第2話 民主主義ってなんだ。

 次の日


 ん?ここはどこだ?あぁ、俺、車の中で寝ちまったのか。まぁここが一番安全だしな。俺の貞操が。ん?外がやかまし・・・。

「兄様~ひどいですよ~。私がずっとベッドで下着待機してましたのに~。」

 やっぱりあの後俺のベッドに行っていたみたいだ。ここで寝ていて正解だったぜ。まぁ本当はここで寝るつもりはなかったが。

 ドアをあけて外にでた。朝の陽ざしが眩しい。抜錨したい。

「兄様、なぜこんな所で寝ているのですか。」

「いやぁコイツを改造していたら、いつの間にか寝オチしててな。」

「この車、前にももう一つありませんでしたっけ?。色が違いますが。」

「あぁ、人が増えたからな。もう一つ作った。」

「なるほど。これで2台目ですか。確かに大きめの魔物で車から撃つ分には2台あった方が楽ですが。」

「だろう?」

「ですが、ちゃんとベッドで寝てください。風邪ひきますよ。」

「分かった。善処するよ。」

「朝ご飯できているので早く手を洗って来てください。」

 さすが我が妹分だ。朝食を作ってくれるなんて。昨日は食べてないけど。

 さてと、手が汚れたまま寝てたし、洗いに行きますか。

 洗面台にきたが、先客がいた。アゲーラさんだ。

「昨日は何処にいたんだい?随分探し回ったよ。」

 この人、なに目を開けながら寝言を言っているのだろうか。

「なんで探してるのですか。」

「そりゃあ、夜這いするために決まっているだろうが。」

 俺が弟子入りしている時に貞操が奪われていないか、とても不安になる一言であった。

「ずっと車の改造してました。だからほとんど寝てないですよ。」

「なんか外が騒がしいと思ったらそういう事か。なるほどねぇ。」

「言っておきますが。車に鍵は掛けて寝てましたよ。」

「アタシはエルフぞ。そんなモノ。無いも同然。」

 なにそれ本当に怖い。今度から鍵じゃなくて、番号式にしよう。

「番号であっても開けられるからね?覚悟しておいてよ。」

 そう言って洗面台を後にした。まじかよ。積んだ。

「やぁノマド。おはよぉ。」

「おおラウダ、起きたのか。」

「いや、寝てない。」

 やっぱりか。

「流石のボクも初めての所では寝れないようだ。これから慣れるよ。」

 コイツ、こう言っているが。昨日、俺の部屋と俺の車で思いっきり寝てたからな。

「まぁ移動時間寝ておけ。とりあえず今日は雑魚狩りだから。」

「は~い。わかったよ。ねむい。」

 そう言って隣で顔を洗い始めた。俺は手と顔を洗った。にしても油汚れって放置したらこんなに落ちにくいのか。ムカつくなぁ。

 まだ黒ずんでいるが、大体の汚れは取れたのでダイニングに来た。もう朝食は作り終わっているようだ。パンにサラダ、スクランブルエッグに厚焼きベーコンがある。とてもうまそうだ。

「今日は私の特製朝食です!味わってたべてください。」

「おぉ~うまそう。ミウラちゃん、ちっちゃいのによくできるねぇ。」

「ミウラも料理がうまいね。とっても美味しい。小さいのに。」

「お、おい。アゲーラさん、ラウダ、言ってなかったけど。」

「なに?ノマドクン。」

「なんだい?ノマド。」

「ミウラは俺の2つ下だぞ。」

「「え?」」

「はい。今年で二十歳になります。」

「えぇ!?そうなの!?」

「ミウラちゃん若いねぇ。ビックリしちゃったよ。見た目14歳くらいじゃないかな?」

「褒め言葉として受け取っておきます。」

 そう、ミウラはもうそろそろ成人なのだ。見た目ロリだけど。最高。

「よし、皆食べ終わったら各自出撃準備。今回は雑魚がいっぱい出てくるから、それなりに準備しておくように。」

「よ~し。お姉さんはサブマシンガンを持って行こうかな。」

「私はハンドガンで十分かな。」

「俺はLMGの予定だ。」

 ちなみにLMGというのは「ライトマシンガン」の略で、連射を専門としている。人が携行する銃としては大きい部類の武器だ。

「ボクはどうすればいいんだい?」

「今の装備のままでいい。」

「えぇー。ボクも他に武器が欲しいー!」

「今回は確認しながら慣れろ。ある程度したら買ってやるから。」

「ぶー、わかったよ。」

 ラウダはふてくされながら、準備を始めた。マガジンなどは買ってやったので大丈夫だろう。弾込め以外は。

 一応、マガジンのローダーは買っておいた。だが、マガジンに手で込める方法を知っておかなければ、後々大変だろう。まぁ教えるのはアゲーラさんなんだけどね。

 という事で

「みんなそろったな。トイレとか行っておけよ。道のり長いから。」

「ノマド!乙女に向かって『トイレ行け』は禁句だよ!」

「一昔前を感じる言い方をするな。途中でしたくなっても知らんぞ。」

「やっぱり行きます。」

「素直でよろしい。」

 ラウダがトイレに向かった。そういえば。

「アゲーラさん。ラウダに弾込めを教えておいてもらえる?」

「まだ教えてなかったのか。わかったけど、代償は高いぞぉ。」

「え、どのくらいのお金で教えておいてくれますか。」

「お金じゃないんだ。」

 いつも通りの嫌な予感がした。とりあえず身構えておく。

「今日一日。ラウダちゃんのおっぱいを揉む権利をもらいたい。」

「わかりました。許可しましょう。」

 ラウダ。今日一日、頑張れよ・・・。

 今日が地獄の日になると知らず、ラウダがトイレから戻ってきた。知らぬが仏とはよく言った物だ。

「おまたせ~。」

「これで準備はできたな。ミウラ、ナビよろしく。」

「兄様、新しく導入したカーナビを使うのでは?」

「カーナビの画面みるのめんどくさい。」

「わかりました。」

 後ろの地獄決定の人が呆れながら運転手に問うた。

「それ、つける必要あるの?」

「そりゃ、ミウラがちょっと楽できる。」

 ちなみにそれだけのために新しいカーナビを導入しましたが、なにか?

 という事で、依頼の場所の近くに向かっていった。後ろは地獄絵図になっていたが。

「ぜぇ、ぜぇ、もうまぢ無理です・・。」

「ひとまず休憩。これ以上やったら大変な事になりそうだからね。にしても敏感だねぇ。おっきいのに。」

 確かに、大きいほど鈍感って聞いた事があるような、ないような気がするけど。まぁそこらへんは俺も知らんが。俺男だし。男の下ネタはファンタジーっていうし。

 今回、俺らが狩る魔物はトガミと言われる魔物だ、場所は廃墟、ちなみにトガミの正式名称は「トイレの民主主義」が正式名称らしい。よく汚いトイレに住み着くためこういう名前がついたらしい。なんとも酷い名前だ。廃墟に大量発生したのも、放置されたトイレからだろう。雑魚だから受けてみたものの、なんか嫌になってきた。

 廃墟も車が自由に行き来できるような広さではなく、トガミに壊されたら帰るのに面倒になってしまう。故に車は途中で置いてくる。

 これを通してラウダが銃に慣れてくれると助かるが。

「もう無理。今日は動けない・・・。」

 早速ダメみたいだ。

「アゲーラさん、やり過ぎです。流石に体力がなくなる程やらないでください。」

「大丈夫大丈夫、体力に余裕はもたせてあるから。アタシだって教えるのは素人じゃないよ。」

「ならいいです。」

「よくない!」

「兄様そろそろ着きます。予想よりも早かったですね。まぁ兄様が飛ばし過ぎなだけですが。」

「まぁいいじゃん。時間に余裕ができるのは。しかもこの道は何もない平原だよ。人なんて一人もいないし。」

「まぁ、そうですが。」

 この世界では町の外に車で人が出る事はほとんどない。大体が電車だ。車で街の外に行く場合でも無料高速道路を使う。故に舗装されてない平原などにはほとんど人は訪れない。最近、若者の車離れも深刻になってきてしまったしな。俺は仕事で使うが、車自体も大好きだ。整備士の資格だって持っている。

 とまぁ雑談している内に駐車予定地についた。ここに車を置いて依頼先の廃墟に向かう。

 この廃墟の事だが、遊園地だったわけでもなく、なにか娯楽施設があったわけでもない。

 ただの家やらお店があった所であり、ラノベでよく見る「失敗しちゃった系廃墟」ではない。失敗したのには間違いないが。

 ここは昔炭鉱があり、その時は栄えていたのだが、他のエネルギー源が見つかり、そちらの方に契約先の企業は切り替えはじめ、他の事で売り出そうと、メロンやらスイカやら梨、果てには煙草まで栽培し、売り始めたが結局売れず、財政破綻してしまい。結果、人が居なくなり、誰一人も住んでいない廃墟となってしまった。

 故に、この大量発生は家々にお邪魔して討伐する必要がある。まぁこの場合はアゲーラさんやミウラ、ラウダの武器がとても役に立つだろう。

「よっこらしょっと。」

「なんかノマド、じじくさい。」

「いいだろ。別に。こっちの銃は重いんだ。」

 俺の銃、ライトマシンガンは軽機関銃の事を指すが、決して軽いからではない。むしろ重い。

 ではなぜ軽機関銃と言うか。とても簡単な事だ。重機関銃に対して軽いからだ。

 重機関銃を簡単に説明すると、ヘリコプターとか車とかに付いている連射式の銃を想像してくれれば一番わかりやすいだろう。

 話がそれてしまった。本題に戻そう。

 今回の俺の役目は外にいるトガミの討伐だ。この場合、弾倉に入っている弾が200発単位であり、この中で一番撃ち続けられる。

 という事で俺はトガミ出現地に到着次第、一人になる訳だ。一人はいいぞ。なんでもできるからな。場所が場所ならナニだってできる。

「ねぇ、ノマド。ボク魔物相手に初めてだけど、魔王なのだから『消え去れ!』って言ったら言う事聞いてくれるかな。」

「たぶん無理だ。」

「そうだねぇ、無理だねぇ。」

「ラウダさん。あなたはバカなのですか?」

「ひどい!」

 一斉否定だった。一人に至っては罵倒であった。まぁそれは当たり前だろう。

「ラウダちゃん、君は魔物がどれだけいるか。把握しているのかい?」

「してないよ。」

「つまり、把握できないほど多く魔物はいる。その中でもトガミは独自の自治を持っている事が研究で分かっている。言うなれば、魔物の中の大きな組織には所属していないとみられる。大きな組織自体存在しているかはわかってはいないが。理性を持った魔物がいる事は確認されているが。」

「ボクがいた頃はあったけどなぁ。ここまで世界が変わっているなら規模は小さくなっているだろうけど。」

「そうなのか。だが、これから相手にする魔物には効果がない。わかったな。」

「う、うん、わかったよ。」

 そんなこんなで話していると出現地点まで着いた。誰かと話しをしていると凄く早く感じるな。

 ただ、出現地点に着いた瞬間俺たちは度肝を抜かれた。

「え、トガミって家屋の中に出現するんじゃなかったっけ?」

「これはアタシでも見たことがないなぁ。」

「兄様、ここは頑張ってください。」

 出現した場所は家や店が立ち並ぶ場所ではなく、ゲートボールとかの広場であった。

 トガミは、民主主義の象徴。話し合いをしていた。


「Ураааааааа!」

 俺は「話し合いなど知るか。逆らう奴は粛清だ。」と言わんばかりにLMGを乱射した。ちなみにさっきの叫び声は「やぱぁ!」ではなく「うらぁ!」である。最近この言語を喋るキャラクター増えたから分かるよね。

 民主主義の全面否定の弾丸は断末魔と共に広場に響いた。

「ノマド、やり過ぎな気がするんだけど。」

「いや、これくらいがちょうどいい。」

「そうだねぇ。ちょっと火力が足りないかなぁ。」

「さすがに5.56㍉では火力が足りなかったみたいです。」

「しゃーないだろ!一番軽いLMGがこれだったんだから。」

 ちなみに5.56㍉というのは弾の直系である。現代のアサルトライフルと呼ばれる部類の弾は大体そうだ。まぁ地域によっては違う弾を使うのだが。

「いやいや、そういう訳ではなくて。他の車に積んであったマシンガンを使った方が良かったんじゃないかな。」

 アゲーラさんがダメ出しして来た。珍しい。

「あれは燃費が悪いからあんまり使いたくないんだ。まさかこんな広場で戦うとは思わなかったし。」

「車好きなのに燃費なんか気にしないでよ!まぁアタシもこんな所で戦うとは思わなかったけどさ。」

 先に言ったようにトガミは普通はこんな広い所ではなく。もっと狭い所に出てくるのが特徴だ。だからこそ他の奴らは軽装備をしてきたのだが。

 ってさっきから戦っているの俺とミウラだけじゃねぇか。

「オイ!ラウダ!お前何ボサッとしてるんだ!攻撃しろ!」

「これ、ノマドだけで倒せるんじゃないかな。」

「そりゃあ浮遊しているだけの敵なら倒せるが自分の身は自分で守れよ!」

 実はこの魔物、拳銃弾3発で死ぬ雑魚ではあるが、何もしてこない訳ではない。あと意外と大きい。どれくらい大きいかというと26インチくらい。

 そしてコイツは人を殺す事はないが、ただ一つ。とっても迷惑な事がある。

「ノマドー。この魔物、何もしてこないy」

 ハプッ

 なんてこった。ラウダが食われた。

 トガミは噛み砕かないように「はむはむ」している。ラウダの足だけ出して。

 ペッ!

 トガミはラウダを吐き出した。眼のハイライトは失われつつあるがまだ生きているようだ。まぁ生きているだろうな。

「もうボク、お嫁にいけない。しくしく。」

「あっは。ラウダちゃんの粘液まみれもエッロいねぇ。」

 この魔物は「甘噛み」をするのだ。

「ぬるぬるしてて、生臭い。ひだひだがうねっていて、締まってきたぁ。もうダメ。」

「おいラウダ、そんな卑猥な描写をするんじゃない。俺の何かが起立しちゃうじゃないか。」

「兄様、後で慰めて差し上げます。」

「ミウラもそういう事やめろ。今は依頼中だ。ちなみに依頼中じゃなくても駄目だ。」

「じゃあアタシが。」

「アゲーラさんはマジで勘弁してください。」

「なんかアタシだけ扱いが違う!?」

 アゲーラさんがそんな事したら大変な事になりそう。テクノブレイク的な意味で。

「ラウダ、突っ立て居るだけじゃ襲われるぞ。最低でも動け。そんで隙をついてぶっ殺せ。」

 だが、すぐラウダに言い返された。

「アゲーラさんも突っ立っているだけだからボクも立っていただけだよ!」

 この瞬間、「コイツ何言っているんだ?」と思ってしまった。

「んぁ?アタシは立っているだけじゃないよ。」

「あの人は例外だ。暇があったら見てもいいが、動きは参考にならんぞ。」

 俺もさっき見ていたが、一言しかでない。すごい。

 ナイフを持って立っているアゲーラさんに近づいていくトガミが居ると思ったら、次の瞬間には真っ二つになっている。俺も何をしてるか、全然わからない。恐らく、持っているナイフで素早く切る事によって、あの綺麗な切り口ができるのだろう。でも多分、あの人、舐めプだと思う。本気だったらあんな綺麗に切れない。急所だけを狙ってナイフで刺しまくるだろう。

「まぁいいや。あの魔物には借りがあるからね。キッチリ返さないと。」

 お、ラウダがやる気をだしてきたな。これは期待できそう。

「野郎ぶっ殺してやる!!」

 なんか負けそうな叫び声しながら突撃しに行ったのだけど。あんな攻撃で大丈夫か?

 ハプッ

 あぁ、今回も駄目だったよ。アイツは話を聞かないからな。

 ペッ

「なんで、なんで当たらないのよ。ボクもう無理。」

「お前、走りながら当てるって相当な技術が必要だぞ。」

「なんで教えてくれないの。」

「ラウダが訓練の内容を忘れるからだ。」

 ラウダは走りながら空中を浮遊しているトガミに当てようとした。だが一発は当たるだろうが、二発目が当たらない。ラウダの銃なら2発で十分かもしれないが、確実に仕留めるには3発当てなくてはならないのだ。

「でもノマドは動けって。」

「撃つときに動けとは言っていない。」

「そんな!」

「その銃はよく狙えば当たるのだ。だが、狙わなければただの鈍器だ。覚えておけ。」

「わかったよ。」

 そういうとまたトガミの近くに行き、今度は止まって撃った。よし、当たっているようだ。ってアイツ馬鹿か。

 ハプッ

 はい本日3回目の魔王であるラウダが甘噛みされている状態です。どうぞご覧ください。

 ペッ

 ねちょねちょしたヒト型の物が叩き付けられた。なんか汚い。

「お~い、生きてるか~?」

 俺はトガミに気を付けながら、そこら辺に落ちていた木の棒でラウダの様な物をつついた。なんで素手じゃないって?では君は排泄物を素手で触れるのかい?俺は無理だ。

「もう無理。ばたんきゅ~。」

「大丈夫そうだな。」

「ノマドの眼は節穴なんだね。」

「それだったらラウダの頭はただの飾りか。」

「なにそれ、ボクがバカって言ってるの?」

「お前、気付いてなかったのか。かわいそうに。」

「だってノマドが動いて撃つなって言ったじゃん!」

 汚物のような魔王様が全身にまとわり付く粘液を振り払うように上半身を起こした。やめろ。なんか飛んでくる。汚い。

「だから、動いて撃つなとは言ったが、動くなとは言っていない。」

 なんか矛盾した事を言った気がした。案の定、ラウダの頭には「?」が浮かんでいるようだ。

「つまり言うと、撃つ時は静止して構える、撃ったら動け。わかったな?」

 ちなみに戦車ではこのことを「躍進射撃」と言ったりする。ここテストにだすぞー。まぁ出さないけどね。

「最初からそう言ってよ!まったく。」

「お前が何も考えずに突っ込むからだろ。吶喊して散ってどうする。」

「うッ・・それは。」

 まぁバカなのを忘れていた俺も悪いが。

「新人教育も君の役目だからしっかりしてね。ノマドクン。」

「一応、あなたも新人ですからね。アゲーラさん。」

「じゃあ、ノマドクンに教わろうかな。」

「やめてください。俺より上手い人に教えるとか、俺の心の指揮に関わります。」

「ちぇ~。」

 本当にこの人は扱いづらい。作者は「扱い易い!扱い易すぎるぞ!」とか言ってそうだが。

「ノマド~。一匹やっつけたよ~。」

「一人だけやってもどうする。アレ全部殺るんだよ。」

「え~だるいよ~。」

「ごたごた言わずにやる。」

 アレ全部狩らないと依頼達成しないんだから。

「ねぇノマド、なんかアイツら逃げていくんだけど。」

「あぁ、なら安心だ。とりあえず撃退って事で結果報告しておくか。」

 撃退したなら報酬金額は減ってしまうが、早めに終わらす事が出来る。今回はラウダを慣れさせるためだけだし。

「兄様、あの方向には私たちが乗ってきた車があります。」

 俺は全速力で駆け出した。LMGを持っているとは思えない速度で。

「あの野郎!俺の車をぶっ壊す気だな!そうはさせるか!」

「ノマド、どうしちゃったの?」

「トガミは人がところ好きなのです。つまりあの方向にある、ついさっきまで人がいたものは。」

「ボクたちが乗ってきた車?」

「そういうことです。」

「それはホントにまずいねぇ。」

 三人ともノマドを追いかけるように走り出した。

 俺が車にたどり着いた時にはもう手遅れだった。

「俺の車がああああああああ!」

「兄様、今なら一掃できます。」

「あ、ああ。どうせトガミにやられるなら。いっそこの手で。」

 俺はガソリンタンク付近を狙い、持っていた手榴弾を投げた。

「みんな伏せろ!」

 どっか~ん!

 なんか作者が飽きてきたような擬音使ってきやがったが、俺の車は爆音と共に砕け散った。最近買ったばかりなのに。

「ノマドクン。」

 肩が落ちている俺に向かってアゲーラさんが優しく声をかけてくれた。

「アゲーラさん・・・。」

「どんまい☆」

 うぜぇ。なんか凄い笑顔で言われた。うぜぇ。

「今度もう一回やろうよ!凄い迫力だった!」

 ラウダも凄いうぜぇ。

「兄様、依頼を達成できたのはいいのですが、帰りはどうしましょう。」

「あぁ、一応はある。引き受けてくれるか微妙だが。」

 こういう時にこの小型衛星電話は役に立つのだ。これ、携帯並の大きさなのだが、リュックサック下部にある通信機と接続して衛星電話ができるのだ。とっても便利。

 まぁそう言う事で、に電話してみる事にした。

「もしもし、PMCのピースクリエイターでございます。」

 コイツの会社、本当に経営大丈夫なのか?他のPMCに喧嘩売ってる社名な気がするのだが。

「あぁ、オレオレ。俺だよ。」

「たかし?」

「そうそう、たかし。ってちげーよ!」

 俺が突っ込みを入れると電話口の相手は大きくため息をした。俺が振ったのが悪いが。

「ノマド、貴様何のようだ。」

「おう、元気そうだな。ファル。実はお前に頼みたい事があってな。」

「いやだ。」

 おう、即答されたぜ。

「話くらい聞いてくれたっていいじゃないか。」

「おう、なら言ってみろ。」

「迎えに来て。」

「絶対に嫌だ。」

 また即答されちゃいました。泣きたい。

「車が壊されてしまったんだよ。いいだろ?ちょっとくらい。」

「いやだ。」

 はい、三度目の即答でございます。こんな時に限って『三度目の正直』って効果ないよね。

「ただ、一つだけ条件がある。」

 やっぱり効果があるみたいだ。昔の人は偉大だね。

「私の会社に入れ、そうしたら費用を交通費として出せる。」

「それは丁寧に折って封筒に切手を唾液でつけてお断りいたします。」

「即答か、いいだろう。それなら私からは迎えをださない。」

 ここもほぼ即答だった。ボケ殺しとか、やめてよ。

「え~。そこをなんとか。」

 まじでそろそろ話をつけないと、隣の人が貴方を殺しに行きそうだから。マジで「兄様がこんなにお願いしているのに。ぶっ殺す。」って感じでオーラ出してるから。

 つんつん。

 悩んでいると背中をつついて来た人がいた。。

「アタシに変わって。」

 アゲーラさんだった。なんか意外。

「わかりました。ファル、ちょっと変わるよ。」

「やほー。ファルちゃん。元気してた~?」

 アゲーラさんが上機嫌で電話に出た。スピーカーにして会話を聞いてみたいくらいだ。

「ノマド。帰りはどうなりそう?歩きとか嫌だよ?」

「さぁ。最悪お前だけ歩きだから安心しな。」

「安心できないよ!それだったらノマドが歩いてよ!男でしょ!」

「俺は男女差別しない人間だからな。ここは会社の順位的にラウダが歩くべきだ。」

「なんでこんな時だけ男女平等を謳うかな!」

「男女平等は大事だぞ。ただでさえ最近、フェなんとかが増えているからな。」

 なんかね。出てきてるよね。男女差別。男性が上の時もあれば、女性が上の時もある。まぁ俺は「男女とも平等に殴ればいい」の「そげぶ理論」が大好きな訳なのだが。

「じゃ、よっろしっくね~。」

 話がついたみたいだ。

「アゲーラさん。どうでした?」

「安心しな。すぐ来るって。もちろん全員乗れる。」

「あ~よかった。ボクが乗れないかと思ったよ。」

「ただ、広い場所に移動しておいてくれって。あと42分もしたら着くから」

「え、早くね?」

 車で飛ばしても3時間かかったぞ。そんな早く来るってスーパーカーかよ。

 でも待てよ。広い場所に移動って事は。

「アイツ、ヘリで来るのかよ!」

「ノマドクン。君はバカかい?」

「へ?」

「ヘリコプターがそんなスピードで来れると思うかい?」

「そう・・ですね。」

「もっとすごい奴だよ。」

「え、まさかっすか?」

「おそらくあってる。」

 まじかよ。アレかよ。まじかよ。てかアイツあんな物持っていたのかよ。

「ノマド~アレってなに~?」

「つい最近蘇ったお前にはインパクトは薄いだろうが、結構凄い奴だ。」

「すごいって、何が凄いのさ。」

「くれば分かる。」

「兄様、まさか本当にアレなんですか!?」

「そうみたいだ。にしてもよく交渉できましたね。アゲーラさん。」

「いや~。なんかあの娘、アタシを尊敬?してるじゃんか~。」

「そうみたいですね。なんかアゲーラさんは凄い人だって。」

「そうそう。そういう人ってある程度の融通は効くじゃない。」

「なるほどです。よくわかりました。」

 アゲーラさんは意外と狡賢い人でありました。

 で、41分は意外と長い訳でありますが、どうすっかなー。

 そう思っていると隣の可愛い人から声がかかった。

「兄様、ここは神喰しましょう。」

「流石ミウラ、準備がいいねぇ。」

 神喰とは結構有名なゲームである。竜狩のパクりなどと言われているが、俺としてはこっちの方が好きだ。ストーリーがあるし、何よりキャラクターデザインが狩る対象と味方、双方共とても良い。

「えーアタシは竜狩のほうが好きだけどなぁ。」

「竜狩は買ってすぐ飽きた。純粋に狩るのであれば竜狩のほうがいいのだろうけども、難易度的にも竜狩の方が高いのだろうけども、俺はあの厨二チックな世界と設定が大好きなんだ!」

「ノマド、なんかキモイ。」

「お前は田舎の中学校でのオタクの扱いみたいに言うな!なんでもかんでもキモイって言ってるだけだったらお前の人生がちっぽけになるぞ。」

「それもキモイ。」

 今の俺ならこの魔王を殺して勇者になれそうだ。それくらい殺意が沸いた。

「とりえずラウダもやってみろ。ミウラ、お前ストーリー手伝ってやれ。」

「えー兄様とやりたかったのに。」

「俺はミウラの隣で見てるから。」

「ラウダさん。頑張りましょう。」

「わかったよ、やってみるよ。すぐ飽きるだろうけども。」

 こうしてラウダは神喰にハマっていくのであった。


 もうそろそろ例のアレが来る時間になった。さっすが早い。

 バラバラバラバラ

「おーようやく来たねぇ。」

「ホント、なんでアイツがこんな物持っているんだ。」

「ほへー、アレ飛行機みたいでカッコいいね!ノマド!うちにもアレ配備しようよ!」

「無理だ。まずアレを置くスペースがない。」

 アイツが乗って来た物は最近、軍隊が配備したばかりの輸送機である。

「おまたせしましたアゲーラさん。」

「おいファル。お前なんでこんな物もってるんだよ。」

「まぁヘリより速いし。貴様のように超少数精鋭部隊の会社じゃないから。」

「お前、だからってティルトローターは流石に買わないだろ。」

「まぁこっちには社員が多い分、コネがあるからな。」

 まじかよ。こっちにはコネどころかヒトじゃない種族が半分なのだけれど。コネが役立つような人、いないんだけど。いや、一人はいた。

「ノマドノマド。『てぃるとろうたあ』って何?」

「『ティルトローター』っていうのはな、あのプロペラの所が稼働してヘリのようにも飛べるし、飛行機みたいにも飛べる航空機の事をいうんだ。まぁちょっと前にティルトローター機が墜落しちゃった時があって、なんか反対運動が激化したんだが、結果として前使っていたヘリより墜落率が少ないから現行で使われている航空機なんだ。一部では無知がまだやっているみたいなのだが。」

「ほへ~。とりあえず凄い飛行機なんだね!」

 うそつけ。コイツ、絶対わかってないゾ。

「乗るんだったら早く乗ってくれ。私だって暇じゃないんだ。」

「ハイハイ。今回はありがとな。」

「お返しは貴様の入社でいいぞ。」

「考えとくよ。」

 もちろん、答えは「いいえ」だ。

「全員乗ったな。では、出発する。」

 ちなみに俺はティルトローター機に乗ったのは初めてだ。なんか凄いなこれ。

 残念ながら、作者はティルトローターはおろか、ヘリにすら乗った事がないのでなんとも言えないがなんか凄かった。

「どうだ、すごいだろう。」

「すごいすごい。超すごい。(棒読み)」

「だろう?で、私の会社に入る気になったかい?」

「それだけはない。」

「即答か、いいだろう。いつでも面接に来いよ。待っているぞ、ノマド。」

 この人は人の話を聞いていたのだろうか。それとも聞こえなかったのだろうか。ヘッドセットもしているのに。まさかこのヘッドセット壊れてる?

「ファルさん、兄様は入社するなんて一言も言っていませんが。」

「ミウラちゃん、ノマドが入社しないなんて一言もいってないが。」

「言ったよ!ちゃんと言ったよ!」

 やっぱりコイツは耳がおかしいか、ヘッドセットがおかしいか、頭がおかしいらしい。恐らく三つ目が有力かな。

 にしても速いな。車では時速100km近くで走っていたはずなのだが。もう着きそうだ。

「そういえば貴様らはパラシュート持っているのか?」

「持っている訳ないだろ。本当は車で帰る予定だったのだから。」

「じゃあアゲーラさん以外パラシュート無しで降りるかい?」

「んなバカな事いうな。取り敢えず家の近くにある駐車場に行ってくれ。仮設のヘリポートがある。」

「結局私の会社のヘリを使う気だったのじゃないか。」

「まぁな、こんなに早くに使うことになるとは思わなかったが。」

「この借りは高くつくからな。」

「へ?」

「私の会社で働けよ。そしたらいつでもヘリ移動どころかティルトローターで運んでいってあげるよ。」

「本当にティルトローターで連れていってくれるのか。」

 ファルがニタァと笑った。同時にラウダとアゲーラさんもニヤニヤし始めた。ちなみにファルはこの有名すぎるネタを実は知らない。だが、いつも引っかかってくれる。ちなみに一人だけ顔が凄い事になっている。あそこだけ暗黒空間かよ。

「あぁ約束する。入社との引き換え条件だ。貴様はそれだけの人材だからな。これでようやく財政難から」

「だが断る。」

「解放され・・・へ?」

「この風魔ノマドが好む物の一つは、自分が圧倒的有利だと思っている奴に『NO』と言ってやることだ!」

「えぇぇ~!」

 この通り、本当に元ネタを知らないのである。ちなみに知っている人でも最後までやってしまう。その時は「本当に~」という言葉が出てきた瞬間に絶望する。だって望み薄いもん。

「じゃ、じゃぁ給料も高くする。依頼も自由にしていいから。」

「本当に自由にしてもいいんだな?」

「あ、あぁ。会社の利益に関わらなければ自由にして構わない。」

「じゃあ入社しない。」

「その自由はやめてくれぇ。」

 なにこれ楽しい。いつも強気な娘がこんなにも俺に振り回されてる。すっごく楽しい。まじ楽しい。

「そろそろ着きそうだな。」

「本当に入社する気はないんだな。」

「今のところはな。今度会う時は違うかもしれないがな。」

「本当にお前は『好きなように生きて、好きなように死ぬ』。そういう生き方だな。」

「おい、間違えるな。『好きなように生き、理不尽に死ぬ』。いつ死ぬかわからない。それが傭兵の原点だ。」

「お前は本当に傭兵だな。それに比べて私は・・。」

「あぁ?なんか言ったか!?」

「なんでもない。予定通りについたぞ。ではまたな。」

「あぁ、俺が生きていたらな。」

 実はアイツの言葉は届いていた。だが、あの言葉へかける言葉は生憎、すぐには言えないので聞こえないフリをした。だが、俺に言わせてもらえればアイツこそ「好きなように生きて、好きなように死ぬ。」なのかも知れない。傭兵というのは多種多様だ。軍隊とは違い、自由がある。風魔ノマドの生き方はそれこそ傭兵として王道な生き方なのかもしれない。相模ファルの生き方は現代の傭兵の生き方なのかもしれない。どちらにせよ傭兵には変わりはない。ただ、最近は対人より対魔物が多くなって来た事くらいかな。これじゃ狩人なのだが、これも時代に流される傭兵の生き方なのかもしれないな。

「兄様!」

「ん。あぁ、ミウラどうした?」

「ずっとアレを見ながらボーっとしていたので。」

「あぁ、悪い悪い。」

「それと、冗談でもアイツの会社に入るとか言わないでください。アイツ色々と面倒なので。」

「悪かったよ。大丈夫、今の所は入る気はないから。」

「今の所ってなんですか!少ししたら気が変わるのですか!?」

「かも、知れないな。気が変わらない事自体、俺の生き方に反する。」

「さすが兄様です。私より傭兵ですね。」

 思いっきり呆れているミウラを見て、俺は一つ思い出した。

「アゲーラさんが一番傭兵っぽいのかも知れないな。」

「突然なにを言い出すのですか。兄様。」

「だってさ、本当に自由に生きているじゃないか。言動とか見ていても。」

「確かにそうですね。」

「というわけで、しばらくアゲーラさんを参考にして・・・行動してみようと思ったけどやっぱりやめておこう。」

「賢明な判断です。兄様。」

 うん、アゲーラさんの思考は読めないからな。案外単純そうに見えても俺自身が真似をするようになったら多分この会社が崩壊する。基本変態だし。でも天才だし。長寿だし。

「兄様、とりあえず夕飯の支度にとりかかりましょう。」

「あぁ、材料は昨日買った奴でいいか。っと、その前に依頼報告と掛かった費用の提出をしておかないと。」

 この世界の傭兵は依頼の報告と掛かった費用は依頼主に報告しなくてはならない。その上で報酬をもらう事になる。まぁ、気前のいい人の場合はその分報酬もいいのだが。なにしろこの小さい会社に依頼をする人だ。そこまで期待のできる物ではない。まぁ時々あるのだが。必要以上にお金を用意してくれる人がいる事が。一応、この会社有名だし。

 なぜ有名かと言うと依頼の達成率が他と比べて高いからだ。とあるPMC情報誌による調査であるが。ちなみにこの達成率には依頼の難易度も含まれているので、信頼性は高い。

 今回の報酬はまぁまぁだった。とりあえず、地下金庫にしまっておくのが適切だろう。

「兄様~。御飯ですよ~。」

「おう、わかった。すぐ行く。」

 後で明日の分の依頼を確認しておかなければ。 

 夕飯を食べながら今回の依頼の反省会を開くことにした。約一名、とっても役立たずだったので。

「ラウダ。今回の反省点は分かるな?」

「敵に飲み込まれた事?それについては連射のできない銃で戦っていた訳だし仕方ないでしょ!」

「お前な。言っておくが、それを言うなら俺だってクッソ重い銃を持ちながら戦っていたんだ。むしろラウダより飲み込まれやすいのだからな。」

「ヴぇー。だってノマドが動けって言っていたし。」

「ラウダは真剣ゼミで『動きながら撃つのは牽制のみ』って習わなかったのか?」

「習ったけど、現場の判断の方が尊重されるとも習ったよ!」

「まぁ、そうだが。」

 空気が悪くなったのが俺にもわかった。だが、失敗には変わりないので。俺たちの命に関わるので仕方がない。だが、この空気が会社を悪くすることもわかった。

「ハイハイ。ノマドクン、ラウダちゃん。言い合いはそこまで。次頑張ればいいじゃない。」

 アゲーラさんが陽気な声で反省会を打ち切ろうとした。

「ですがアゲーラさん。この仕事は失敗は命に関わることに。」

「ならノマドクン。君はミスなくこなせるのかい?今回、あの車を持ってこなかったのもミスに入るのではないのかい。」

 アゲーラさんは鋭い声で言った。正直、こんなアゲーラさんは見た事がなかったくらいだ。

「ノマドクンが言う、『好きなように生き、理不尽に死ぬ』は、実際明日にも死ぬ可能性があるって事だよ。こんな事で喧嘩して片方だけ死んだら、残った方はどれだけ苦労するか。分かっているよね。」

「それは・・。」

「むしろ君がこの中で一番分かっていると思うのだけれど。」

「・・・・。」

「だから喧嘩なんてしないで、『ここが悪かったから、こうしておけよ。』ぐらいにしておきな。」

 ちなみに今無言だったのは、理解の根源が目の前にいるので笑いをこらえるのに必死だったからである。決して言い返せないからではないのである。

「そうだよ。ノマドは言い過ぎなんだよ。」

 ずっとアゲーラさんの後ろでスタンバイしていたラウダがここぞとばかりに、罵倒して来た。

「ラウダちゃんも指摘されたら、黙って聞いておく。」

 ラウダに向かっても鋭い声を出して威圧したが、すぐに優しい声で言った。

「それと、訓練も怠らない事。」

「わかりました!」

 ラウダって単純なんだな。まあ、わかっていたけど。

「とりあえず。ノマドクン、今晩は説教だ。」

 また鋭い声で言った。あれ?話終わった訳ではなかったの?

「今晩、ノマドクンの部屋で説教をする。異論は認めない。」

 なんか俺の部屋の時点で嫌な予感がする。こういう時はあのネタを使うとアゲーラさんはひっかかってくれる。

「で、建前はそのくらいにして、本音は?」

「ノマドクンの部屋に一緒に上がり込んで、説教という名目でイチャイチャする。」

「駄目じゃねーか!」

 こういう事が無ければ傭兵の天才なんだけどなぁ。なんか隣の人の眼光が鋭くなって来ていた。

「アゲーラさん、兄様の合意無しに何かしたら。例え兄様の師匠でも許しませんよ。」

 ミウラさんまじ怖い、でも兄様の貞操を守ってくれるなんて、なんて素敵な人なのだろう。結婚したい。

「じゃあ、ミウラちゃん。ミウラちゃんも混ざって3Pなんてどう?」

「それならアリです。」

「ちょっとおおおお!」

 訂正、やっぱり怖い人でした。

「待って!アゲーラさん。ミウラ。そういうのはまだ早いと思うの!」

「なぜです?兄様も、もう大人。私もそろそろ二十歳になります。」

「むしろリア充からしたら凄く遅い方だよノマドクン。」

「ヤメテ!そんなメタっぽい事いうのはヤメテ!都条例的に本当は駄目だから!」

 実際のリア充は都条例なんてお構いなしなのが俺の身勝手な偏見なのである。だってアイツら中学生の時にはもう彼氏彼女がいるんだぜ。高校生になったら察するだろ。

「とりあえず。オールオッケーなんですよ、兄様。この際ですので。その童貞。消し去りましょう。」

「そうだよ。ほら、よく言うでしょ?童貞なんて持っていたって、なんの得もないって。」

「あるよ!きっとあるよ!魔法使いになれるとか!」

 ちなみに、この瞬間。俺はまだ童貞である事がわかった。よかった、アゲーラさんの弟子である時に貞操は奪われてなかったんだ。結構心配だったんだ~。

「ちょっと待ってくれ。童貞を捨てるなら心の準備をさせてくれ。取り敢えず今の所は待ってくれ。」

「え~兄様も言っていたじゃないですか。『好きなように生き、理不尽に死ぬ。』って。明日は無いかも知れないのですよ。」

「それって、明日には童貞が無いって事にも捉えらるのだけど!とにかく、ミウラもイチャイチャラブラブの方がいいだろ。だから覚悟をする時間をくれ。お願いだ。アゲーラさんもそっちの方がいいだろう?」

「ぶ~仕方がないですね。兄様、できるだけ早い決断をお待ちしております。」

「はぁ、まあノマドクンらしいや。アタシも乗り気じゃないなら無理やりしてもいいのだけれども。ミウラちゃんが怖いし、やめておきますか。」

 ふぅ、たすかった。

 では夜も更けてきたけど、明日の依頼を受注してきますか。そう思い、一人でロビーに向かった。実はこのロビー、夜は暗いのである。本当に怖い。まぁ電灯をつければいいだけの話だが。

 で、あった依頼は一つだけだった。が、この依頼は俺が好きな依頼の一つだった。

「兄様。依頼の方はどうですか。ってまたこれですか。」

「いや、これしかなかったんだ。なんか最近少ないよな。」

「ならいいです。この依頼なら明日の準備が必要でしょう。私もお手伝いします。」

 お~助かるぅ!マジでこの依頼は事前準備が大切である。ていうより準備しなかったら死ぬ。

「人手が必要と聞いてこのアゲーラさんは黙っていないよ!」

「アゲーラさん。本当にビックリするのでいきなり出てこないでください。」

 いきなりアゲーラさんが出てきた。それはもう、床から生えてきたかのように。いきなり地面から間欠泉が噴き出たかのように。

「そりゃあ、神出鬼没のアゲーラさんだよ!このくらい慣れてもらわないと。」

「自分で神出鬼没って言いますか。まぁ、確かにその通りですが。」

「だろう。で、明日の依頼っていうのはどういう依頼なんだい?」

「今回の依頼はオオヤマツミという魔物の撃退または狩猟です。」

「兄様、今回は2台使うのですよね?」

 この2台というのは、自動車を2台使うという意味だ。この魔物を相手にする時は車に積んである重機関銃を使った方が効率よく戦える。だが、この重機関銃は車から降ろして戦うのは、ほぼ不可能。無理矢理降ろして戦う事もできるが移動不可能。つまり、車一台につき銃が1丁になる。そして、朝整備していた車重機関銃を載せた車なのだが、これで2台目になる。で、この会社は4人。つまり二人が運転手で、あとの二人が重機関銃を使い、攻撃する人になる。ここで重要なのが運転手が誰になるか、だ。無論一人は俺がやるとして。

「あぁ、そうだな。アゲーラさん。アゲーラさんは車を運転できます?」

「できるよ。自信はないけどね。」

「なら運転手お願いできますか。射手は頼りないですがラウダになりますが。」

「それでいいよ。じゃあ明日のためにグッスリ眠りますかぁ。」

 今日は素直に寝てくれるそうだ。これは安心できる。

「ノマドクンの部屋で。」

 安心なんて、あったもんじゃねぇ。

「ヤメテ!マジヤメテ!」

「アゲーラさん?さっきも言いましたよね?」

「わかった、わかったからミウラちゃん。今日はラウダちゃんの部屋に潜り込むよ。」

「それなら良いです。」

 ラウダからすると全然良くないのだが。まぁ会社の4人中、3人が了承しているので何があっても大丈夫だろう。俺は知らね。

「じゃあ俺は明日の準備をしてから寝るから。」

「兄様、それは私がやっておきます。私も整備士の資格はありますし、昨日の夜に大体の改造は済ませてしまったのでしょう?」

「まぁ、そうなのだが。」

 ただ一つ心配な点があるのだが、言いづらい。とっても言いづらい。

「言いづらいってなにがですか?」

 わお。いつの間にミウラちゃんは読心術を覚えたのだろうか。これじゃあHな妄想とか気軽にできないじゃないか。ちきしょうめ。

「いや~つい最近エンジンのパワーアップをいたしましてね。」

「具体的にはどの部分ですか。」

「マフラー辺りを交換しただけ。」

 マフラーというのは簡単にいうと、車の排気管である。エンジンから出る排気音を静かにして外に吐き出す装置である。ここの静かにする装置の効率を上げてあげる事でエンジン出力が劇的に上がるのである。ただ、音が大きくなったり、低回転の加速力が鈍ったりとデメリットもあるが、燃費が向上するという効果も中にはある。

「ならいいですけど。ターボの交換とか絶対にやってないですよね?」

 ターボというのは排気ガスを利用してエンジンに空気を送る装置の事を言う。酸素が多いほど燃料はよく燃えるからね。ただ、その代りにエンジンやターボ自体、高温になる。その為に冷却装置を多く積まなくてはいけなくなる。時にはターボの装置が200℃になる事もある。夜にボンネットを開けたら、赤く光っている事もしばしば。レースゲームでたまに見る貯めて速くなるターボなどは実は誤用だったりする。最近はエンジンを小さく作って、このターボで出力を補う「ダウンサイジングターボ」というのが流行り始めていたりする。おっと結構脱線しちった。

「やってない。俺だってそこまでバカじゃない。戦うのにターボを大きいのに交換したら、エンジンがお釈迦様になっちまう。」

 冷却系統は交換したけどね。前に戦った時に温度計がちょっと不安な値になっていたからね。ディーゼルエンジンは熱で壊れると面倒くさいからね。

「冷却系ですか。それならいいです。では私は整備に入りますので。」

 ほうりぃしっと。どれだけ読心術極めてるのですかミウラさんは。

「兄様の事なら大体お見通しです。それはもう、あらゆることまで。」

 なんか犯罪性のある言い方だな。犯罪じゃないのだけれど。

「じゃあ、ミウラには隠し事はできないのか。サプライズとか無理だな。」

「あ、そうでした。ついうっかり。てへ。」

「あーあ。ミウラにサプライズプレゼントとかあげたかったのになぁ。」

「いえ、その問題はありません。明日には忘れますので。」

 計画通り。ミウラはこういう事には弱いからな。

「都合の悪いことは読み取らないようにします。」

「例えば?」

「プレゼントなどは読み取らないように、兄様がHな気分や妄想は読み取るようにします。」

「そこは全部読み取らないでよ!」

 なんでそこも読み取るのさ!プライバシーもあったもんじゃないよ!もはやプライ橋ーだよ!

「では今度こそ整備に入らせてもらいます。」

 そう言ってミウラはガレージに向かった。もう兄様の心はズタボロボンボンだよ・・。

「もう心が疲れた。寝よ。」

 俺は静かに呟き、自分の部屋に向かい。ベッドに向かってダイブ。静かに眠りについた。その夜、悪夢(主にミウラ絡み)によって何度も目を覚ました事は言うまでもない。

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魔王というのは傭兵なのが売りなのか。 月見里 白夢限 @hakumugen

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