第5話 朝の一幕。(2)
ベッドの上で固まる俺。その俺の右腕に抱きついて眠る美少女妖狐――都子。
部屋の入り口で俺と都子に冷たい視線を向ける仁王立ちの冬花。
「いや、と、冬花。俺の話を聞いてくれ! 頼む!」
「ん、何か言い訳があるのかな?」
「言い訳とかじゃなくて……いや、言い訳もあるけど、そう! 事実説明だよ!」
俺の言葉を聞いて、少し考え込む冬花。視線が凄く怖い。
あんな目をした冬花は初めて見たと思う。
「……じゃあ、祐くん? ちゃんと、しっかり話してね?」
そう言った冬花の瞳は光沢が消えていて、とても寒々しい。背中がゾワッとする。
これが俗に言うレイプ目ってやつなんだろうか? それにしても、どうして冬花はこんな寒々しい目をしているんだろうか?
「祐くん? どうしたのかな?」
俺が思考の海に潜っている時間が冬花的には長かったんだろう。気が付くと枕元にいた冬花がズイッと俺に顔を寄せてくる。
普段は可愛らしい顔に似合ったキラキラした目をしているのだけど、今は瞳の光沢が消えていてもの凄く怖い。顔が近いせいか迫力もある。
正直、抱きついている都子の身体の温かさと柔らかさを感じていなければ、おしっこちびってたくらい怖くて冷たい表情をしていた。
「あ、あぁ……もちろんしっかり話すよ」
「うん、お願いね?」
そういってニコッと微笑む冬花。仕草は普段の冬花ではあるが……。とにかく迫力がある。
「……とりあえず、この子は山城都子。訳があって家に居候することになったんだ」
冬花の目が凄く怖いので婚約者うんぬんの説明はしなかった。何故かそれを言うと大変なことになる予感があった。
俺の目をジッと見つめながら冬花は俺の話を聞いている。まるで心の中を覗き込んでいるような視線。
正直、凄く怖い。今すぐこの部屋から逃げたいくらい怖い。都子が俺の右腕を抱き枕にして寝ているので逃亡は無理なのだが。
「それで、昨日家に来たんだけど、一階の客間で寝泊りしてもらうことになったんだよ。俺が布団運んだんだし」
俺の言葉に一つ頷いて、目で話の先を促す冬花。
自分が寝た後の記憶なんてある訳がない。正直に告げる。
「それで……今朝、起きたら何故か都子が俺のベッドにいたんだよ」
自分が寝ている時のことなんて、自信をもって言い切れなかったので言葉が尻すぼみになるし、ばつが悪くてついつい視線を逸らしてしまう。
それが悪かったのだろう。尻すぼみになり視線を逸らした俺に冬花が眉をひそめる。
「どうして、私の目を見て話してくれないのかな……?」
「い、いや! 寝ている時のことは俺自身、覚えてなくて!」
どうにか冬花の怒りを鎮めようとして言葉に力が入った。それが、悪かったのだろう。
腕を抱きかかえて寝ていた都子がもぞもぞと動き出した。
「んぅ……」
整った眉を少し歪めて、可愛らしい声で小さくうめく。そして瞼を開く都子。
今まで抱きかかえていた俺の腕を離し、視点の定まっていない感じの瞳で俺の顔を見る。
ボーっとした寝起きの無防備な顔も凄く可愛いのだが、今は嬉しさよりもすぐ側で怒気を発している冬花が気になって仕方ない。
そして、段々と都子の瞳に力が戻ってきて――。
「――あっ! おはよう、祐!」
そう言って、ガバッと抱きついて来た。
「ちょっ! 都子!?」
「祐!? 都子!? って言うか祐くんから離れて!」
俺に抱きついてご満悦な表情ですりすりしてくる都子。そんな都子を見て素っ頓狂な声を上げる冬花。
朝からなんてカオスな状況なんだ……。
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