夢
「……死にたいの」
頭を愛おしげに撫でてくる黒髪の女の子にわたしは言った。
「わたしは誰からも必要とされていないから……」
女の子は目だけ少し見開いて、口を開く。
「じゃあ、私のこと恨んでる?」
「……なんで?」
「私が、死んだあなたをこの世界に召喚したから。私が召喚しなければ、あなたは死んだままだった」
わたしは窓から差し込んでくる日の光に目を移した。外には温かな緑が広がっている。
「……わかんない。わたしはただ、誰もいないところに行きたい。誰からも必要とされなくても、自然なところに」
「ふぅん」
女の子はわたしの頭から手を離すと、立ち上がってわたしの前に回り込む。そしてわたしの顔をのぞき込む。赤いカチューシャに日の光が差し輝いていた。
「あなたは、とても寂しがり屋。誰かに認められないと、生きることもままならないのね」
「わっ」
唐突に手をとられて、抱きしめられた。
「わかった。あなたに生きる意味をあげる」
「え?」
「私、家事が苦手。だから、私の代わりにそれをして」
強く抱きしめられる。
「――私のために、生きて」
温かさを感じた。生まれてから一度も触れたことのない温かさ。それはわたしの冷えた心を溶かすには十分で。
「あ」
肩を抱いて、女の子――ミアがまじまじとわたしの顔を見た。
「初めて、笑った」
しばらく、抱きしめられていた。
とくんとくん、ってミアの心臓が鼓動していた。
「きっとわたしは、召喚されるために死んだんだ」
呟いてみた。そうしたら、過ちを犯した自分を許してあげられるような気がした。
もういいんだよ、わたしにはミアがいるんだよ、って。
わたしは生きてもいいんだよ、って。
「……何か言った?」
「……ううん、何も」
「そう」
ミアの指がわたしの髪の一房をそっと摘んで、それから愛おしそうに梳いた。
いつまでもこうしていたいなぁ、と思った。
これからは、いつまでもこうしていていいんだよなぁ、って思った。
わたしは少し微睡み、温かさの中に溶けていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます