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私立
海が見える学校、それだけでここを選んだ。
後は奨学金制度だとか家から通える範囲とかいろいろ基準はあったけど、入学前にそれは全部どうでも良くなった。
急きょ決まったひとり暮らしのアパートも案外あっさりと見つかって、社会経験だからとお父さんを説得して始めたバイトも慣れてきた。
タイミング良く募集していた海沿いにある小さな水族館の受付は、わりと気に入っている。
そこまで強い我がなければ、馴染むのなんてカンタンなんだ。
今までだってそうだった。
これからもそうして生きていくだけなんだ。
―――――――…
「まーお、今日バイトないっしょ?
チャイムと共に帰り支度を始めたあたしの前に、ふたつの影。そこから明るい声が降ってくる。ゆるゆる視界を上げると見知った顔がふたつ並んでいて。少し間を置いて、用意していた笑顔と返事を向けた。
「ごめん、バイトあるんだ。みんなで楽しんできて」
「えー! またぁ? テスト地獄が終わった日くらい遊びいこーよ、
呆れた声と呆れた顔の、初夏に焼けた肌がずずいと鼻先に近寄り、あたしは苦笑いを返す。申し訳なさそうな、ポーズだけとって。
「ごめん、
早帆と加南は入学式に声をかけてくれた、友達第一号だ。このふたりは中学から一緒で、性格も良く似てる。まるで姉妹みたいに仲が良い。
明るく染めた髪に、短いスカートに、整えた顔立ちにピアスにネイル。比較的校則の緩いウチの学校の中でも、少し目立つ方だ。
それに比べてあたしはオシャレだとかあまり興味がないので、全てにおいて普通。普通が一番調度良い。
出席番号が近かったからと、早帆に声をかけられてから、校内では一緒に過ごすようになった。一見タイプは違うあたし達だけれど、一緒に居れば友達に見えるだろう。
なんて言うと実際は違うみたいだけれど、そういうわけではない。
友達、なんだろう。
教室内で一緒に居る関係を、等しくそう称するのであれば。
「もうすぐ夏休みじゃん? みんなで、海行こうよ海」
「海なら毎日行ってんじゃん」
あたしのバイトの時間まで少し余裕があるからと、椅子を寄せて机の上にお菓子を広げて、放課後の時間のムダ使い。
帰っていいよと言っても、ふたりは絶対に帰らない。この時間を楽しんでいるんだろう、純粋に。
「ちーがーう、いつものメンツで! ね、真魚も行けるっしょ」
「うん、そうだなぁ…バイトがかぶらなきゃ、行きたいけど」
「じゃあもう予定決めちゃえばいーじゃん、ほら、七瀬達もまだ居るっていうからさ! 今から計画たてよーよ!」
携帯片手にやけに嬉しそうに加南が息巻く。向いに居た早帆も勢いよく頷いたかと思ったら、その視線があたしに突き刺さった。
そのふたりの視線ににへらと笑って、「そうだね」と相槌打って。ちらりと腕時計を盗み見るけど、まだバイトの時間には早すぎる。
今日は定期テストの最終日で、終業もいつもよりはやい。時間、嘘つけば良かったな。バイトの。
しまったなぁと内心ぼやいて、ふたりの笑顔と会話に自分も笑顔を送った。
何かする時のメンバーはだいたい決まっている。同じクラスの男子3人を加えた計6人。早帆達の友達ということでいつの間にか行動を共にするようになった。
イヤってわけじゃないけれど、面倒だな、と時々思う。
クラスメイトだし実際何度か遊びに行ったこともあるし携帯番号もアドレスも知ってるし“友達”だけれど…それだけだ。それ以上でも以下でもない。カタチだけの、希薄な存在だった。
あたしにとっても、きっと相手にとっても。
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