第4話 朝の一幕。(1)
ピピピッ――ピピピピピ――。
耳障りな電子音が聞こえてくる。もう朝か? なんだか寝た気があんまりしないなぁ。
不快な音を撒き散らす目覚ましのアラームを止めようと右腕を動かそうとしたのだけど――。
あれ? 動かないぞ?
というか、何か柔らかくて良い匂いが、する……ぞ?
「――っ!? 都子!?」
コンコンコン……ピピピピピッ――。
混乱する頭で急いで布団をめくると、そこにはスヤスヤと気持ち良さそうに眠る美少女。
アレ、ナンデ? 昨日、一階の客間に布団を持っていたよね、俺が。
眠気は完全に吹っ飛んだけど、今の自分が置かれている状況に頭が全く追いつかない。
それが致命的だった。
コンコンコン……ガチャッ。
「祐くん? 朝だよ。起きて……る?」
ちょっと。ノックからドアを開けるまでが早すぎはしませんか、冬花さん。
起こしに来てくれたのは、幼馴染の志和冬花(しわとうか)なのだが……。
冬花の視線が俺の横で眠る少女に固定されている。
静寂が俺の部屋を支配し、まるで時間が止まったかのような錯覚に陥る。
そう、それは錯覚だ。何故なら時計の秒針の音はやけにうるさいし、何より背筋に冷たい汗が流れているのだから。
「……祐くん? これはどういうことなの?」
寝起きだからだろうか? 喉が渇いて張り付いている感じがする。
簡単に言えば声が出せない。
決して怯えているわけではない、もちろんですよ?
「祐くん? 何か言ってくれないとわからないよ?」
「……あっ、えっと、冬花さん? 俺にも何がなんだか――」
「うにゅうぅ」
可愛らしい声を出して抱きついてくる都子。
「……」
「……寝ぼけてるのかな?」
冬花の視線が冷たくて痛い。視線って本当に痛いって感じるなんて初めて知った。
しかし、どうしてこうなったんだろうか?
◇ ◇ ◇
昨日、親父が家に帰ってきてから都子は改めて自己紹介をした。
「改めまして。私、山城都子と申します。不束者ですが何卒よろしくお願い致します」
ご丁寧にも正座で三つ指突いて頭を下げる都子。動きの一つ一つがとても綺麗で洗練されていて思わず見惚れてしまう。
美少女は何をしても絵になるけど、目の前の美少女妖狐はそういったことを抜きにして身のこなしそのものが美しい。
そんな美少女――都子を見て、母さんは大喜びである。
「まぁまぁ、ご丁寧に! 私、娘が欲しいってずっと思っていたのよ。こんな礼儀正しくて美人な娘ができるなんて……。今日はご馳走ね!」
年甲斐もなくはしゃぐ母さん。その姿を直視できず、思わず親父に視線を向ける。
――親父は羨ましがっていた。
「祐よ。お前は本当に羨ましい男だ。幼馴染の冬花ちゃんも可愛い子なのに、それだけでなくこんな綺麗で礼儀正しい婚約者候補ができるなんて!」
「お義父さま。そんな風に言って頂けるとは大変に光栄です。これからも祐さんに相応しい女であるべく精進していきたいと思います」
だから、喋り方に違和感があるんだよ。
「都子? 俺と話してた時みたいにもっと砕けた感じでいいんじゃない?」
「あらお父さん! 都子ですって!」
「本当に羨ましい奴だよ、お前は」
あーもう、母さんも親父もテンションがおかしいよ……。
「でも、都子ちゃん? 普段通りの喋り方でいいのよ?」
「ありがとうございます。そうさせて頂きます」
「あと、お義母さまも嬉しいけど普通にお義母さんで十分よ」
「はい! お義母さん!」
今は現れていないキツネ尻尾をブンブンと振っている幻が見える。
キツネの尻尾が犬と同じ感情で動くか俺は知らないけど。
その後の夕食は一人増え賑やかなものとなった。主に都子と母さんが料理談義に花を咲かせていた。
こうして、あっという間に馴染んでしまった美少女妖狐の山城都子は、我が家に住むことになったのである。
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