014
フェリシア・ライターの仲介もあり、ホリガン局長の命令で、正式にウィンストニア・スミスと合同捜査することが決まった。正直複雑な気分ではあるが。
「MI6のウィンストニア・スミスだ。あらためてよろしく頼む」
「クラリス・リンダ・モンターグ捜査官よ。リンダでかまわないわ。こちらこそよろしくねウィンストニア」
「こちらはファーストネームで呼ぶことを許可した憶えはないぞ。モンターグ捜査官」
「えー、いいじゃん別に」
「……おまえ、よくそんな親しげにできるな。あんな目に遭わされたばっかだってのに」
ホント尊敬するよ。おれなんか脳内で100回はレイプしてやったってのに。
「ゲスな想像をするな。気色悪い」
「へえ、案外こういうことされるのが一番苦手なのか? ウィンストニア」
ウィンストニアは自分の鼻をつまんで、「シャワーでチャント洗い流してこなかったのか。まだ臭うぞ?」
「てめえ――」
「まァまァ。落ち着いておふたりサン。これから一緒に捜査しなきゃいけないんだから、仲良くしようよ」
「ウィリー・ヒューズと仲良くするなどムリだ」
「さっきも言っただろうが。おれはヘンリー・ケイスだ」
「――ねえウィンストニア、気になってたんだけど、アンタとウィリー・ヒューズって面識あるの?」
「いや、直接会ったことはない。ただ、有名な殺し屋だからな」
この女、嘘をついているな。思えば証拠品保管室でおれの姿を見たとき、こいつは即座にウィリー・ヒューズだと断定した。いっさいのプロフィールが不明な殺し屋を。少なくとも、ウィリー・ヒューズが若い女と知っていたに違いない。
「そういえば、先代のMI6長官もウィリー・ヒューズに殺されたって話だっけ」
「誰からその話を? ――フェリシアめ。おしゃべりなヤツだ」
「チョット、質問しといて勝手に納得しないでよ。チャントこっちに答えさせてくれなきゃア。コミュニケーションが成り立たないじゃない。それともアンタの
「いいや。能力を使うときはチャント意識する必要がある」
「だったら、この程度の会話に使う必要ないじゃん」
「このほうが効率がいい」
「あ、そ。まァいいけど……」
「だが、捜査情報の共有はその能力じゃア追いつかないだろ」
今の発言とさっきの戦闘時の様子で、ウィンストニアの
ゆえに、その能力頼りで捜査情報の全容をつかむのは難しいはずだ。もっとも、こっちは情報らしい情報なんてほとんど持っていないんだが。「――あっ」
ウィンストニアは勝ち誇った笑みで、「案ずるな。……腹立たしいが、一応は上司の命令だ。協力を惜しむなとも厳命されているし、情報の出し惜しみはしない」
「そいつはありがたいね」
「――MI6は、CIAから黄金銃を持つ殺し屋について問い合わせを受け、即座にそれがウィリー・ヒューズだと断定。国内でヤツにコンタクトを取ろうとした人間がいないかどうか捜査した。ヤツは正体不明すぎて、直接のコネクションを持たないかぎり、仕事の依頼をするのもひと苦労だからな。そして捜査の結果、3ヶ月前にロンドンのパブで、この男がウィリー・ヒューズについて嗅ぎまわっていたことがわかった」
そう言って、ウィンストニアは懐から1枚の写真を取り出した。写真には白人の中年男性が写っている。この画像の粗さは、おそらく監視カメラの映像から抜き出したものだろう。ロンドンの街は監視カメラだらけだという話だし。
「こいつは地元のギャングとも面会していた。おそらくそこでウィリー・ヒューズの連絡先を入手したと考えられる。さらにその後、若い女とホテルで密会していたという情報もある。今思えば、案外相手はウィリー・ヒューズ本人だったのかもしれない」
「すごいな。この短期間でそこまで調べ上げたのか」
「イギリスはシャーロック・ホームズの国だ。この程度造作もない」
「アメリカにだってエラリー・クイーンとかコロンボとかいるよ。あとフィリップ・マーロウとか」
「いや、マーロウはあんまりたいしたことなくないか? エリオット・グールドの映画しか観たことないが」
「そんなのはどうでもいい。空港の記録によると、こいつはアメリカ人だ。言葉もアメリカ訛りだったようだから、まず間違いないだろう」
「アメリカ人か……こいつがウィリー・ヒューズの雇い主か、そのメッセンジャーなのは間違いなさそうだ。どっちにせよ、身柄を押さえておくに越したことはない。早急に身元を割り出さないと」
「いや、その必要はない――ガリヴァー・フォーマイル。アリゾナ州フェニックス在住。職業は私立探偵」
「…………」
「イギリスはシャーロック・ホームズの国だからな」
すげえなホームズ。
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