第15話 放課後の寄り道。
週の始めってどうしてこうも憂鬱になるんだろうか? そんなくだらないことを考えながら、登校する。
今日の登校中も隣には冬花がいる。物心が付いた時期から、だいたい一緒にいた気がする。さすが幼馴染だ。
「よう、今日も二人仲良く登校だな」
「おはよう、総司」
教室に入り自分の席に着くと、早速総司がよって来る。
「祐、今日暇か? もし暇なら、放課後ゲーセン行こうぜ?」
「あぁ、いいぞ。今日は二人か?」
いつもは冬花たちを誘ったり、クラスの男子連中を誘ったりしているのだが……今日は二人で行くんだろうか?
「そうだな、他のやつら誘ってもいいけど……大体、部活入ってたりで暇なやつは少ないからな」
「それもそうだ。じゃあ二人でいいか。この前の借りを今日こそ返してやるよ」
「はははっ、あのゲームで俺に勝とうなんて、もっとやり込んでから言えよな。今日もボコボコにしてやるよ」
そう言い残し、総司は自分の席に戻って行った。金払ってゲームするんだ、そう簡単にボコされたくはない。今日こそは総司に一勝したい。
憂鬱な月曜日の授業は無事に終わり、放課後となる。
「おーい、祐! さっさと行こうぜ」
総司はもう教室の扉の前まで移動している。
どんだけゲーセンを楽しみにしてるんだよ、コイツ……。
「お前、どんだけゲーセン行きたいんだよ……? そんなにゲーセン好きだったか?」
「いやいや、たまにはパッと遊びたくなるだろ。昨日、人生初バイトを経験したんだ。日払いのバイトな? 臨時収入で総司王国の国家予算は潤ってるんだよ」
総司王国って……。こいつ、こんな頭の悪い発言するやつだったかな? それに臨時収入でパッと遊ぶってあっという間に潰れる王国だろうな……。
「んで? バイトって何したんだ?」
「引越しのバイト。いやー、久々に身体動かしたから今日も少しウズウズしてるんだよな」
「あぁー、その気持ちは少しわかるな。俺も最近、素振り再開したんだよ。もともとの習慣だった……っていうのもあるけど、身体動かすのは気分いいからな」
意外そうな顔をしてから、探るような眼差しを向けられる。
「へぇ……。素振り、また始めたのか。剣道も再開するのか?」
「それはまだ決めてない。部活に入る気はないし、どっかの道場でっていうのもなぁ……」
都子に相手をしてもらうのも良いと思う。まったく相手になら無そうだけど。
「身体がウズウズするほど、バイト楽しかったのか?」
「いや、ただただキツかった……。それでも夏場、冬場とか雨じゃなかっただけマシらしい……」
「当然といえば当然だけど、肉体労働なんだな……」
「それで、ウズウズした身体を慰めにゲーセンに行くのだよ……」
「なんかその言い方は卑猥だぞ?」
さっきからテンションがおかしいと思ったけど……。人生初のバイトで疲れた、いわゆる『ナチュラルハイ』な状態なのかもしれないな。
しかし、怖いなバイト!
テンションが高い総司とくだらない話をしているうちにゲーセンに到着した。
自動ドアが開く前から漏れ聞こえていた喧騒は、店内に入ると身体にダイレクトに振動として伝わってくる。こんな場所、頻繁に来ていたら耳がおかしくなりそうだ。
「よーし、丁度空いてるな。さっそくやろうぜ、祐!」
「はいはい……」
俺たちが座ったのはシリーズ物の最新作、コンシューマ版も発売している人気タイトルだ。
硬貨を投入口に入れ――。
結局、今日もボコボコにされました、と。
「あー……くそっ。今日も勝てなかった……」
「はっはっはっ! 祐が俺に勝つのはまだまだ先だろうな!」
悔しいけど総司の言うとおりだろう。ゲームへの打ち込み具合が全然違うからな。
自販機の横にあるベンチで缶ジュースを飲みながら、総司はすっきりした表情を浮かべている。
ゲームで俺をボコってそんなに楽しかったのか……。
「……ここで飲みもん飲んでるとよ、気になる事があるんだよ」
急に神妙な声のトーンで話し始める総司。
「あの立て札。『カップル・女性以外の立ち入りをお断りします』ってやつ」
総司の視線の先にあるのはプリクラのコーナー。昔はそんな立て札は立っていなかった。
「大方、強引なナンパとかした奴がいたんじゃないか? ほら、プリクラって中を覗けない構造だし、何かあってからじゃ店としても問題があるんだろ?」
「そういうのはわかってるつもりなんだけどな……」
総司はプリクラコーナーに仲良く入っていくカップルを恨めしげな視線で眺めていた。――いや、男の方を睨んでいるようにも見える。
「そういえば……最近のプリクラって、目が凄く大きくなるらしいぞ?」
「なんでそんな事知ってるんだよ?」
「この前、TVでやってた。なんかの企画みたいなやつで、『最近のプリクラの進化!』みたいな感じの」
「ふーん……。俺は祐と違って、一緒に入る候補すらいないからどうでもいい情報だな」
「またお前はそういう事を言う」
俺だって、都子が夕飯後にその番組を観て、目が大きくなる加工に凄く驚いていた表情が印象的で覚えていただけだ。
それにしても、コイツはどうしてすぐに俺と冬花をくっ付けたがるのだろうか? まぁ、いつも通りの総司の様子に少しホッとした。
「そう言えば総司。お前ってどんな子がタイプなんだ?」
「そりゃもちろん、金髪碧眼の巨乳だろっ!」
「そうか……。あれ? 前は黒髪で前髪パッツンのちっぱい最高! って言ってなかったか?」
この間はそんな事を言っていたような記憶があるんだけど?
「あの頃の俺は……青かったんだ……」
「そっすか……」
「だってよ? 女子の胸には夢と希望が詰まってるんだぜ? グラマーな金髪碧眼。サイコーじゃないか!」
「あー、うん。そうかもな」
俺から話を振っておいてなんだが、これ以上深く突っ込むと面倒臭くなる気配がムンムンである。
タイミングよく、ジュースを飲みきったので話を切るために缶を捨てに席を立つ。
その時、喧騒に紛れて怒鳴り声が聞こえた。
「なにガンとばしてんだ、オラァ! てめぇ、ぶっ飛ばすぞ!」
声が聞こえた方を見てみれば、そこにいたのは見覚えのある三人組。――昨日、都子と冬花に絡んでいた奴らであった。
「あいつら、まったく懲りてないんだな……」
あの手の奴らがそうそう改心するとは微塵も思っていなかったけど。
「ったく。総司! ちょっと待っててくれ」
「ん? あぁ、わかった」
急に歩き出した俺に、総司はポカンとした表情を浮かべていたが、とりあえず気にしないで店員を呼びに店内を進んだ。
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