちょっとぐらいは慰めの言葉もかけてやれるかもしれないが、これも下手したら別の地雷を踏み抜きそうでやめた。案外、一か月近くもいれば、お互いの理解度も深まるかと思っていたが、そうでもないことをサイファーは痛感した。

 お互いにわかっていることなど、未だ数多く、衝突がなかったことが不思議だろう。

 すべては依存ともいえる二人の関係性ゆえに、フレデリカが何も言わない事だろうか。さすがにサイファーもいきなり下層に行くことになったのは、決して少なくない負担になっただろうという自覚はあるし、生存率を上げるためにも通用する武器を渡すために銃工の下に向かった。

 まぁ、結果は見ての通りであったが。悪癖のからかっての遊びも出てしまったわけではあるし。気を許した相手だと癖のように出てしまう、直しようもない悪癖であった。

 ただ久しぶりに会う下層に住む友人は立場が立場なだけに、こっちから会おうと思っても会えないことがほとんどだ。花屋のベンジャミン・アルバーティンが服用したという麻薬の件で、ワイアットの手伝いをしなくてはならない。親しい友人であると同時に、困った時には黙って手を貸してくれる男だ。ベアトリクスの件で暴れた時も揉み消すのに一役買ってくれた。別に表に出ると色々と厄介なだけで、フレデリカのためにやってあげたのではない。女のためにそこまでやってやるような柄ではない。

 そういうことだから恩は返さなければならない。友人関係を保つためにも必要なことだが、ワイアットは報酬も出すといった。断ったが『規定だからな』と言われて押し切られてしまった。それだけ切羽詰まるほどの事案だということか。

「到着いたしました」

 その声と共にガーニーが鉄格子の正門の前で止まった。

 豪華な屋敷だ。正確な面積はわからないが百人くらい一人一部屋与えて住まわせることなど造作もないだろう。煉瓦とモルタル造りだが使われているのは最高級品なのは間違いなく、薄暗いにもかかわらず育った色取り取りの花が咲く庭には、パッと見ただけで三〇人くらいのスーツを着た警備がいた。

 そのまま執事の案内でガーニーを降り、屋敷に通された。

 だだっ広いエントランスを通り、広い応接室に通された。調度品は芸術的な者ばかりであったが、それに混じって無骨な自動拳銃や小銃が飾ってあるのを身震いしそうになるのをフレデリカは何とかこらえた。

 それから十分ほど待っただろうか。

 サイファーは気ままに過ごしていたようだが、フレデリカは人生で一番長い一〇分間を味わった。口の中は乾くし、出された紅茶の味もわからなかった。きっと良い茶葉が使われていただろう。

 二人の男が入ってきた。一人は若い茶髪の男で、背中に帯びたトンプソン短機関銃を隠そうともしていない。見るからに悪人と分かる凶悪そうな顔つきで、背丈は一七〇センチ後半だった。フレデリカに好色そうな笑みを向けてウィンクしていたが、すぐにもう一人の男にブン殴られてよろめいていた。

 もう一人が問題だった。

 人間として失ってはいけない何かがないような、腹の底まで一気に冷える眼差しをフレデリカに向けた。ハイライトのない瞳と言えばいいだろうか。黒髪の男で女子供が一発で泣くかへたり込みそうな顔つきで、背丈は一八〇センチ前半くらいだ。仕立ての良いスーツを着て、人をブン殴ったばかりなのに切り替え早く優雅に座った。

「久しぶりだな」

「シノギが忙しいと僕と会う暇もないのか?」

「これでも予定を無理やり開けたんだ」

「お前さんもワイアットと同じだな。忙しさのせいで険しくなっているよ」

「ファミリー一つ支えるには、並大抵の苦労じゃあ済まない」

 二人は立場が対等らしい。

 サイファーは一介の実力行使請負業を名乗る荒事屋で、相手は豪邸に住む男なのに、あくまでも親しげに対等の言葉遣いで話し込んでいる。若干、サイファーの方が立場が上のようにも見えたが。

「君のことは聞いているよ。フレデリカ・エインズワースだったかな。初めまして、ジョン・デリンジャーだ。このデリンジャー・ファミリーを取り仕切る立場で、ここ一帯の商業全ての元締めだ」

「ふ、フレデリカ・エインズワースです! は、はは初めまして!」

「下層のギャングにマフィアは、デリンジャーの傘下だよ」

 とんでもない男だった。

 中層も治安が良いか悪いかと言えば、結構悪い方に入る。だが一線を画する下層の荒事や非合法活動にギャングたちを取り仕切るとは。だから温もりを一切感じない、あのような眼差しになるのかもしれない。

「ひとまずは葉巻でもどうだ」

「おお! 最近吸ってないんだ」

「彼女に気遣って、か?」

 サイファーは何も言わず、一本葉巻を摘まむ。デリンジャーは何も言わなかったし、無論咎めることもなかった。そのまま差し出された長軸マッチで火をつけると、ぷうっと紫煙を吐いた。デリンジャーも同じように一服する。

 若い男の方がフレデリカにも勧めたが、やんわりと断った。喫煙したことは一切ないし、これからすることもないだろう。恩師であるバベッジも『煙草は苦しみを煙に巻いてくれるが、吸い過ぎは自分も煙に巻く』と語っていた。

 サイファーが喫煙者なのは知っているが、自宅で吸っているのは稀だった。だいたいは自分の部屋で吸っていたり、外出先で吸っているのだろう。ベッド脇の小さなテーブルにある灰皿に吸殻が有ったり、愛用の灰色のロングコートには煙草の臭いが染み着いている。

 フレデリカの前で吸うことはほとんどなかったのだ。

 優しいのか、天邪鬼なのか、気遣い一つに気付く度にわからなくなってしまう。

「ベンジャミン・アルバーティンのことなんだが」

「深刻そうだな」

「わかるか?」

「眉間のしわが、いつもより多く見えたからね」

 困ったようにデリンジャーは頭を掻いた。組織の長たるものであればポーカーフェイスは必須なのかもしれないが、普段は不敵な笑みを浮かべているサイファーには見抜かれていた。別段、そういう能力があるわけではなく、ただ親しみのある友人の異変には目敏く気付いたということだろう。

「あいつは俺の女の一人に手を出した。相当ひどく犯られたらしくてな。行為の内容とベンジャミンへの罵詈雑言を綴った遺書を残して、口に銃を突っ込んだ。四五口径だったのか顔はほとんど残っていなかったよ」

「個人的な感情もあるだろうがメンツも関わってくるな。デカいファミリーのボスが自分の情婦に手を出されてぞんざいにされた挙句、情婦が自殺しちまったとなれば威信にかかわるぞ。早めに報復するなり、手を打つべきだ」

「もう殺し屋は差し向けたよ。俺の女に手を出す前から、ベンジャミンはたくさんの女を囲っていたらしい。噂じゃヤバい薬をやってるともな。そこそこの腕利きを差し向けたはずだったんだが…………」

「返り討ちにされた?」

 ずん。

 空気がそんな音を立てて圧し掛かった。

 首をかしげて聞いたサイファーに対し、若い男が莫大な殺気をぶつける。一人分ならまだいい。それが部屋の取り囲むように少なくとも三〇人分もまとめて、バンと音がしそうな強さでぶつけてきたのだ。

 フレデリカはここで、自分がデリンジャー・ファミリーという一つの巨大な怪物の口の中に飛び込んでしまったことに、たった今気づいたのだ。全身を冷汗が包む。恐怖で叫び出したくなるのを必死になって抑え込む。それは本能的な恐怖だ。

 恐れを見せた瞬間に、間違いなく喰われる。

「よせ」

 その声で殺気が一斉に鎮火した。

 デリンジャーの一喝で、今にも飛び掛かりそうだった若い男は部屋の隅に退いた。

「その様子を見る限り本当らしい」

「精神処置を受けさせておいたのに、自宅で明らかに自殺と分かる状況で死んでいた。ワイアットの頭を悩ませているヤクの件で手伝ってほしいなら、俺の頼みも聞いてくれ。」

「いいさ、ギブ・アンド・テイクだ。僕の専門な気がしてならない」

「ここから一番近い所のホテル、その最上階の”特別なスイート”を取っておいた。しばらくはそこを使ってくれ」

「僕のアレは置いてあるのか」

「案内する」

 立ち上がって歩き出した二人に遅れないよう、フレデリカも駆け足気味に追う。サイファーはともかく、デリンジャーも長身の部類に入るせいで歩幅の差は決定的だ。身長が一六〇センチちょっとしかないフレデリカでは追いつくのも大変だが、サイファーは部屋を出てから歩幅を合わせて歩いてくれた。

 来た道を戻ってエントランスから外を出て、外の庭を通って着いたのはガレージだった。

 多種多様な蒸気自動車ガーニーが選り取り見取りで並んでいる。流線型をした速度を追求したモデル、車内を広くとったフレデリカたちが乗ってきたタイプ、装甲を施しブローニング重機関銃を搭載した戦闘用モデル。まるで見本市と言っていい四輪車たちの中に、一つだけ異彩を放つものがあった。

 それは鉄の馬だった。複雑に絡み合うパイプの中に蒸気機関と思わしきエンジンがあり、タイヤは二つしかない。市民の足として自転車はそこそこにあるが、エンジンを搭載したものは存在しない。乗員の安全性を考えた結果、危険すぎるという理由で動力二輪車の開発はなかった。だとすれば存在しないはずのものが、目の前にある。

「アインへリアル社製、蒸気式動力二輪車スレイプニール。最高速で乗りこなせる人間は下層でも珍しい。加えて数式機関式の加速装置まで仕込んであるとは、とんでもない暴れ馬だな」

「こっちの方がガーニーより好きなんだ。フレデリカは後ろに乗ってくれるか?」

 もうサイファーは座席に跨っている。

 久しぶりの乗るせいだからか、見るからに楽しそうな顔をしている。

 フレデリカだと跨るのも一苦労だし、風で膝下丈のスカートが捲れないように気を付けながらサイファーの後ろに陣取った。でも少しだけ不安定な気がしてならない。

「あの、あなたに掴まってもいいでしょうか?」

「いいぞ」

 快い返事が返ってきたので、背中から抱きしめるように掴まった。腕を腹に回したとき、大きな体が震えた気がしたがフレデリカは気に留めなかった。

 サイファーは不意に来た背中の感触に反応してしまった。オーバー九〇センチの爆乳が、思いっきり形が変わるくらい背中に押し付けられている。女性関係が一時期爛れ切って千人切りなんてレベルでは済まない彼でも、ご無沙汰が長いこと続けば爆乳一つでも身じろぎしてしまう。

「それで、どちらに向かうんですか?」

「あー、さっきの銃工のところさ。多分、もう完成してるんじゃないか?」

 なるべく内心の動揺を出さないように、サイファーは落ち着き払って答える。

 ちょっと早すぎるような気がしないでもないが、そんなことなどお構いなしにサイファーは二輪を発進させた。体格相応の三メートル近いモンスターマシンを器用に駆って、アーカム下層の薄暗く無音の住宅街を疾走する。

 途中、食人者たちの集団と出くわしたが、道の脇に積まれていた木の板と木箱をジャンプ台替わりにして五メートルも飛んで振り切った。

 本日二回目の銃工の家の前だ。

 フレデリカの双眸はさっきまではあった障壁が消え失せていることに気付く。おそらくは今度こそ入店できるはずだ。マホガニーと思わしきドアを取り付けられたノッカーで叩く。

 何の仕掛けもないのにドアがひとりでに開いた。

 サイファーはずかずか入っていったが、フレデリカは恐る恐る歩みを進める。

「ホーレス・カーター! なんでさっきは開けなかった」

「ごきげんよう私はホーレス・S・L・カーターだ。君がここに来たのは何のようかな? 件の少女だけを寄越せと……言った覚えがあったようで全くないな」

 言葉では言い表しがたい丸メガネで初老の男が、銃を所狭しと並べた店内にいた。

 なにか物凄い違和感をひしひしと感じるのだが、その正体にフレデリカは気付けないままだ。黄金の双眸は彼に何の反応も示していないし、他に変わった点があるとしたら右手が普通よりも二倍以上は長い、絶えず蒸気を噴き出す鋼の腕であった。

 彼こそがサイファーの巨銃を組み上げた男、ホーレス・S・L・カーターであった。

「おお、実に見目麗しいお嬢さんだ。縞瑪瑙の城から家出してきた、とんでもないお転婆姫のようだ。だが君の居場所は別にあるようだから、彼女ではないようだなぁ。このお嬢さんの銃はそこのケースに置いてある」

 ホーレスの鋼鉄の指がカウンターの上にある金色のケースを指さした。隣には黒いケースが置かれている。

 サイファーは動かなかった。だからフレデリカが動いた。

 これから自分が使う得物だから、開ける権利は自分にあるし、義務もまた然りかもしれない。意を決して留め具を外し、蓋を開け放った。

 二挺の銃が鎮座していた。

 一つはマウザーC96をベースにしたのだろう。全長は四〇〇ミリ近い。グリップを握り込むと、パズルのピースがかちりと填まるようにしっくりとくる。弾倉は再装填を重視した着脱式で、銃身は放熱を効率的に進め、フルオート射撃による反動を抑えるために肉厚になった上にバレルウェイトも兼ねた放熱ジャケットが装備されている。そこには『All In One』と刻印がされている。

 もう一つはコルトM1911がベースであった。こちらも全長が四〇〇ミリ近い。握りやすさを重視したのかシングルカラムだが、装弾数の確保にエクステンド・マガジンを使って対応していた。スライドは激しい動作を考慮してか肉厚強化され、銃口には格闘専用のごついスパイクのついたコンペンセイターが装備されていた。こちらにはスライドに『One In All』と刻印されていた。

 黒い革のケースには二挺の弾倉が収められていた。『All In One』と刻印された銃用の着脱式二〇連弾倉と、『One In All』と刻印された方の十二連発弾倉に三〇連と思わしき円筒弾倉ドラム・マガジンまで。正直、ここまでの代物が出来ているとは露ほども思わなかった。

「気に入ったか?」

「少なくとも、お前の銃よりは長く手間暇かけて製造と組み立てと調整をしている」

「この気狂い性差別者め。この借りはきっちり返してやる」

「私のどこが気狂いなんだ」

「……ああ、そうだったな。お前はそういうヤツだったよ」

 デカい図体でちょこんと両手を上げるホールド・アップ。お手上げの合図だった。

 今までフレデリカの会ってきたサイファーの知己は、忘れがたいほどに個性的であった。だが目の前の銃工は常軌を逸していた。先ほどまで会っていたジョン・デリンジャーでさえ、まだマシな方に思えるくらいに。

「手に……すごくよく馴染みます」

「当然だ。お嬢さんの身体に合わせて作ったんだ。だが体の置き差がよくわからんかったのでな、さっき来た時に調べ上げさせてもらったよ。身長は一六一センチ、スリーサイズは上から九五、五六、八五だったか。足のサイズは二四センチ。体重は……」

「うわあぁぁぁぁぁぁぁ!」

 いきなり慎重にスリーサイズに足の大きさまで、一気にバラされた。

 彼の言ってることから、先ほど来た時に家の中から見ていたのだろうか。いや、あのときフレデリカの黄金の瞳は、家一軒を世界から隔絶し、一つの世界として成り立たせる障壁を捉えていた。これで銃工ホーレスにまつわる謎が、もう一つ増えてしまった。

 ただ渦中の本人はサイファーの鉄拳を脳天にもらって、苦悶の表情を浮かべていたが。

 それも気にならなくなるくらい、手に取った二挺はよく馴染む上に軽い。だが金属には疎いフレデリカが指でなぞっただけでも、スライドや銃身の合金が普通とは一線を画するほどの強度を有していることはわかるのだ。

「これは……素材はいったい何を? 普通の金属にしては、やけに軽い気がします」

「ズーグ族の住まう魔法の森から出る湧水で鍛えたタングステンとチタンの合金に、主要な機関部にはレン高原から採取した鉱石で作った特製の鋼を使い、グリップパネルの木もレン高原にそびえる木々の中から百メートルを超えるものを選別して一から削り出した。おかげで弾丸は中層や本土の市販品でも、弾頭や装薬の構造を変性させて下層用の威力へと引き上げる。これからの一生でもこれだけのものは二つと造れん。『全にして一All In One一にして全One In All』なる至高の二挺だぞ。まったく女のために重労働させて、三か月は夕映えの都で休ませてもらおうか」

 フレデリカの内を未知と混乱が埋め尽くす。

 聞いたことのない地名に種族。にもかかわらず感じた既視感が激しく揺さぶってくる。知らないはずの単語なのに、どこか聞き覚えがある。

「大丈夫か?」

 不意に肩を叩かれた。サイファーの大きく、たくましい手だった。

「顔が青いぞ。まさか……カーターの言うことに覚えがあったか?」

「……はい、知らない単語なのに、どこか聞き覚えがあって…………」

「僕も初めてはそうだった。何度も疑ってかかったことがあったが、カーターのヤツは狂ってるからな。たった五分間の間でも言動や記憶が安定しない。銃を作ってやった人間なら、きっちり覚えてるんだが」

 今になって思い返せば、義理の両親から自分がどうやって養子になったのか、その経緯を聞いていなかった。幼少期から祖父に引き取られるまで、いつも気難しげになっている両親の機嫌を損ねないように振る舞ってきた。

 それでも愛情は欠片もなかったし、それどころか関心さえなかった。

 だから、カーターの言葉に既視感を感じた時、今更な話だが出生を知りたくなってきたのだ。この狂気なる銃工がいかなる人生を送ってきたのか、そこに出生のヒントがある。そう思ったっ時だった。

 視界が一瞬で白く染まった。

 フレデリカは銃工の店にいなかった。彼女は全く別の場所に立っている。

 そこは草木の茂る高原。風が吹き抜けては木々に草原を揺らす様は現世と変わらないが、ここが確実に現実の世界ではないとフレデリカは断言出来た。彼女は一種の視界となっていた。人が夢を見ることに近い、何の感情もなく全てを見つめるだけの視点だった。そのせいか経っているという感覚が信じられないほど希薄で、感じるはずの風も触覚による情報は伝えてこなかった。

 ふと空を見上げれば像ほどの巨体に、カバに似た鋭い牙をはやした頭の怪物が飛んでいる。

 ――あれは、シャンタク鳥。

 ――ここはレン高原か。

 何の疑問もなく『シャンタク鳥』という言葉が出た。あの飛んでいた怪物の名前だと、当然のようにフレデリカは理解していた。

 一人の男が百メートルを優に超える巨木を、蒸気を噴き出す鋼の腕の膂力に任せて切り倒していた。見覚えが確実にあったけれど、どういうわけか名前が出てこない。まるで脳内の情報が混線して、パンクしてしまったようで。

「カーター……さん」

 口から言葉が出た時には、銃工の店だった。

「……フレデリカ?」

 心配そうに顔を覗き込むサイファーと目が合った。未だに視覚以外の感覚が鈍っている中、宙に浮いたようになっている意識が戻っていく感覚がした。

「あの……なんか、急に草原の中にいて。その……色々あって」

「その子の目に気を付けろ」

 カーターが生身の指で、黄金の双眸を指さしていた。

「それは数多のまやかしの夢を見通し、真実の夢の極点さえ見つめれる黄金の力を宿している。欲しがる人間は多いぞ? さっきは私の夢と一時的につながってしまったようだがな」

「忠告ありがとう。お前も気を付けるこった」

 そのままフレデリカの手を引いて、店を足早に出た。

 蒸気二輪に跨る前に弓にフレデリカが道に、ぺたんとへたり込む形で倒れてしまった。意識はしっかりしているものの、体に力が入らない状態で、口はひたすらに「すいません」とか細く謝罪を繰り返す。

「いいか、気をしっかり持て。ゆっくり息を吸ったら、少し止めて全身を回すようにイメージしろ。回し終わったら、ゆっくりと吐き出すんだ」

「…………はい」

 正直言ってしまえば、呼吸する事さえきつい。全身の生命活動を行うための気力が根こそぎ奪われたようで、あらためて覗いてしまった場所が常識の範囲外であったことを痛感した。

 おまけに何とも言えない気持ち悪さが全身を駆け巡り、目を開けている事さえ非常に困難だった。ややもすれば、意識が闇に落ちていくような気がして、そうはさせまいとフレデリカは必死にサイファーから言われたことを行った。息を大きく吸い込んで、止めたら全身に回そうとイメージする。何かが全身を巡っていく感覚がして、不思議なことに脱力感も気持ち悪さも抜けていった。

「立てるか? ゆっくりでいい」

「な……なんとか」

「少し休めば動けそうだな」

「す、すいません」

「気にするな。いざとなったら僕が全部やる」

 任せろ、と言わんばかりの笑顔を向けた。

 こうやって人をからかったりせずに、時折クールでシニカルに笑う姿は一切の誇張なしに男前と言っていい。フレデリカも十分に好感が持てると思うし、ヘンリエッタはビジネスライクな付き合いだが少しは見直すかもしれない。

 やはり人間というものはバランスだ。完璧超人と言えるような人間をフレデリカは知らない。欠点というものは誰だって持っているし、どうしようもないくらい直しようがないものは才能が存在しないのだろう。ただフレデリカは人を相手に引き金を引けるか、その自信がなかったが今はそんなことは全くない。戦いに身を置けるかどうかも心配で、気が気でなかったが結局は順応してしまっている。要はなんでもやってみることが大事なのかもしれない。

 だが今回見てしまったものの影響は深すぎた。

 しばらくは眠って夢を見るのが怖くなってしまいそうだ。そうしてしまったら、またあの世界に意識が飛んで行ってしまうかもしれないから。あの世界の風景はどこか綺麗で懐かしいようで、そして二度と願い下げだった。

「そういえば何をやるんですか?」

 フレデリカは何も知らずに聞いた自分を責めるだろう。

 サイファーが不敵な笑みに邪悪さを混ぜた時から。

「デリンジャーの女に手を出した、大馬鹿クソボケ身の程知らずのヤクチュー花屋をハチの巣にした後、死体のケツ穴からジャガイモと人参と玉ねぎが出てくるように取り計らうのさ」


 ――どうしよう。

 ――口がすごく悪いうえに、

 ――とてもキナ臭い仕事だ。

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