ミアの章


 私が『召喚魔法』の研究を開始したのは五年ほど前だった。

 なぜいきなり研究を始めようと思ったのか、なぜ『召喚魔法』なのか。それは今になってもわからない。ただその頃から五年間、私は自分の一日のうちの大部分を『召喚魔法』に捧げ続けた。

 魔法使い達の中では、『召喚魔法は不可能』というのが常識だった。

 人に生じる魔力は根本的には同じものであるが、ひとりひとり少しずつ違っていて、他人同士の魔力は反発し合う。

 例えば、故人を召喚するためには、漂っている故人の魔力を別に用意した肉体に移動させる必要がある。その移動させるという過程において、故人の魔力に自分の魔力を通さなければならず、それは魔力の『反発し合う』という性質のせいで不可能だ。

 だから、『召喚魔法は不可能』と言われていた。

 私は最初の数年、故人の魔力を、自分の魔力で押さえつけて、無理矢理移動させる実験ばかりをしていた。しかし、結局、それで成功したことはなかった。そのどれもが悲惨な結果に終わった。強すぎる魔力は、故人の精神を破壊してしまう。

 そこで私は、諦めようと思った。

 別に『召喚魔法』の研究は趣味の範疇であったし、それをやめるからと言って影響が出ることはなかった。私の本業は研究ではなく、別にあったから。

 けれど数ヶ月経って、私はまた研究を始める。

 なぜなのかはわからない。いったい、『召喚魔法』というものにどのような魅力があるというのだろう。私はどこからか湧いてくる何かに突き動かされて研究に戻る。

 私は、アプローチを変えることにした。

 ――魔力が反発し合うというのなら魔力を持たないものを召喚すればいい。

 その発想が、私の研究を大幅に前進させた。

 それからまた数年、私は何匹もの死んだ動物を召喚することに成功する。私の小屋は山の中に建っているので、それらのほとんどは今頃山の中で果敢に生きているだろう。

 しかし、動物の召喚に成功したところで何になるだろう。

 私の内から湧いてくる何かは、そんなことでは満足しなかった。

 次のステップに行くには、さらなる発想の転換が必要だった。

 ――この世界の人間に魔力が生じるというのなら、違う世界の魔力を持たない人間を召喚すればいい。

 それから私は、異世界で死んだ人間を召喚する魔法を研究し始めた。

 そして、今日、それに成功した。

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