第12話 魔砲、開戦
『お前、強いな?』
後に親友となる少年――クオンへと掛けた初めての言葉は、そんなものであったと記憶している。
まだ幼かった頃、コオヤは強者に飢えていた。正確には、自身の全力を振るえる機会に、である。
強大な力を持てば、多くの人間は大なり小なりそれを使ってみたいと思うだろう。それは彼とて例外ではなく、しかし強すぎるその力を振るえる場所など、当たり前の日常の中には存在しなかった。
当時ですら彼は音を超えて走り、家屋の一つ二つならば拳で粉々に砕ける程の力を持っていたのだ。スポーツでも喧嘩でも、彼が本気を出せば争いとすら呼べない結果になったのは言うまでもない。
例え戦場の真っ只中に放り込まれたとしても、容易く生還するだろう。故に彼は全力でその力を使うことなど出来ず、ただただストレスを溜めるはめになっていたのだ。
今の彼であれば、ある程度は抑え流すことも出来たのだろうが、まだ幼い彼はそこまで精神が育っていなかった。力を振るえない苦しみにどうしようもなく振り回され、狂犬のように戦いを求める日々。
そんな、荒れ果てた彼はある日目にする。眠そうにぼーっとしながら歩く、一人の少年の姿を。
自分と同じ年頃であろうその少年は、単に見た目で言うならば、特別強くは見えなかった。どころか弱そうと言っても良いだろう。
白い髪や整った顔は人目を引くが、身体は平均的な子供のもので、大柄でもなければ筋肉が特別付いているようにも見えない。欠伸をし、だらけて歩くその姿には、とても戦える者の雰囲気は存在しなかった。
けれどコオヤにはすぐに分かった。あるいは感じた、と言うべきか。彼を視界の端に捉えたその瞬間、脳内に今までに無いほどに強い警鐘が鳴り響いたのだ。
――奴は、強い。直感が捕らえた強者の気配。歓喜し、戦いに飢えたコオヤは迷うことなく声を掛けた。
そうして舌なめずりする彼に返って来た答えは、ありていに言えば『断る』、というものであった。
しかし当然それで諦めるコオヤではない。すぐさま気を取り直すと、今度は力技だとクオンへと襲い掛かったのだ。問答無用の奇襲攻撃。しかしその全てを、クオンは軽くいなし、捌く。
呆然とした。確かに全力ではなかったが、それでも本気の攻撃だった。その全てを容易く対処する存在――思わず、獰猛な笑みを浮かべる。
やっと出会えた、と。自身の全力を振るえる存在をやっと見つけた、と。心の底からの喜びと共に、今度は全力で以って襲い掛かる。
そんな彼に欠伸一つ、流石に無視も出来ないと判断したのか向き直るクオン。そうしてようやく、戦いが始まって。
――コオヤは、敗北した。
~~~~~~
「…………」
無言のまま、走り続ける。家々を跳び渡り、朝を迎えたレンタグルスの街を駆け抜けるコオヤは、その脳裏に親友との出会いを思い浮かべていた。
惨敗だった。もはや戦いとすら呼べない、呆気ない決着。自分の力に何処までも自信を持ち、世界中の何よりも、誰よりも強いと思っていた自分は、その時ようやく気付いたのだ。世界には、己よりも強い者も居る、と。
ただ、だからと言ってそんな自身を超える強者がそこら中に溢れているか、というとそんなわけもなく。今までに出会ったのは、クオンを入れてもたったの二人。
だからこそ、コオヤは焦っていた。今まさに向かっている宮殿に居るであろう、魔導戦将レスト。彼が自身よりも強いかもしれないと、そう感じてしまったことに。
ありえない。あってはならない。そう簡単に居るはずがないのだ、自身を超える強者など。あるいは、奴一人だけであればありえるのかもしれない。だが奴は『六戦将』。単純に考えれば、同等の実力者が後五人存在することになる。
(そんな馬鹿なこと、あってたまるか!)
ぎり、と音がする程強く歯噛みする。この世界よりも強ければ問題ない――そう考え、エルフ達を助け、この世界の常識に反抗した。彼等の側に付いていれば、もっと面白い戦いが出来るのではないか――そう考え、エルフ達に協力し続けた。
だがそれらは全て、自分の強さへの絶対的な自信と信頼があってこそ。しかし今、それは根底から覆されようとしている。
もしレストが自身よりも強ければ、この世界には最低六人、己よりも強い者達が居るということ。そしてその全てが、今の自分にとっての敵――即ち人間側。
誰がどう考えても、コオヤに勝ち目などない。踏み潰され、打ち倒されるのが落ちだ。そしてそのことは、コオヤ自身も自覚している。
だが分かっていても尚、彼は闘いへと向かう足を止めることは出来なかった。例え愚かでも、彼には意地があったから。
(それが馬鹿なことだとは分かっている。だが俺は、それを、それでこそ良しとする。これは性分だ。変えられない、俺の底から突き立ち刺さる俺自身だ。相手が自分よりも強いかもしれない? 負けるかもしれない? そんな理由で逃げたりすれば、俺自身が折れちまう)
想像する。これまで保って来た意地が、砕けてしまう瞬間を。その時の、自身の姿を。
――何て情けなくて、醜い。
そんな姿には成りたくなかった。例え命を失うことになっても、そんな己を晒す位ならば、死んだ方がましだと思った。
だから走り続ける。イリアを取り戻す為、そして何よりレストを倒し、自分というものを維持する為。
けれど彼も人間で。死んだ方がましだとは思っていても、死にたいなどとは思ってはいない。だから認めない、レストが己よりも強いなどと。そんなわけは無いと、まるで祈るように、願うように繰り返し――コオヤはただ真っ直ぐに、街を駆け抜けて行った。己の弱さを、振り切るように。
~~~~~~
「ふむ」
パタン、と小さな音を立てて本を閉じる。分かっていたことだがたいした収穫もなく、落胆の滲む溜息を吐いた。
「あの……」
と。次はどの本を読もうか、と悩んでいた彼――レストは、横から掛けられた声に目を向ける。そこには律儀に姿勢を正し、椅子に座る美しい褐色の少女――イリアの姿があった。
「どうしたんだい? ああ、トイレならそこの扉を出て右の通路を行った先だよ」
「え、此処を出ても良いんですか?」
「何、すでにこの辺りには魔法が掛けてある。逃げようとしたところで、無駄なことだよ。いつの間にか、この部屋に戻ってきてしまうだけだ」
「そう、ですか。って、そうじゃなくて!」
思わず大声を出してしまったイリアに、レストは怒ることもなく目を瞬かせた。
「ん? では、何かな?」
「……何故、私の魂が欲しいんですか?」
「ふむ」
その言葉に、レストは軽く彼女へと向き直る。彼をじっと見詰め、意を決したようにイリアは切り出した。
「私は、はっきり言って特別なものなんて何も持っていません。魔法は得意ですけど、それも他のエルフ達とそう変わるものではありません。そんな私なんかの魂を、何故貴方程の人が欲しがるのか。それが、どうしても分からないんです」
「成るほど、最もな疑問だ。ならば教えてあげよう」
「良いんですか?」
驚いた。てっきり、適当にあしらわれるとばかり思っていたのだが。
「別段、隠すことでもない。それに君も知っておきたいだろう? 何せ自分の魂が取られるというんだから」
彼の言葉に、思わず俯きぎゅっと手を握り締める。魂を取られる――どうしようもないと分かっていても、そう簡単に覚悟出来るものではない。
しかしイリアの心など気に掛けることもなく、どこまでも淡々と、レストは語りだす。
「私は、ある魔法を研究している」
「ある魔法?」
「ああ。私の魔導の全てを掛けて、唯ひたすらに高め、追求し続けている魔法。それこそが、私の生きる意味、理由と言ってもいい。だが……」
「だが?」
「実は最近、行き詰ってしまっていてね。無論、そう簡単にいくものでないのは分かっているのだが、それでも今までは少しずつでも進展があった。しかし此処数年は全く、そうほんの僅かにさえ、進まなくなってしまったんだ」
「それと私の魂と、どんな関係が?」
「必要なのだよ。その行き詰ってしまった魔法を、より高める為に。君の魂が、ね」
「そんな……そんなに私の魂は、特別なんですか?」
「いや。君の魂は他の大多数の者達と然して違いのない、ありふれた魂だよ」
「あ、あれ?」
思わず椅子から転げ落ちそうになる。わざわざ自分を指定して浚ってきた上にああまで言っておいて、特別ではない?
意味が分からず首を傾げるイリアに小さく苦笑し、レストは口を開く。
「君は知らないことかも知れないが、一部の特異な例を除けば、個々人は勿論人間もエルフも……その他のあらゆる種族も、魂にほとんど違いはない。それこそ豚や牛のような獣や、虫でさえね」
「そう、なんですか?」
「ああ。しかし同時に、全く同じ魂というものが存在していない、というのも事実だ。大半の者達にとっては蟻の顔を見分けるが如き至難さだが、私のような高位者ならばその違いを認識することが出来る。最も、認識したところで何の意味も持たない程、それは瑣末な差異だが。そう、普通ならば、ね」
「で、でも貴方は……」
「言ったろう? 普通ならば、と。私の魔法は、既に非常に完成された段階にある。きっとあの魔法を見れば、誰もがもうこれ以上は無いと言うだろう。それこそ魔法を得意とする君達エルフや、天才と呼ばれる人間とて例外なく。しかしね、私はまだ満足していないんだ。きっとこの魔導の探求に終わりはない、そう感じている。だから、より高めたい。より完成させたい。そしてその為には、先程言ったようなほんの僅かな差異でさえ、必要となる。それ程の領域に、私の魔法は到達しているのだ」
「それで、私の魂を……」
「ああ。……あの夜、いつも通り自室で魔法の研究を行っていた私は、ふと妙な力の波動を感じた」
あの夜、とは数日前。イリアが奴隷競売に掛けられた時のことである。
「別段たいしたものでもなく、無視しても構わなかったのだが――行き詰った研究に気分転換を求めていた私は、試しにと魔法でその場所を覗いて見たのだ。その場所、競売場では何やら戦いが行われていたが――まぁ、それはいい。大事なのはその時視界の端に映った一人の少女。つまり」
「私、ですね」
「そうだ。君を見た瞬間、理解した。その魂が、私の魔法の研究を進める為に必要なものだ、と。それから改めて研究の道筋を立て、準備を整えて……ようやく君を迎えに行けた、というわけだ」
語るべきことは語った。そう言わんばかりにイリアから視線を外し、新たな本を手に取るレスト。しかし彼女には、まだ疑問が残っている。
「では、どうして今すぐに私の魂を取らないのですか? 準備は、整っているんですよね?」
「そうだね。しかし、完全ではない。事前に出来るだけの準備はしておいたが、改めて君を手元に置いてその魂を完全に把握した上で、更なる調整を加える必要があるんだ。今はその調整段階、というわけだよ」
「でも、そんな作業をしているようには見えませんけど……」
「だろうね。実際、私自身は既に何の作業もしていない」
「え?」
訳が分からず首を捻れば、レストはきちんと説明してくれた。
「君の魂の完全把握事態は、実際に君と接触した時点で出来ている。調整に関しても、改めて入力した情報に従い、専用の魔法が勝手に行ってくれる。ただ、それが完遂されるまでには、いささか時間が掛かるものでね」
「時間……」
「そう。早めることは可能だが、せっかく手に入れたチャンスだ。無駄に焦らずに、万全を期しておきたい。時間は幾らでも余っていることだし、ね。故に少々時間が掛かる」
「それは、後どれ位……?」
「そうだね……丸一日、は掛からないか。明日の夜明け頃には、おそらく終わるだろう」
つまりそれが、己の命のリミット――終わりを察し、イリアの表情が暗くなる。しかしそんな彼女をまたも無視して、まるで王城の謁見の間のように広いこの部屋の玉座に座るレストは、遠く離れた入り口の扉へと向かって声を掛けた。
「で、君はいつまでそこで盗み聞きしているつもりだい?」
今日の夕食を母に聞くような、そんな無造作な気安さで放たれた問いに、訳が分からずイリアは首を傾げた。そうして向ける視線の先で、人の二倍はあろう大きさの両扉が左右にギィィ、と古めかしい音を立ててゆっくりと開く。
「ばれてたかい。ま、当然か」
「え……コーヤさん!?」
ゆらりと姿を現したのは、黒い学生服姿の少年――即ちコオヤであった。彼は悪戯が見つかった悪ガキのように肩を竦めると、ポケットに両手を突っ込んだまま、静かに立ちつくす。顔には、いつもの余裕の笑み。
だが、イリアは感じ取っていた。いつも通りであるはずのその笑みの、かすかな違和感。それはまるで、何かを覆い隠す為のような――
「あんたが噂のレスト、か?」
「ふむ。どんな噂かは知らないが、六戦将の一員ということならば私のことだよ。あるいは、魔導戦将とも呼ばれているね」
「そうかい、なら間違いねぇな。ま、そんなもん聞かなくても、分かっていたことではあるが。念の為ってやつだ」
「おや、私は君と会ったことは無かったと思ったが」
意外そうな声を上げるレストに、コオヤはまるで吐き捨てるように、
「はっ、顔を見たことがなくても分からぁな。この宮殿の一番奥に居ること、イリアと一緒に居ること……そして何より、その力。感じるぜ、そこらの奴とは比較にならない、たいした力だ」
「成るほど。それでそこまで分かっていて何故、君は此処に来たのかな? 確か君はあの夜、エルフを助けに動いていたはずだ。つまり人間、いや正確に言えば帝国とは敵対側。此処に乗り込んでくるのは、自殺行為だろう?」
「自殺行為とは。随分と見くびられたもんだな、俺も」
意見を一蹴するように鼻で笑い、ポケットから出した右手で真っ直ぐ指を指す。その先には、一人の少女。
「そいつを、イリアを奪い返しに来た」
「そんな……コーヤさん、どうして」
彼が此処に来た時点で、その可能性は予測出来ていたことではあった。それでもこうして直に伝えられれば、どうして、と思わずにいられない。
以前自分を助けてくれた時とは状況が違う。何せ浚った相手は、あの魔導戦将なのだ。諦め、無視するのが最善であり、それ以外の選択肢などありえない。
「どうして? おいおい、お前も俺を見くびってんのか? どうしてもこうしてもねぇ、ただ俺は、浚われた友人を取り返しに来ただけだぜ」
「友、人?」
「なんだ、お前はそう思ってなかったのか? ま、お前がどう思っていようと、俺はかまわんがね。だがまぁ十日にも満たない間とはいえ、寝食を共にしてそれなりに話もした、親しくなった。なら十分に友人、と呼ぶには足ると思うんだが……そこんとこ、どう思うよ?」
「私に聞かれたところでな。あえて答えるのならば、全ては本人達の心次第、ではないのかな?」
「違いない」
まるで無理やり場を明るくするように、空気を軽くするように。コオヤは肩を竦め、笑った。
そこにやはりどうしようもない何かを感じて。イリアは胸の奥が締め付けられた気がした。
「しかし成るほど、友人を取り返しに来た、か。立派なことだ。だが、返すわけにはいかないな」
「だろうな。さっきまでの話を聞いてりゃ、交渉でどうにかなるもんじゃないってのは良く分かったよ。ところでよ、俺も一つ聞いて良いか?」
「おや、ここに来て質問とは。一体なんだい?」
唐突な問いであったが、レストは答えてくれるらしい。存外気の良い人間なのかもしれない。
「いや何、イリアの魂を抜き取るってのも、魔法の研究に使うってのも分かったが、具体的にはどう使うのかって思ってな。気になることを残したままってんじゃあ、どうにも調子も上がらない。教えてくれると助かるんだがよ」
「ああ、そのことか。何、別段難しいことでもないよ。ただ、私の魔法に組み込むだけさ」
「組み込む?」
「ああ。そうすることで、魔法の性能を上げることが出来るんだ」
彼の答えに、意外そうな声を出したのはイリアだ。
「え、それだけ、なんですか? それじゃあ、研究の為に必要というのは……」
「それは要するに、行き詰った魔法が僅かに進展することで、そこから更に研究を進める新たなきっかけになるかもしれない、という話だよ。実際、君の魂を組み込んだ所で上がる性能など、億分の一……どころか、那由他の一つにも満たない程度でしかない」
「そんな程度の成果の為に、他人の魂を奪うのかい」
「そうだ。そうするだけの意味が、価値が、そこにはある。私にとってあの魔法を高めることは、それ程に重要なのだ。故に、彼女を返すわけにはいかない」
「成るほどね。良~く理解した」
鷹揚に頷くコオヤに、今度はレストが問い掛ける。疑問というよりは、挑発的に。
「ならば、どうする?」
「決まってる。力尽くで――貰って行く!!」
言葉と共に拳を握りしめる。コオヤの全身に、力が漲った。臨戦体勢を取り、いつ襲い掛かってきてもおかしくない様子の彼を前にレストは、
「愚かな選択だ。ならば私も、力尽くで君を排除しよう」
静かに椅子から立ち上がると、その背に十にも及ぶ数の魔方陣を出現させた。
互いにじっと見つめあう。ただそれだけで、溢れた力がぶつかりあい、周囲の空間を軋ませる。
「「「…………」」」
無言。向かい合う二人は勿論、後ろで見るイリアもまた、周囲に満ちるあまりの圧迫感に口を開くことが出来ない。しかしそれでも何とかコオヤを止めないと、と説得の言葉を口にしようとした、その時。
「っ!」
状況が、動いた。行動は全くの同時。背後の魔法陣から巨大な砲撃を放つレストに対しコオヤは、ただ真っ直ぐに踏み込んだ。
「らぁっ!」
己に迫る十の砲撃。一つ一つが人一人を飲み込む程の大きさのそれを、しかしコオヤは恐れない。引き絞った右腕を解き放ち、迎え撃つ。
轟音が響き、コオヤの拳と衝突した一本の砲撃が相殺され消え失せた。残り九本。しかし実際に当たるのは、精々二本といったところか。
元々発射箇所がそれ程離れているわけでもなければ、大きく発射タイミングをずらしたわけでもないのだ。砲撃自体の太さも相まって、ただ目標に撃っただけでは、互いに衝突し合い消えてしまう。
その為砲撃の大半は、逃げ場を塞ぐようにコオヤの周囲へと向かって放たれていた。故に、無視する。
「はっ」
蹴撃一閃、二本の砲撃を纏めてなぎ払う。そうしてまた駆け出そうとしたところで、
「甘いよ」
更なる砲撃が放たれた。咄嗟に跳び、かわす。だが、すでに続く砲撃は放たれている。
「っち!」
絶え間なく連射される魔砲撃。それらを地を走り、空を駆け、或いは迎撃し、捌いて行く。この部屋が驚くほど広かったのは幸いだろう。でなければ、空間の全てが砲撃で埋まっていただろうから。
(ま、そんときゃ邪魔な壁を全部ぶち壊すだけだがよ)
襲い来る幾多の光条を避けながら、隙を窺う。だが、凄まじい連射性能と速度で放たれる攻撃に、容易く付け入る隙は見えない。
(それに、威力も中々のもんだ。ただ、その割りには破壊規模が小さすぎるが……これも魔法の効果ってやつかね)
広間の中は乱射された砲撃によって次々と破壊されていってはいるが、籠められた威力からすれば、それは有り得ない程に微々たるものであった。
何せ一撃で山をも消し飛ばすであろう砲撃の着弾によっておこる破壊が、せいぜいほんの一メートル程度の穴だけなのだ。最も数の多さもあり、元より少なかった部屋の調度品の類はすでに壊れつくし、床や壁も大分削られているようではあったが。
(砲撃の効果か、あるいは部屋自体に仕掛けがしてあるのか。ま、どっちでも同じか)
俺には関係ない――早々に結論を出し、再び砲撃を捌くことに集中する。流石に下らない思考ばかりをしていれば危険な相手だと、コオヤも理解出来ていた。
(しかしまぁ、このままで居てもらちがあかねぇ。燃料切れで砲撃を止めてくれる、なんてのはこの様子じゃ期待できそうにねぇし、ここはいっそ――)
「突っ込んでみる、か!」
切れない砲撃。見えない隙。その隙間を無理やりこじ開ける為、両足に力を籠め、降り注ぐ砲撃の真っ只中へとコオヤは勢い良く飛び出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます