第14話 妖狐とお買い物。(2)
冬花が落ち着いたのを見計らって、俺たちは商店街の散策を再開した。
「うぅ……恥ずかしい……祐くんに見られた……」
「あはは、見られたのが祐で良かったじゃん? それにしてもさっきの祐はカッコよかったよねっ!」
「う、うん……」
都子は慰めになっていない言葉で冬花を慰めていた。
そんな冬花はチラチラと俺を窺っていた。目が合うとそらされるけど、またすぐにチラチラとこちらを窺うという行動を繰り返していた。
パンツを見られたことが恥ずかしいのだろうけど、そういう行動を取られると何だかムズムズしてしまう。……脳裏にまた水色と白のストライプが浮かんでしまう。
「……祐くん? 変な想像してないよね?」
そんな俺の心を読んだかのような冬花。……そんなに俺ってわかりやすいのかな?
「ん? ちょっと小腹空いたし、コロッケでも食べる?」
通りかかったのはウチが買い物に来る肉屋。決して、話題をすり替えたわけではない。動いて腹が減っただけだ。
「食べるー」
「もう……。ちゃんと忘れてよ?」
俺の言葉に食いついたのは都子。冬花はジト目で俺を見ている。
「はいはい……。すみませーん、コロッケ三つ下さい」
「はいよー。祐君じゃないか、今日はどうしたんだい?」
「三人で遊んでるんですよ」
「おやおや、両手に花で羨ましいね。俺が若かった頃はねぇ――」
「あ、いや。おじさんの昔話はまた今度で!」
「そうかい? 残念だね」
肉屋のおじさんは良い人なんだけど、昔話が長い。
残念そうにしながらも、テキパキとコロッケを小分けの紙袋に入れてくれた。
コロッケを受け取りながら、お金を払う。
「はいよ、丁度ね。また来てね」
「はい、それでは」
店から離れながら、二人に紙袋を渡す。
歩きながら食べるのも青春ぽくて結構好きなんだよな。
「あちちっ。――うん、美味い」
「ほんと、あそこのコロッケ美味しいよね」
俺も冬花も昔からあのお店のコロッケを食べている。初めて食べるだろう都子は――。
「んー! なんか素朴な感じで凄く美味しいねっ!」
気に入ってくれるとは思っていたけど、お気に召したようでホッとする。
「今度、私もコロッケ作ってみようかなー」
「おぉ、都子のコロッケ美味しいんじゃないか? 楽しみにしてるよ」
「うん、頑張って作るよっ!」
桃色の唇についた衣をペロっと舐め取りながら、都子は無邪気な笑顔を見せてくれる。
「……私も食べてみたいかな?」
「んーじゃあ今度、一緒に作ろうよ? 私もお菓子の作り方教えて欲しいし!」
「え、良いの? 私も料理覚えたい!」
「コロッケ以外なら、どんな料理が良い? コロッケ以外にもう一品くらい作ろうと思うからリクエストがあったら教えてよっ」
「それじゃあ……」
二人はそのまま、料理やお菓子作りの話に夢中になっていった。
次に入ったのはCDショップ。都子がはまっていたアイドル、今戸あずさのCDを買いに来たのである。
「ここでCD買えるんだよね? 早く行こっ!」
CDショップに向かっている最中からずっとウズウズしていた都子が、冬花と俺の腕を引っ張って店内を進んでいく。
「あはは……都子ちゃん、そんなに今戸あずさが好きなんだね」
「そうなんだよ。料理作ってるときなんかも、よく鼻歌歌ってるんだわ」
「へぇ……」
「あ! あったっ!」
俺たちの腕をパッと離して、CDが置いてある平台に駆け寄る。
「これこれ! この間、テレビで流れてた新曲だよね?」
「どれどれ……あぁ、このCDだな」
「買ってくるー!」
CDを手に持って都子はレジへと行ってしまった。
「都子一人にしてまた絡まれても面倒だし、俺たちも行こうぜ」
「うん……そうだね」
「ん? どうかしたのか、冬花」
「……さっきは助けてくれて、ありがとね?」
「いや、冬花に何かあったら俺が嫌だしさ。それに冬花のおやじさんたちにも申し訳ないし」
「祐くんは……やっぱりカッコいいね」
冬花の言葉にビックリして顔を見ると耳まで真っ赤にしてそっぽを向いていた。
「……さ、早く都子ちゃんのところ行こ?」
「あ、あぁ……」
ぎこちない雰囲気になりつつ、レジに並んでいる都子へと二人で歩いていった。
都子がCDを買ったところで今日の買い物はお開きとなった。都子の提案で、冬花を家まで送ってから俺と都子は家路についた。
冬花と家の前で別れる時――。
「冬花、今日はすっごーく楽しかったよっ! また遊ぼうね!」
そう言った都子の笑顔は本当に楽しかったんだと一目でわかるもので――冬花は俺と顔を見合わせてから、そんな都子のことを嬉しそうに見ていた。
家に帰ってきた俺は、自室のクローゼットを漁っていた。
たしかダンボールに入れてクローゼットに仕舞っておいたはずなんだけど……。
「――あった」
目的のブツを手に都子が寝泊りしている客間に向かう。
「都子ー? 今、大丈夫か?」
「大丈夫ー。祐がこの部屋に来てくれるなんて珍しいねー」
そう言われれば、客間に入るのは布団を運んだとき以来かもしれないな。
「それでどうしたの?」
「あぁ、都子にこれを渡そうと思って」
そう言って、クローゼットから出してきたものを都子に見せる。
「あ、これ!」
「うん、CDラジカセ。せっかくCD買ったけど、リビングにしかデッキないだろ? これがあれば部屋でも聴けると思ってさ」
「うわぁ……。ありがとう、祐っ!」
都子にぎゅっと抱きつかれドキドキしつつも、嬉しそうな表情を見て満足感を覚える。
それに女の子特有の柔らかさや、いい匂いがして気持ち良いし。
あれ……? 俺って女の子にくっ付かれて、こんな冷静にいられるキャラだったっけ?
何かと距離感の近い都子に慣れてきたってことなんだろうか? それとも……都子の匂いに何と無く懐かしさを感じているからだろうか?
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