第9話 白タイツロリババアコスプレイヤー老師の教え
ナースから鍛冶師、そして道着姿へと、三度のお色直しをこなしてみせた、マジカル変身白タイツ少女・
その実年齢は、彼女の相棒たる好々爺すら超えると、もっぱらの評判であった。
更にそれを裏付けるかのようにして、
「その呼ばれ方も久しぶりだお」
老獪に笑ってみせる飛車しろみ。
その小さき身の内に、師と呼ばれるだけの年月を重ねていること、間違いなしの笑い皺であった。
「なあ老師、これは一体どういうことなんだ? わたしは確か……そう、確か。出会い頭に町長秘書のガースト美脚にぶった切られ、生死の境だったはず。そこに老師が来てくれた、ような……?」
「話は後だお。いつまで経ってもアンタが起きないから、睡眠学習がてらにぶん投げてやったところだったんだお」
「へえ、なるほど。師匠と弟子の再開を懐かしむ余裕も無いってわけか」
「もう時間はない、礼賛。荒療治スタートだお」
「老師はそうやっていつも、荒療治なんだもんな」
投げられた勢いで天井に足を突き刺し、逆さまになって踏みとどまっていた月脚礼賛は、眼下のロリ道着を見やりながら、次の一手を考えていた。
このまま落下しては思う壺だ。老師は特に接近戦を好むと、聞いたことがある。
いっそのこと、落ちる勢いを利用してなで斬りにしてしまえば、一発K.O.も可能だろうか……?
と考えだしたところで、ようやくこの剣脚は大いなる間違いに気づくのである。
「しまった、履いてない!?」
そう、ショートパンツに薄黒ストの剣脚である月脚礼賛は、今やショーパンの下にグルグル巻きの包帯を身につけているだけであった。
それはそれ、一部の賢明な諸氏には「むしろ良し」とする声もあろうが、慣れぬ刀を振るう彼女の身にもなっていただきたい。個人の趣味嗜好でどうのこうの出来る問題ではないのである。
「タ、タンマ! 老師タンマ。こちらの臨戦態勢が整っていないようだ」
「それで相手は、待ってくれたか?」
神を祀る板張りの間に、凛と響くロリの声。
否が応にも礼賛は思い出していた。自分がどうして致命的な敗北を喫し、死の淵をさまよったのか。
覚悟を決める間もない勝負の、開幕直後の一閃に飲み込まれ、
まさしく不意打ち。だが同じ条件下の対戦相手は、即座の抜き打ちに成功している。
不意と不意が重複した結果、チャンスを逃してピンチを得たのは、自分のみだったわけだ。
「……そうだったな、老師。切った張ったの
「つまりこういうことだお。今、万全でない寝起きだからこそ」
「ああ。こんな時だからこそ、老師と戦う意味がある」
「察しのいい弟子で助かるお」
包帯巻きの礼賛の脚は、徐々に踏ん張る力を失い、自由落下に移行し始めた。
自嘲気味な笑みとともに、天井から布団の上にドサリと落ちる月脚礼賛。
待ってましたと言わんばかりの、寝技の白脚でお迎えするは勿論、老師・飛車しろみである。
礼賛の成熟した下半身をロリ脚でがっちり固め、完全に身動きを封じてしまう。病み上がりの剣脚はろくな抵抗も出来ず、苦悶にのたうつばかりだった。
「くっ……! 戦いには敗れ、履物は破れ……。こんな死に体のわたしに、今からでも出来ることはあるのか? 老師?」
「アリもアリだからわざわざ連れてきてやったんだお。心までもが破れかぶれになっていなければ、だけどなー」
「そこは……破れるわけにはいかない。まだわたしには、やるべきことが、あるのだから」
「そういうと思ったお。ならば、教えてやる!」
笑う老師の白き歯と、タイツの白脚が共に、キラリと光った。
くんずほぐれつの脚絡めを一旦中座し、バック転とともに立ち上がって仕切りなおす二人の女。布団を挟んでのにらみ合いに、ステージは移行する。
「戦いのイロハも知らぬ
「こっちは病み上がりの復帰戦だ。老師、多少はお手柔らかにお願い出来るよな?」
「安心するお。何せしろみは白帯だお」
飛車しろみが指して示す自らの道着の帯。
それは彼女が履いているのと同じ、白タイツによる純白の帯であった。
とはいえ脚にも、白タイツは履いている。
脚と腰に、共に装着された白タイツ。これは単純計算で、通常の倍の威力を持つと言えよう。
恐るべし老師の二段構えに、月脚礼賛は、苦笑いが止めどないのである。
「それで老師。どんな技を教えてくれるっていうんだ?」
「月脚流剣術の切った張っただけでは、もうアンタは生き残っていけないお。所詮は座学と血筋が培った付け焼き刃。刃こぼれもすればカミソリ負けもするというもの」
「ふむふむ」
「挙句の果てには必殺技を使って、力が衰えたところを襲われて、伝線。アンタが力を放出したことは、あの子にだってしろみにだって、わかるんだお?」
「それはそうなんだが……だとして一体、どうしろと? 強敵相手に必殺技を出し惜しみしては、結局負けは目に見えている」
「力任せの戦い方以外も覚えることだお。しろみのように、弱者の技を身につけることが必要だお」
「弱者って。よく言うよ」
まさしく礼賛のその言葉通り、弱者とはとても思えぬ足さばきで、飛車しろみは音もなく間近に歩み寄ってきた。
即座に足払いで月脚礼賛の姿勢を崩し、その足首を華奢な腕でしっかと掴んでの投げ飛ばし。
これぞ美脚を握っての一本背負い!
包帯の巻かれた脚線美は宙を舞い、ロリ老師の投げ技によって礼賛は、ふかふかのお布団に「ぼふん」と叩きつけられる格好となった。
「なんだ、今の投げは……? いててて……」
「古来より伝わる柔術の異称に、『白打』というものがあるお。白く輝くインパクト! しろみの技は柔の技。投げる、締める、絡める、掴む!」
幼き棒のような脚は次々に礼賛に差し込まれ、今や針の如き鋭さを伴っていた。
膨張色の白をもってすら、このスレンダーっぷり。さすがは幼女といったところであり、さすがは老師の冴え渡る技。恐ろしきはロリババアとでも言おうか。
ましてやこの白い針、払ってバランスを崩したかと思えば取り付いて首を絞め、受け止めようとすれば絡んで引き倒す。はなから斬撃を目当てとしていない。
受け手に回っては戦いが終わる! そう察した礼賛は、攻めに転じてこれを打ち崩そうと、慣れない包帯脚で老師に斬りかかった。
この脚ではかつての切れ味は期待できないであろうが、牽制には充分。投げ技や組み技を主体として接近戦を得意とするロリ老師との戦いにおいて、礼賛最大の有利点は、脚の長さ。すなわちリーチの差なのだから。
だが、しかして!
「もらったお」
「何っ?」
月脚礼賛の斬撃は、飛車しろみへと命中寸前、完全に動きを止める。
老師の履く純白のタイツに包まれた、足の親指と人差指によって、切りつけた包帯脚をはっしと捕まえられてしまったのである。
鋭き履物を掴み取る達人の技、これぞまさしく、
取って掴んで、当て身投げ。
ロリ道着は足の指の力だけでオトナコーデの女一人を掴み上げ、再びの一本背負いを、今度は手でなく、足で行ってみせた。
月脚礼賛、くるりと宙に舞っての、またもやお布団ダイブである。
「うおっ!? なんて小器用な、足回りだ……!」
「刀を振るわず脇差しを利用しての、古来よりの格闘術。そして柔術の異称に、『小具足』というものがあるお。短い足も使いようによって、柔の技術に転用できるということだおー」
「ぐう……。受け手に回れば投げられる、脚を出しても投げられる。これが老師の本気の技か」
「そうだお。あとは体がもつまで投げられるだけ投げられて、これらの技をひとつずつ体に染み付けるといいお。では『
修練の場を鈍く照らす蝋燭の灯も消えよとばかりに、飛車しろみの脚が『
この技があることで、接近戦の投げ間合いに入り込むことも容易なのだから、まったくもってバニシングフラッシュ。
いつの間にやら姿を消して、次の瞬間布団の中からニョッキリ飛び出す、老師の短く細い脚。受け止めることも切り返すことも出来ず、礼賛は幾度も投げられ、幾度も布団の上を舞った。
こうした戦いの中で冴える頭、肥える目、躍動する脚、絡み合う脚、輝く脚、美しさと切れ味を増していく、脚、脚、脚。
この戦いにおいて老師こと飛車しろみは、自らの技術を身体で覚えさせることと、月脚礼賛が持つ脚本来の力を取り戻させるのが、目的であった。
戦いではあるがこれは真剣勝負ではない。あくまで稽古であり、修行であり、勝敗を決するものではない。
しろみが礼賛をいくら足の平で転がそうとも、それは勝利ではない。
弟子が師を破るなどとも、
ところがどうして、さにあらず!
「――見えた!」
「こっ……これはなんだお!?」
ぽいぽいと放り投げられ続けていた月脚礼賛は、脚を魅せ合い研鑽されゆくその最中にて、新たな必殺の技を開眼するに至ったのだ。
これは互いに、計算や想定の埒外の出来事であった。よもやの事態に、礼賛も手加減をすることが出来ず、しろみもそれを受けきることが出来ない。
老師の教える柔術と、月脚流剣術を組み合わせた、全く新しい格闘剣術の奥義がここに生まれ、悲しきことに老いた師匠は、その最初の犠牲者となるのであろう。
灰色と暗黒のうねりが生み出す新必殺技、その名も――。
「そこまでい!!」
パシャアッ。
技の軌道を逸らしたのは、年老いた声の一喝と、カメラの閃光であった。
ストロボを焚いて飛車しろみの白脚に反射させ、擬似的な『
間一髪、師弟は惨劇を免れたのである。
「……やれやれ、二人ともアツくなるといかんのう。危ないところじゃったわい」
「助かったお、ジジイ」
「しろみさんもあまり無理はせんでくださいよ。いい加減に歳なんじゃから」
「余計なことは言わなくていいお」
アツくなっていた師弟を凍えさせるような殺気が通り過ぎていったが、それはそれ。
一連のやりとりで頭の冷えた月脚礼賛は、改めて自らの師匠に、頭を下げた。
「悪かった、老師。あやうく新技で、本気で斬りつけるところだったよ」
「謝られる謂れはないお。アンタが新しい技を見つけるのは想定外だったとはいえ、こっちも本気でやってるわけだし。本気で斬られても仕方ないことだおー」
「いや、それだけじゃない。冷静になってようやく気づいたが、わたしは――本当は」
月脚礼賛のショートパンツの下に巻かれた、白き包帯。
これがするりと剥がれ落ち、生脚お披露目かと思われたその時。
包帯の下から姿を表したのは、あの、見慣れた黒のシアータイツではないか。かつての伝線も見る影のない、陰影が美脚を彩る薄黒のストッキングではないか。
「わたしは、履いていたんだな……これを」
「やれやれ、やっと気づいたお? そう簡単に伝線なんてしないように打ち直してやったし、これにて試し切りも、支障なしのようだおー」
「有り難し!!」
姿勢を正して礼を尽くしてのモデル立ちにて頭を下げる、月脚礼賛。あの脚線美、まごうことなき大復活であった。
珍しく殊勝なこの剣脚の、壮健な健脚を確認することがようやく出来た、その時。忘れてはならないもう一人の男子が、ひょっこりと顔を出す。
「礼賛……! ようやく回復、したんだな……」
「おお、ゴーマル。なんだかまるで久しぶりのように感じるぞ」
「そりゃそうさ、こっちはすげえ首を長くして待ってたんだぞ。どうやら無事で……良かったな」
「快気祝いに飛び込んで抱きつくか? 子供の特権だ、今なら勢いでおさわりも可能だぞ」
「へっ、何言ってんだ! やめろよ、まったく」
笑う轟丸少年は、自らが買った女の回復ぶりに、過剰な喜びを示しはしなかった。
せいぜいいつものチラ見よりも、一層に礼賛の脚を見つめて、こんなことを言う程度である。
「やっぱり……あれだな、礼賛。目が覚めて良かったぜ」
「そりゃあ、いつまでも寝っぱなしというわけにもいかないだろう」
「いや、そうじゃなくて……。やっぱ、ほら」
「? 何だ」
「動いてるほうが、いいなと思ってよ」
「……ほう? くっくっくっく……はっはっはっはっは! そうか、動く脚のほうが見がいがあるか!」
「な、何だよ、笑うなよ? そんなにおかしな事言ったかよ!」
「いやいや、これはおかしい。言っていることも充分に笑えるが、それよりも……。男子三日会わざれば刮目して見よと言うやつか。わたしが寝ている間に、男っぷりを上げたかゴーマル?」
「……まあ、オレにも師匠が出来たしな」
果轟丸に視線を送られたカメラ老人は、「ひょっ?」と声を上げておどけて見せるだけである。
「なあに、儂は大したことは教えとらんよ」
「よく言うぜ、このじいさん。クソほどスパルタだったくせに」
「そのおかげで、お前さんの買った剣脚が助かったんじゃあ。儂とお前さんの協力あってこそじゃぞ、ボウズ」
「へえ。わたしが助かったのが、ゴーマルのおかげだって?」
「ボウズに感謝するといいぞ、娘さんや。と言うか……あれじゃな。積もる話がしたいのもやまやまじゃが、そんな話を悠長にしている暇も、今は無いんじゃよな、しろみさん」
老人の話は切り上げられ、話者はもう一人の老人の方に移った。
すなわち、白タイツ道着ロリババアコスプレイヤー老師こと、飛車しろみである。
「そうだお。アンタが寝ていた二ヶ月の間に、町は大変なことになっているんだお」
「わたしは二ヶ月も寝ていたのか!?」
「
「なんだって……。奴め、そのまま目指すは国家元首か」
「放っておいては国が町長に乗っ取られるお。礼賛、すぐさま市庁舎に向かって、町長の権勢を切り崩すんだお!」
――ところ変わって、ここは市庁舎。
市名を示す表示の上には、筆書きの
「ぐうーぬはははははあぁ……。女はより美しい脚を磨き剣となり、男はそれを愛で振るう剣士となる。雄々しく女々しく生き残れ! これぞ男尊女尊の、精神なり……ッ」
傍らに侍らすは、ガーターストッキングの美脚秘書。
更にはニーソにナマ脚に黒タイツと、見目麗しき『
次回、剣脚商売。
対戦者、黒タイツ眼鏡女子高生、ニーソサークルクラッシャー、ナマ脚黒ギャル。
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