王都のほうへ


 わたしは馬車に乗せられた。行き先も告げられず、何を聞いてもわたしの声に答える者はいなかった。わたしにわかったことは、イースティの町からどんどん離れていることくらいだ。

 途中でスープのようなものを「食え」と差し出された以外、男たちとの接触は一度もなかった。そのスープの不味さと言ったら筆舌に尽くしがたい。シルビアさんの料理よりも不味かった。

 馬車が止まる頃には太陽が沈んでいた。わたしはまた男たちに無理矢理馬車から下ろされ、歩かされた。男たちはみんなわたしよりも背が高かったので、周りがどんな様子なのか見ることは出来なかったが、図書館の十倍は高さのある家がたくさん建っているので、そこがイースティよりもずっと栄えている町だということがわかった。

 もしかしたら、ここがシルビアさんの言っていた『王都』なのかもしれない。

 歩いている地面が石畳から絨毯に変わったので、室内に入ったことに気付いた。相変わらず男たちは仏頂面で、たぶんわたしはもっと仏頂面だった。

「……?」

 唐突に、わたしを囲んでいた男たちがわたしから離れた。何かあったんだろうか、と思って周りを見ると、例の厳めしい真っ黒なローブに身を包んだ男が本当に百人くらいいた。絨毯には赤いカーペットが敷かれていて、その先は玉座に続いている。

 玉座には、真っ白な仮面をつけた男が座っている。

「こんばんは」

 高いとも低いとも言えない妙な声色で仮面の男が挨拶してくる。わたしが挨拶を返せないでいると、

「君が『ミア』の関係者か」

 と足を組んだ。

 わたしは周りの様子に圧倒されていたが、ミアの名前を聞いて気圧された気分が吹っ飛ぶ。


 ――この男は、ミアのことを知っている?


「……あのっ、ミアが今どこにいるか知りませんかっ!?」

 仮面の男は黙る。仮面のせいで表情が見えないので、その沈黙が何を意味する沈黙なのかわからない。

「……君は、『ミア』を知っているんだね?」

 確認するような口調で男は聞いてくる。

「じゃあ問おう。『ミア』とはいったい何なんだ?」

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