魔王というのは傭兵なのが売りなのか。

月見里 白夢限

第1話「魔王、傭兵になります!」

 プロローグ

ここは、君たちが住んでいる世界とはちょっとだけ違う世界。つまり異世界。ただ、ドラゴンやエルフ達が住んでいる事もあるかも知れないが、ほとんど噂。「いない」と結論付ける学者もいる。しかも中世の様な暮らしや騎士、魔法使いなどないことはないが、意味を持たない。

騎士といえばお城のお飾り役、庶民の暮らしは君たちの住んでいる現代社会そのもの。魔法使いに至っては絶滅危惧種である。

戦闘はそれこそ現代戦、つまり銃が基本なのである。しかも困った事に、君たちの住んでいる世界にほとんど一緒の創作物もある。まさに一つ隣の世界。ファンタジーを求められるのは魔物の出る地帯のみ。しかも、そこが、唯一のファンタジーであった。



アイツが現れるまでは




「で、なんで魔王なんて輩が俺の家に不法侵入してるのさ?」

「ま、まぁ落ち着いて・・。ほら?君の家にある書物にも書いてある通り、魔王も美少女だったじゃないか!」

「だからと言って段階も踏まずにいきなり人の家に不法侵入する魔王は俺は知らんぞ。」

 俺は風魔ノマド、もちろん本名ではない。だが、傭兵を稼業としているため、偽名・・・というよりコードネームを用いている。本名も一応あるのだが、これは飛ばす。もとより俺にはコードネームとデータ以外は説明するところがない。

 そして目の前にいる一人の少女、自称魔王だという。俺が仕事から帰ってきたら俺の部屋にいた。そろそろ警察に通報するか尋問するか迷っているのだが。

 とりあえず尋問することにした。

「とりあえず、貴様はなぜ俺の家を選んだ?」

「なんかボクより魔王っぽいんですけど。はぁ・・久しぶりに蘇ってみたらここに転送されてしまったんです。よくわかりませんが。」

「ほぅ、じゃあ貴様は何年ぶりに蘇ったんだ?」

「さぁ?」

「『さぁ?』ときたか。まぁいい。ここから出てけ。」

「わかりました。それでは」

「ちょっとぉぉぉ。君もうちょっと粘らなぁぁい!?」

「なぜですか?この家に居る用事はないはずですが。」

「いやここで出ていかれたらこの物語終わっちゃうから!すぐ始まってすぐ終わるとか、どこの世界にもない斬新すぎる設定で皆読まないから!スマート化しすぎだから!」

「いいじゃないですか。これからはボクが主人公で『そろそろ世界にレボリューションを』て言うタイトルで売り出せば売れると思いますよ。」

「よくないよ!ただでさえメタいことになってるけど!一瞬そのタイトルいいなとか思っちゃったけど!」

「なおさらいいじゃないですか。どこが悪いんですか?今さら魔王と勇者なんて流行りませんよ。いや、魔王と捨て駒でしたか?」

「なんで俺の職業が傭兵だって気付いてんだコイツは!?まさかエスパーか!?」

「いやだってそこの書物に自伝(笑)があったので読ませてもらいました。・・・プフッ」

「あああもうッヤダぁぁぁッ!」

 あそこには俺の黒歴史が山ほど積まれている。例え積まれていなかったとしても自伝を目の前の人に読まれていると酷く恥ずかしいのはこれを読んでくれた人ならわかってもらえるだろう。

「ただ、ボクは現在お金を持っていません。」

「へ?」

「こんなに広い家に住んでるのですからボク

一人加わっても問題なさそうですよね?」

「いや!大アリだ!大体、この家は」

「この自伝を『いんたあねっと』とやらに投稿してやろうかな。」

「ドウゾオスキニツカッテクダサイ」

 完全敗北でした。




  風魔家にて


「で、魔王様はこれからどうするのですか?」

「まぁお仕事があればいいのだけれど、ボクにもできるお仕事ってないですか?」

「ない。」

「即答ですか・・。」

 実際、俺が紹介できるのは傭兵だけだし、その傭兵も楽ではない。PMCと言う会社を設立し、依頼を受ける体制を整え、一緒に行く仲間を揃えなくてはならない。ここら辺で傭兵稼業を営んでいるのは2つしかないので依頼には困らないが、しくじったらそのまま死だ。生きて帰ってきても依頼を達成できなかったと信頼を失う。傭兵とはそういうものだ。

 しかも銃を使うのだ。故にこの娘には絶対に任せられない。

 まぁ仲間が欲しくはあるが。

「今、ボクのこと役立たずだと思ったでしょ。」

「ああ、思ったさ。可愛いお嬢さんには無理だって思ったよ。」

「むきー。ボクにだってこの銃とやらも使えますぅ!」

「無理だな。そんな細い腕で銃器が持てるハズがない。」

「ボクだって君と同じ年の見た目ですけど実際はもっと長生きなんですぅ!弓だって使えるんですぅ!」

「弓と銃は扱いが全く別物だって・・」

「兄様ー!ただいまですよー!」

「やべぇ。」

 すっかり忘れてたぁぁぁ!説明するの忘れてたぁぁぁぁぁ!いつもこのタイミングじゃないでしょおおおお!

「兄様ー?そこにいるのですk・・・」

「よ、ようミウラ、か、帰ってたのか。」

 やべぇよ。この娘、眼のハイライト消えちゃったよ。まじやべぇよ。

「兄様ー?そこのお美しいお嬢様はどちら様ですか。」

「ボクは!魔王のラウダである!以後御見知りおきを。」

 あ、いま初めて名前知った。

「私はミウラ・ルギーニ。まずあなたと兄様の関係を認識しておきたいのですが。」

 ミウラ・ルギーニ、無論コードネームだ。こっちは実質本名みたいな物だが。この家の住人。俺の事を「兄様」と呼んでいるが血は繫がっていない。ちなみにこの家の住人の三人目は目の前の魔王だ。

 てか、なんか雰囲気のドッヂボールが展開されている気がする。俺知らね。勝手にやってろ。俺は依頼見てくる。

「お兄様?ああ、そこの捨て駒のこと?アイツとは大切な物を見せ合った仲だよ!」

 おいやめろ。俺を巻き込むような言い回しするなよ。ほらミウラさんすごい目でこっち睨んでるじゃないですか。威嚇してる時の虎みたいな目してるよ。まじ怖いよ。

「にぃぃいさま、これはどういう事ですか?貴方には私というとても可憐で美しい人がいますでしょう!?それなのに兄様はこの屑でどこの馬の骨か知らない、自称魔王のとっても痛い子に何をみせたというのですか。私なんて兄様のナニを生で一回も見たことがないというのに」

「ちょっと待て、今何て言った?」

「さ、さぁー何て言ったでしょう~?」

「はぁ、またか。とりあえず部屋の片づけ、またしないとな」

「兄様、それで何を見せ、何を見たのですか。」

 いきなり低い声は背筋がゾクゾクするので本当にやめてほしい。

「自伝をアイツに見られ、俺は何も見ていない。強いて言うならアイツの捻くれた精神を見た。」

「なら安心です。あの自伝をみたということは・・・プククッ。」

「お前も見てたのかよ!?」

「当然です。兄様の身の回りの事や趣味に関して、全部把握させてしています。」

 放置ぎみだった自称魔王がおこになりながら話を割ってきた。

「ちょっとちょっと!だれが、捻くれてるってぇ!?君の方が捻くれているよ!」

「はいはい、どうせ俺は捻くれていますよ。」

「折れるの早いよ!もうちょっと言い合いになるのがお約束だろ!もっと伸ばして貰わないとボクも捻くれている事になってしまうじゃないか!」

「お約束も何もあるか!何でお前は話をややこしくしたんだ!」

「面白そうだったからついやった。反省はしているが、後悔はしていない。」

「お前はちょっとは後悔しろ。はぁ、大体、お前は何で最近のスラングが分かるんだよ・・。」

「そりゃあ君の部屋にあった本を片っ端から読ませて頂いたからね。魔王の能力があればこのくらい大したことじゃないよ。一時間ちょっとで読み終わったよ。」

「それ、何秒で一冊読み終わってんだよ。」

 コイツにはじっくり読むということを知らないのか。

「だから大体のこの世界の情勢はわかった。要するに働いたら負けだろう。」

「全ッ然わかってないし、さっき『お仕事ないですか?』て言ってただろ!」

「冗談だよ冗談。」

「兄様?とりあえず傭兵のお仕事を見学させてみてはいかがでしょう?」

「それいいね!ボクも傭兵ってどんな事するのかよく分かってないから、是非見学したいよ。」

「えー、だってコイツ足手まといになるじゃん。」

「に・い・さ・ま、足手まといなんて乙女に失礼ですよ。そこは『俺が守ってやる』くらいのことを言葉だけは言っておいてくださいませ!」

「ハイワカリマシタ」

 めっさ怖いですよ。ミウラさん。

「・・そうすれば運悪くこの雌豚が死んでくださるかもしれないのに・・・。」

「ん?ミウラちゃん、なんか言ったかい?」

「なんでもないですよ。なんでも。」

 訂正、恐怖の塊ミウラさん。それ以外に例えられない。

 とりあえず依頼を見てこないと・・ってなにこれ。

「どうしたのですか兄様・・・・。それでいきましょう。」(ニヤリ)

「他の依頼は、っとこれしかないのかよ。泣けるぜ。」

 あった依頼は「コダマの討伐」。

 このコダマという生物は見た目は木のような形をしていて、雑魚っぽい見た目をしているが、攻撃力は高く、その上防御力もわりと高い。弱点はただ、鈍い。それだけ。コイツを討伐するのに3時間もかかった事例もあるらしいが俺たちでも一時間ぐらいかかる。アニメ放映二回分である。しかも見た目とは裏腹に構造的には岩に似た生物であり、炎はほとんど効かない。○ソッキーかよ。

しかもコイツが出るのは森林ともあり、近くまでは車で行けるものの探索は徒歩だ。せっかく車にマシンガン積んどいたのに。

 俺たちの武器は銃器が基本だが、今回は岩ということもあり、ちょっと準備が必要である。

「じゃあ出発する準備するから、必要な物は車に載せろー!」

「ボクに手伝える事はあるかい?」

「「足手まといにならないように静かに何もせずにいる事。」」

「二人そろって足手まとい宣言!?」

「あとヤバくなったら逃げろ。」

「それだけは厳守させていただきますよ!」

「お前、本当に魔王かよ・・・。」

 とりあえず必要な物を載っけていく。

「ミウラ!今回はパターンΩな!」

「わかりました兄様!」

 じゃあ俺はこのスナイパーライフル「ハニーちゃん」を積んどかないとな。こいつクッソ重いんだよな。あっそういえば。

「ラウダー。」

「なんですか。またなにか罵られたいのですか。」

「そんな事言う奴は何もやらん。」

「え、ちょ、待ってください!すみません許してください!なんでもしますから!」

「ん?今なんでもするっていったよね。」

「えっそれは。」

「に・い・さ・ま☆わかってますよね?」

「ハイワカッテオリマストモ。」

「ならいいです。」

「とりあえずこれを着てもらう。」

「なんすかこれ?」

「プレートキャリア&防弾ゴーグル&防弾ヘルメット~!」

「防弾何ちゃらはわかりましたがプラートキャリックスってなんですか?」

「プレートキャリアだよ!どんな間違えしたらそうなるんだよ!プレートキャリアっていうのは防弾ベストの事だよ。これがないと色々とマズいのだよ。」

「マズいって?」

「査問会にかけられる。」

「それは面倒くさそう。」

「だろ?」

「兄様ー準備が終わりましたよー。」

「じゃあ行きますか。」

 とりあえず俺の運転で現地付近の森林まで行くことになった。

「とりあえず今回のボクの仕事はなんですか?」

「防弾シールドをもって逃げ回る。」

「それだけですか?」

「それ以上しないでほしい。」

「魔法とかは?」

「絶対に撃つな。」

「ボクの役目は?」

「よくて囮。悪ければ・・・。」

「ねぇ悪ければなんだっていうのさ。」

「右腕くらいはとり返してやるさ。」

「それって死ぬんじゃないか!」

「ラウダさん。傭兵はそういうモノですよ。」

 そうだ、傭兵というのはそういうモノだ。軍に駆り出されれば物として扱われ、庶民に駆り出されれば者として働く。人としてだろうが物としてだろうが働けるなら働く。傭兵はそういうモノだ。嬉しくも悲しくも、楽しくても苦しくても。

 そういえば聞き忘れたが

「ラウダ。お前はなにができるんだ?」

「黒魔法全般的にできるよ。今はMPが貯まってないから初期魔法ばかりだけど貯まればなんでもできちゃうよ。」

「例えば何ができる?」

「ライターくらいの火なら出せる。」

 結論、足手まとい

「あと回復魔法使える。」

 昇格「戦えないメディック(医療兵)」

「とりあえずヤバくなったら・・。」

「ヤバくなったら?」

「ちと耳貸せ。」

「ほいほい。」

「ミウラ背負って逃げてくれ。財産の5割はやるから。」

「ミウラさんを背負って逃げたら本当に財産の5割をボクにくれるのかい?」

「あぁ約束する。」

「だが断る。」

 やっぱりな(絶望)。

「この魔王ラウダが悲劇のヒーローぶった奴も見殺しにできるほど魔王として成長してはいない!落としそうな命は全部拾う。それが魔王であるボクの最大の汚点さ!」

「それ、本当に傭兵に向いてないし、魔王にも向いてないじゃねぇか。」

「それでも結構!ボクはもう、部下が死ぬのは御免だ。」

 そういえば何千年(推定)も昔に封印(多分)されたわけだからその時に部下とかが皆殺し(勝手な妄想)にされたのか。

 ヤバい久しぶりに空気が重い何とか打破しないと。

「いつの間に俺たちは部下になったんだよ。」

「そうだったね。でも友人になれた。」

「いつ友人になったんだよ。」

「えっ。ひどい!ボクたちはもう友人だろ!」

「兄様。私は友人としてなら歓迎します。義姉としてなら・・・。次の日の夕飯がシチューになります。」

「さらっと怖い事いうな。ミウラ。まぁ今回の立ち回り次第で決めるよ。」

「お~し頑張っちゃうぞ~!」

「言っとくけど頑張ったら友人未満になるぞ。お前はとにかく逃げろ。」

「なにそれ、それもひどい。」


   ムネーメー森林(ラウダ視点)


 やったー!今回の節はボクが主人公だ!やっぱりあの役立たずのノマド君では物語を語るには役不足だったみたいだね。ここは魔王であるボクが語らないと面白くならないよね。冒険だし。

 とりあえず車に揺られること2時間くらい。ほぼ真っ直ぐな道だったので結構スピードだしてたからちょっとだけ、ちびっちゃ・・・いやなんでもない。

 とりあえず森に入ったけど案外明るいのね、もっと薄気味わるいのかと思ってた。あとなんか力が溢れる

「ラウダ、ちゃんと周り見とけよ。」

「わ、わかってるよ!ボクの索敵能力を甘く見ないでよ!」

「ラウダさん、ちゃんと見てないといつ襲ってくるかわからないよ。」

「わ、わかってるってば!」

 とりあえずボクの装備は防弾シールドのみ。

二人はハンドガンを構えながら慎重に一列で進んでいる。ちなみにボクは前から二人目だ。とっても足が痛い。久しぶりに歩いたからなぁ。完全に足自体が鈍ってる。

「ラウダ。休憩にするぞ。」

「待ってました!」

 なんとタイムリーな休憩でしょう!十分にやすまなくて・・わ・・・・。

「ゴメン、ラウダ。戦闘だ。」

「ちょぉぉぉおお。なんで目の前の木が寄りにもよって魔物なのですかー!」

「道理で入った時から魔物が少なくて、いても一目散に逃げていった訳ですね。」

「なに冷静に分析してるのぉぉお。さっさと逃げようよ!」

「ミウラ。俺は050900に待機する。とりあえずおびき寄せろ。」

「了解。ラウダさん、どちらの方角に逃げればいいのか指示しますので。05時の方向に指示があったら前進してください。」

「5時の方角って?」

「私たちがコダマを見ている方角から時計の05時の方向にお願いします。」

「右斜め後ろだね!わかったよ。」

 がお~~

「なんであの魔物はあんなにマヌケな声をしているんだい?」

「知らないです。一説によれば元々声を出さない種族で威嚇のみの発声のため簡略化、および声帯が退化したと考えられるみたいです。フンッ!」

 ダァァァァァ ダァァァァ

「弱点を狙わないと流石に気付きませんか。なら!」

 ミウラさんが根元の関節部分らしきところに持っていたナイフを突き刺し、持っていた銃で連射した。流石のコダマも痛いらしく。がお~がお~と泣き始めた。聞いてるだけなら可愛いんだけど。

「ラウダさん!ここから凄く気を付けて!」

「へ?」

 なにあれ。なんで木っぽい見た目から銃の形したものでてきてんの。意味わかんない。普通ああいう魔物って触手で攻撃しませんか。銃を出してきて要塞っぽく戦わないですよね。あれ仲間にしたら凄く心強いと思うの。

 ッダババババババ

「いぃぃぃいいいやぁぁぁあぁあ!」

「ラウダさん勝手な方向に逃げないで!」

「わかってますけどぉ!怖いんだもん!」

「あなたにはシールドがあるでしょう!」

「そうだった!」

 ボク自身すっかり忘れてました。ボクには心強い装備がありました。

「わーはっはっはー!ボクはもうおそれないぞ!こっちにはシールドがあるんだ!どっからでもかかってこい!」

 ガインッ!

 手にこの世の物とは思えない衝撃が走った気がした。

「シールドはちゃんと持たないと意味がないですよ!」

「そうなの!?」

「あたりまえでしょう!?」

 知らなかった。ってことはこれはここに右手が来て、ここが左手か・・なんか難しいな。

 よし、こっちを狙ってる。よし来い!

 ガインッ!

 よし!今回はだいぶ楽だった。これでどんな弾が来ても大丈夫!

「言い忘れてましたけど。そのシールド耐久値以上の弾が当たると貫通しますよ。」

 訂正、こないで、狙わないで、うたないで。

 にしてもミウラさんすごいな。ボクと喋りながらでもずっと動き続けながら戦ってる。ボクも負けないように援護しなきゃ。って何もしちゃいけないんだっけ。泣きたい。

 だがしかし、こんなところで引き下がるほどこの魔王ラウダは人(?)として落ちぶれてはいない!何故かわかりませんが、この森に入ってからMPが回復しているようです。

「ミウラさん!援護します!どこを狙えばいいですか?」

「何の魔法を使うのですか?」

「爆発です!」

「・・・そこの木をお願いします。」

「わかりました!」

 バァァンッ

 ・・・あそこの木って狙って意味があるのだろうか。コダマの真後ろですよ。意味なさげじゃないですか。

「って、えええぇぇ!」

 なんかコダマがうー☆うー☆言いながら頭抱えてるんですけど。なにがあったのでしょうか。

 スパァァンッ

 すごい音が鳴ったと思ったらコダマが倒れていた。なにが起こったか説明したいがボクにもわからない。混乱していたらノマド君が草むらからやってきた。

「戦闘終了。案外早かったな。まさかラウダが爆発系の魔法もつかえたとは。40分で片付いた。おかげでC4爆弾を使わずにすんだ。」

「え?なにが起きたんですか!?」

「コダマは爆発に弱くてな。しかしその爆発を鼓膜つまり後頭部付近にある耳の近くで起こさせなきゃいけない。しかしコダマは爆発物を感知するとその場で食ってそのまま自分の攻撃手段として使っちまう。何とかして爆発させたときには頭を抱えてうずくまる。だがその弱点も2㌢と、とても小さい。そこを俺がスナイプする役目だったってわけだ。」

 なるほど、つまりノマド君はとどめを刺す役割だったって事か!それならわかった。

「兄様寝てたでしょ。」

 とどめを刺すだけの役割ではなかったみたいです。やっぱりノマド君は無能だな。

「な、なんの事かなミウラちゃん。」

「兄様の50口径のスナイパーライフルだと結構効果的なのに全然援護してくれなかった。」

「そ、そうだったけ?」

「兄様とぼけないで、パターンΩの時いつもですよ。私だけがいつも頑張っているのですから、ご、ご褒美くらい・・ほしいなぁ・・って。」

「わかったわかった帰ったらやるから。」

 なんかこの二人デキてるみたいですね。ここはボクがこの空気をぶち壊して後々のフラグを立たせないようにしましょう。

「ねぇねぇボクの活躍みてくれた!?結構頑張ったでしょ!」

「はいはい。」

「反応うっすーい!これで傭兵に入れる気になった?」

「まだダメだ。」

「えぇー」

「まだ武器と装備を買ってない。」

「それって・・。」

「とりあえず街に戻ったあと、PMC専用のショップに行って装備を買って、手続きが終わってからだ。」

「やったー!」

 ボクの頑張りがノマドに伝わった瞬間だった。なぜか心の奥がポカポカした。



    PMC専用ショップ「石橋屋」 

 

 ここにてラウダの語りは終わりだ。まぁぶっちゃけるとただの伏線だったりするのだが、それは追々。とりあえずラウダの武器を買わねばならぬので、この街唯一の武器、装備専門店、この石橋屋に来たのである。あと店主と仲がいいので、ある程度の値段交渉は何とかなるだろう。

「よう、らっしゃい!今回は嬢ちゃん二人つれて両手に花かい?まぁ大体は察するが。」

「おう、何を察したのかいってみろよ。」

「二人を守るため、もっと強くなろうって魂胆だろ?わかってらぁ!」

「全然わかってねーよ!傭兵がそんな事考えるか!自分の身は自分で守ってくれ。それが俺の信条だ!」

「えーそっちの方が盛り上がるじゃん。」

「盛り上がらねーよ!そーゆーのは他の所で散々やってきたし、そう思うなら最初は修行からだろ!こんな侍らせて来るようなクズがいるかよ!」

「そーなのかー。まじ残念だわー。まぁそっち系はその隣にいるお嬢さんが許さないだろうから、ノマドには一生そういう事は起らないかねぇ。」

 お嬢さんてミウラのことですね。分かります。あと、ラノベの主人公って誰かの愛情丸見えなのに全然気づかないとかよくあるよね。よくあんな事できるよね。まじ尊敬するわ。俺なんかそっち系には童貞こじらせまくった結果、敏感になりすぎてるんですよ。だからちょっとの動作やよく話してるだけで、勘違いとか昔はよくしてたよ。昔だけど。ラノベ主人公マジ尊敬。

「じゃ、今回は何しに来たんだ?冷やかしって事でもないだろう?」

「あぁ。今回はコイツの装備と訓練をしに来た。」

 装備だけ揃えてそのまま戦場にそのまま出ても何一つ使えないからな。現代の軍隊のほとんどが徴兵制をしないのはこれが大体の所以だ。しかし、ここの訓練は並の訓練ではない。ちゃんとした実践的且つ、その人にあった教育をしてくれる。そのことからついたあだ名は「真剣ゼミ」。

「そーなのか。じゃあフルセット揃えないとな。基本的な身体能力や特技はどのくらいあるのか検査するから、この部屋に入ってくれ。」

「なんかこのオッサン怪しいんだけど。ボクいやらしい事されない?」

 そう考えると思ったZE☆心配ご無用。何と言ったってこのお店の特徴その二。女性は安心して検査、訓練できる。女性は。

「大丈夫。このオッサンはバリバリのゲイだ。しかも公私を完全に分離できる素晴らしい人だから全然大丈夫だ。」

「本当に?」

「本当だ。」

「ちなみに兄様は狙われそうになってしたよ。」

「ダメじゃないか!」

 あ、そうだったんだ。知らなかった。流石に童貞力極めても男からの愛情は感知できないのか。

「信頼できるのは変わりませんので大丈夫ですよ。」

「う~、じゃあ行ってきます。」

 これからラウダが入るのはBM-BOXという特殊な部屋だ。一回だけフラッシュがあるが大抵5分程度で身体能力、骨格、能力値が能力表という書類として出る。能力値以外は装備選択に影響するのでとても便利な機械である。ちなみにこの機械は魔法が絶滅が危惧されているこの世の中で一番身近な「魔法を使う」道具である。

「ちょっとノマド。こっちこい。」

「なんだ?オッサン。なんかミスったか?」

「BM-BOXが壊れたかも知れない。」

「え?マジ?」

「普段はほとんど使わないからいいが、魔法値が異常に高い。もしかしたら他の値も壊れているかも知れないからちょっとお前入ってきてくれないか?」

「お、おうわかった。にしてもBM-BOXが壊れるなんて聞いたことがないな。」

「あぁ、BM-BOXは電力を供給していれば自分で修復、調整、部品再生してくれる超優れものだからな。」

「じゃあなんで壊れるんだ?」

「わからん。バグが起こっているか。あるいは・・・。」

「本当にその値かもしれないと。」

「そういうこった。わかったらさっさと入ってくれ。」

「おう行ってくる。」

 流石に魔法使いだからって魔力値があそこまでエグいとあの説を信じなければならなくなる。それだけは面倒くさそう。だが、この後の展開が楽しみな俺もいる。だってさ、魔王ですぜ。絶対これから凄い冒険とかありそうじゃないか。

 それで俺が唯一の男!

 つまり!この!俺が!主人公というわけだ!

 と今更な事を思ったのだがそれもそれでメンドクサソウ。まぁとりあえずラウダと交代でBM-BOXに入った。なんかラウダは怯えてたな。

 にしてもここはいつも通り部屋の中は真っ白だな。頭がおかしくなりそうだ。四角い部屋なのだが入ったら無限に広がる世界のようにも感じられる。照明もないのに影もなく。光で満ち溢れ、闇は葬りさられる。そんな世界である。まぁ人によっては一種の拷問であったりする。まぁ俺もあまり好きではないが。

 ピシャッ!

 フラッシュが来た。この一回でまるでX線のように身体の能力を炙り出すそうだ。まじで眩しい。白い部屋であるからそれも合わさってめっちゃ眩しい。そのあと五分くらいは何も起こらないので動かないで目を瞑っていた方がいい。なにしろ目を開けていても瞑っていても視的感覚は全部おじゃんになっているので変わらない。なら目を瞑っていた方が落ち着くし、頭がおかしくならない。

「はーい、終わったぞ~。やっぱり壊れてないみたいだ。にしても戦闘能力だけたけぇなオイ。」

「それだけが得意だからな。それ以外はからきしだ。」

「じゃ、ラウダちゃん行ってみよっか!ってなんか凄い怯えてるんだけど。」

「あーそれはちょっと訳アリで。俺もその能力表を見るまでは完全に信じてなかったんだが。その魔法値を見た時に確信に変わってしまった。」

「そ、ソレって・・もしかしてコイツはエルフって事か?」

「エルフなんて生易しいモンじゃねぇ・・・。この事は他言無用だからな。」

「おう、武器商人の口の堅さは他の職業と比じゃねぇからな!心配ご無用だ!」

「おうそれならよかったコイツ魔王なんだ。」

「なんだソイツ魔王だったのか。通りでエエエエエエッ!?ナンデ!?ナンデ魔王!?」

「そーなのだ!ボクは魔王ラウダ!久しぶりに蘇った魔王さ!」

 コイツ、一番驚いてくれたからって凄く調子乗ってやがる。スゴクウザい。マジウザい。

「ま、とりあえずそこを考慮して装備を考えるからちょっと待ってくれ。」

「あれっ?意外と反応薄いんですね。」

「そりゃこの石橋屋の店長だからな、この人は客の種族とか殆ど気にしないんだ。本当に商人の鑑だよな。」

「そこはもうちょっと驚いててくださいよ・・・。」

「あぁん。なんか言ったか?」

「な、何でもないですぅ。」

「じゃぁこのボディアーマーはどうだ?」

「おぉ、何か頑丈そうですね!」

「軍の正式採用を裏ルートで手に入れたからな。クッソ頑丈だ。その代りちと重いが。まぁこれでも軽量モデルではあるんだけどな。結構お前動きが鈍そうだから、頑丈な奴じゃねぇと死ぬかもしれんからな。あとお前胸大きいから形状も改造してある。結構フィットするはずだぞ。とりあえず武器の方はこのハンドガンはどうだ?弾薬数も20発とハンドガンとしては微妙に多い。反動も少なく、貫通力もすこぶる高い。だから魔法と併用するお嬢ちゃんにピッタリの銃だ!」

「ありがとうございます!早速この銃で訓練を・・・。」

「ちょっと待ちな。お嬢ちゃん。君は銃の構え方を分かっているのか?」

「わ、わかりますよ!こ、こうやって・・・。」

 ラウダが構えようとした。って

「おい、ラウダ!お前はその持ち方をするな」

「な、なんでだい?ノマド君。」

「まず、お前は銃を撃った事がないだろ。」

「な、ないさ、、、。」

「なら片手撃ちは今の所するな。」

 そう、いくら反動が少ないとはいえ銃だ。慣れない奴が片手撃ちなんかしたら撃ちきる前に腕が死ぬ。

「で、でも片手が空いてないと魔法が使えないよ!」

「だったら銃を撃つときと魔法を使う時を切り替えろ。半端な撃ち方をしていると、せっかくの強い魔法も半端な物になるぞ。」

「ぶー、でもぉ。」

「でもじゃねぇ。今のところはちゃんと両手で構えろ。」

「じゃ、じゃあ慣れたら片手で撃ってもいい?」

「おう、考えておいてやるよ。」

「よし、がんばるぞー。」

 なんかラウダって随分ポジティブだな。俺だったら完全にふてくされて、まともに訓練しないだろうな。

「PMCのCEOが板についてきたな。ノマド。」

「まぁね、でもこれで3人だ。今度は絶対に失わない。」

「まさか13歳で傭兵になった奴がここまでになるとは思ってなかったな。どうせどっかで野垂れ死んでしまうと思ってたがな。」

「そんな簡単に死にはしないさ。いや、死んでたまるか。俺の恩師のためにも。」

「あぁ、何年経つんだっけか?アイツがいなくなってから。」

「5年だよ。」

 そう、恩師がいなくなってから5年経つ。傭兵にとって行方不明というのは「死んだ」と言っても過言ではない。傭兵というのは五体満足の無言の帰還なんてものは滅多にない。大体は血しぶきになるか何処か吹っ飛んでいる。だから姿形がそのまま残っては、いない。そして俺に生きる希望をくれたのも恩師である。俺の無駄に高い戦闘能力に周りの人は恐れていた。だけどそれを人の役に立つかも知れないと言ってくれたのも恩師である。その恩師から傭兵という道をもらった。恩師は「私は君に傭兵の稼業しか受け継げない。だが傭兵というのはモノであるのだ。君が嫌ならば無理強いはしない」と言ったが俺にはそれ以外の道を考えるほど、恩師に憧れていなかった訳ではなかった。むしろ崇拝していた。

 その恩師、彼女の名前は「アゲーラ・ケーニッヒ」

 無論その名前もコードネームであった。

 

 俺は一人っ子だった。父と母とで普通に暮らしていた。だが、街には来ないはずの魔物が何故か街に出現し、父と母を殺してしまった。その時は泣き続け、2か月後には強盗になっていた。とにかく悲しみを何かにぶつけていないと気が済まなくなっていた。その時に現れたのがアゲーラ・ケーニッヒだった。俺が鞄を盗もうとした瞬間、地面にうつ伏せになっていた。その時に言われた言葉を覚えている。

「あなた、おもしろい子だね。気に入った。あたしの仲間にしてやろう。」

 何言ってんだコイツ。皆もそう思うだろ?俺も最初ぶっ飛んでると思ったさ。だから全力で逃げようとした。だが、俺の体は腹の付近をつかまれ、そのまま連れていかれた。

 これが最初で最後だと願いたい、誘拐された瞬間だった。そして恩師との出会いだった。

 そして、俺はめでたく傭兵になり、4年経ったある日のことである。恩師と魔物の討伐に行った時だった。俺はその日、足を怪我してしまい足手まといになってしまった。俺が足が痛いと勝手に休憩してしまった時あの人は近くにいた。瞬きした瞬間ボクは気絶していた。あの時休憩しなければ、あの時怪我をしていなければ、あの時恩師について行かなければ、そして、あの日、僕と出会わなければ。

 恩師は、いなくならなかったのかもしれない。


「ノマド~何ぼーっとしてるの~。」

「ん?あぁ、悪い悪い、訓練は終わったのか?」

「今日だけで終わる訳ないじゃん。明日も、また、やるんだよ・・・。」

 とってもダルそう。まぁ仕方がないだろう。そのまま戦場にでたって役に立つ訳がないからな。

「まぁ今日はご馳走にしてやるからガマンしてくれ。」

「わぁ~いご馳走。ラウダご馳走大好き!」

 だから、その空気薄そうなヒロインが言ってそうなセリフを吐くんじゃない。本当に薄くなっちまうぞ!メタい事いうとこの作者、普通にメインキャラ忘れるような物語書くからマジでシャレにならんて。

「兄様~。食事は私が用意させて頂きますよ。」

 ほら、ちょっと忘れそうになってたからって無理やりねじ込んできたぞ。オイ。

「いや、俺が作るよ。久しぶりに俺の本気を見せてやる。」

「兄様が本気を出すなんて・・・何か月ぶりのことでしょう!」

「え?そんなに本気出してないの?さっきの戦闘は?いつもの依頼は?」

「兄様はいつも適当ですよ。だからいつも私だけが頑張っているのです。はぁ。」

「ざっと5か月ぶりかな。」

「5か月!?」

「ちなみにその時は自転車で坂を上っていたら、電動自転車に追い越されそうになった時だ!」

「理由がひどい!」

「まぁ、それくらい凄いってこった。期待しておけよ。」

「全く期待できないのですが。」

「兄様が本気を出した時はいつも本当に凄いですよ。私なんて足元に及ばないくらい。いつも本気を出してくれたら依頼も本当に楽ですのに。」

「お、おう。悪かったよ。今度からは本気だすから。」

「そう言って本気出した試しがないのですけれども?」

「ス、スミマセン・・。」

「ま、まぁ早く帰ろうじゃないか。ノマドの料理がとっても楽しみだなぁ~。」

「そうですね。私も久々に兄様の料理が食べたくなりました。」

 こうして俺たちは車に乗り俺の運転で自宅兼会社の事務所についた。

 それで家に着いたのだが、依頼主専用のロビーに誰か来ているようだ。早く行って依頼を聞かなければ。先にミウラを向かわせて俺は急いで車を駐車し、ロビーに向かった。そしてそこにいた人物に驚愕した。

「よ!ノマドクンお久しぶり!」

 金髪のロングヘア。顔は美人の部類に入りながらも歳不相応のスレンダーボディ。間違いない。間違っていてもおかしくも無いかもしれないはずだが、本能と理性が「間違いないぜコノヤロー」といっている。

「アゲーラ・・さん・・。」

 つまり俺の恩師はしぶとくも生きていた。


「で、アゲーラさんはなぜ生きているか・・じゃなかった。なぜここに来たんですか?」

「んもう。ノマドクンは毒舌なんだからぁ。」

「本気で死んだと思ってましたからね。2年は探したんですから。」

「まあまあ落ち着いて。ノマド君も落ち着いて。久しぶりに師弟が会えたんだから。」

「兄様の師匠・・・この人が・・。だから兄様がこうなったのですね・・。」

 まぁ確かに酒飲んでるようなテンションと喋り方だよな。この人。でも安心してください。この人、シラフですよ。

「で、ノマドクン。このおっぱいの大きい可愛い娘と、ちっちゃくてお人形さんみたいな可愛い娘の事を詳しく!紹介!してくれない?」

「そんな友達が可愛い娘と一緒にいた時みたいな反応しないでください。こいつらは俺の会社の社員のラウダとミウラです。」

「ど、どもぉ。」

「初めましてミウラです。」

「初めましてラウダちゃん、ミウラちゃん、アタシはアゲーラ・ケーニッヒだよ、ところで会社って何の会社?」

「PMCやってます。」

「ぴぃえむしぃ?ナニソレ?」

「アゲーラさん・・あなた傭兵やってたのにどうやって依頼貰ってきてたんですか?」

「適当にほっつき歩いてたら依頼の方からくるから。」

「どういう状況ですか。PMCというのはプライベート・ミリタリー・カンパニーの略で民間軍事会社の事です。公的に言うにはPMSCになりますが。」

「ん~。とりあえず分かったような気がするからアタシもそのPSPとやらに入れなさい。」

「携帯ゲーム機みたいに言わないでください。PMCです。入る前にまずなんで居なくなったかを教えてください。」

「今言わなきゃダメ?」

「ダメです。」

 即答した。ここで引き下がっては今後絶対聞き出せなくなる。

「ここまで真剣な兄様見た事ないです。」

「本当に心配だったんじゃないですか?」

「いや、アレは「本気で心配した後に本気で死んだと思って一人でしんみりしてた時の俺の心の虚しさと悔しさと後悔を返せ」と思っている時の顔です。」

 図星である。だが、俺ほどの傭兵になると図星による動揺も完全に隠せるのである。

「あっははははは。そんなにアタシのことが心配だったのか!可愛い奴め!このこの!」

「そんな事思ってませんが。」

 もう一度言おう。動揺も完全に隠せるのである。

「兄様。顔にモノ凄く出ています。」

 隠せなかったのである。

「まぁ一応言うけどさ。まぁ理由についてはアタシが隠し続けてきた秘密にあるのさ。」

「なんですか、それは。どうせろくでもない事でしょう。」

「アタシ、エルフなんだ。」

「またまた~。どうせ冗談でしょ。」

「いや、本当だ。証拠ならこの能力表が証拠となるだろう。」

 アゲーラさんは能力表を出してきた。能力表というのは偽装できない。偽装を施した瞬間その表は白紙になる。エルフというのは魔力値がラウダほどではないが高く、回避能力も高い。その代り攻撃力、タフネス、防御力など、物理的な交戦値は低くなる。そしてなにより、骨格の所に「???」とでる。

 ちなみにラウダの時は「ヒトかもね」と出た。

 実際、能力表はそのエルフの特徴と泣けるほど一致していた。

「どうだ!アタシはエルフなのだ!すごいだろう!」

「そんな程度で・・5年も居なくなっていたのですか?」

「そ・・そういうことだよ。ノマドクン。」

「なんでですか?」

「こ、声が怖いよ。ノマドクン。これでも悩んだんだよ。打ち明けたら、その、嫌われるんじゃないかって。」

「そんな風に見えますか?俺が。最底辺を味わってきた俺が。」

 俺の言葉を無視してアゲーラさんは話を続けた。

「だが、そんな心配は期待外れだったみたいだ。君の仲間の眼がそう言っている。ここに来るまでは本当に不安だった。だけど決心して来たかいがあったよ。」

「それじゃ、約束通り俺とPMCを、傭兵を、一緒にやってください。」

 俺は、嬉しかったのかもしれない。俺の中で死んでいた人が、こうして目の前で生きていた事に。だからこそ。俺は、この人とまた傭兵をしたかったのかもしれない。普通だったらもっと責めていたかもしれない。

 だけどもう失いたくない。それが一番だったのかもしれない。

 だが、帰ってきた返事は意外な物だった。 

「いや、アタシはノマドクンの部下として働かせてもらうよ。ノマドクンには迷惑かけたからねぇ。」

「そ、それはダメですよ!そn」

 その時、アゲーラさんは俺の口を人差し指で塞いだ。

「これは師匠命令だ。ノマドクンはCEOだ。CEOが変わっちゃうと手続きとかめんどくさいだろう。よってアタシは今日からノマドクンの部下だ。」

「わ、わかりましたよ。」

「いい子だ。そしてノマドクンにお願いしたい事がある。」

 アゲーラさんがいきなり真面目な顔と声をした。これは、何か重要な事でもあるのかも知れない。俺は聞き逃さないように集中した。

「ラウダちゃんのおっぱい。揉んでいい?」

「台無しだよ!!」

 その後アゲーラさんがラウダのおっぱいを揉むのを許可した。


 2時間後


「夕飯できたぞー」

「ノマドクンの料理ひっさしぶりー!」

「兄様の料理、本当に久しぶりですね。」

「なんだこれ凄いうまそう!」

 今回はラウダの食欲が分からなかったので多めに用意していたので、アゲーラさんのも用意できた。アゲーラさんが

「アタシが久しぶりに作ってやるよ!」

 と言った時は寒気がしたがその直後の

「アゲーラさんは黙っててください。私は兄様の料理が食べたいのです。」

 と通称「ヤンデレモード」のミウラが発動してくれてとても助かった。

 実はアゲーラさん。料理は好きだがメシマズなのだ。レベルとしては生物兵器レベル。それをアゲーラさんは「うまい、うまい」と食べるので本人は全くなおす気もない。こういうタイプが一番厄介だったりする。

「ラウダちゃんのおっぱいもおいしそうだねぇ。じゅるり。」

「さっきまで散々揉んだじゃないですか!ノマドぉ!助けてよぉ!」

「断る。アゲーラさんには逆らえないから。」

 というのは嘘でとりあえず見てるだけでも楽しいからである。本当に楽しい。YURYYYY。

「兄様の料理おいひぃ~。」

「ほら、ミウラ口の周りについてるぞ。」

 ティッシュでミウラの口の周りを拭いてあげた。あ、今二人だけじゃなかった。やべぇ。

 とりあえずアゲーラさんがニヤニヤしてる。

「ねぇねぇ。あなた達って本当の兄妹みたいよねぇ。たしかノマドクンは血縁関係がある人は一人もいなかったよねぇ。どういう関係なの?」

「え?そなの!?てっきり本当の兄妹かと思って妨g・・・ゲフンゲフン。本当の兄妹じゃないならなんでミウラは兄様って呼んでいるの?」

「「内緒。」」

「え~なんでですか~?おせーてくださいよ~。」

「二人そろって内緒かぁ~。こりゃ今は話して貰えなさそうだねぇ。こうなったらラウダちゃんの胸を揉みしだくしかないなぁ。」

「ありますぅ!他にもボクの胸を揉みしだく以外の事があるので本当にやめてください!」

「たとえば?」

「ミウ・・・・。」

 一瞬ミウラが凄い眼をしていた。本当に怖い。

「ほ、ほらノマドクンの部屋の書物鑑賞タイムとか!?」

「お、それいいねぇ。」

「それなら私も同行します。兄様の趣味は常時把握しておきませんと。」

「じゃ、ノマドクン。しばらくそこに縛られていてね。」

「や、やめてくれええええええぇぇッ!!」

 こうして夜も更けていった。俺のプライバシーが崩れ去るのと一緒に。

 

 次の日


「ここは、どこだ?」

 あぁ、縛り付けられたまま寝てしまったのか。とりあえず、縄自体は緩んでいるので、解いてから自室の安全確認や被害状況を見に行く事にした。ただ、ほとんど手遅れだと思うが。

 あぁ、やっぱり駄目だったよ。あいつら話を聞かないからな。まぁ結論からいうとアレだ。全滅だ。全員半裸になってる。おそらく昨日起った事はこうだ。まずアゲーラさんが俺の書物を漁る。そしてミウラがエロ同人、ゲームなどを発掘し始める。そしてミウラは一通り発掘し終わると俺のベッドに潜りハァハァするだろう。この前そうだった。その時は下着姿になっていたので恐らくミウラの半裸はここで推測が終わる。次にアゲーラさんとラウダだろう。アゲーラさんが、ミウラが発掘した俺のアダルティなゲーム、薄い本の数々をみて、その興奮をラウダにぶつけてしまったのだろう。ラウダが「もうお嫁にいけない」と寝言を言い。アゲーラさんが満足そうに寝ているのを見て確信した。

 という事で

「朝だぞ!起きろ!仕事の時間だ!」

「ひゃぁ!?」

 真っ先に起きたのはミウラだった。ミウラは現状を把握し、自分自身の状態を把握した。

 その瞬間顔を赤くして吹っ飛ぶように自分の部屋に消えていった。あの娘、ヤンデレモードとかあるけど、結構純情なんだよね。お兄様は知ってるよ。

 で、問題はこのエルフのお姉さんと魔王のお嬢ちゃんだが・・・。あっ、そう言えばラウダの事、アゲーラさんに教えてなかった。

 そしてこれはアゲーラさんを起こすのにとっても役に立ちそうだ。

「アゲーラさ~ん。ラウダの秘密を教えたいと思うのですが~。(小声)」

「ラウダちゃんの秘密!?ナニソレ!?聞きたい!」

「やっぱり起きましたか。」

「え~何~ないの~じゃあ寝る。おやすみ~。」

「ありますよ。とっておきのが。」

「じゃあ教えて!」

「はぁわかりました。ラウダは魔王です。」

「ラウダ浜王?」

「なにその砂浜で砂のお城の城主みたいな奴は。魔王だよ。魔王。魔族の魔に王様の王!」

「え?魔王?」

「そそ、魔王。」

「ちょっとラウダちゃん!起きて!」

「ふわぁ?ヒエッ!アゲーラ・・さん。な、なんでしょうか?」

「あなたが魔王って本当?」

「そ、そうですよ。魔王です。それが何かありましたでしょうか。」

「わお!魔王なんて仲間にしちゃったんだぁ!やっぱりアタシの弟子はすごいや!」

「勝手に不法侵入をした所を捕まえただけだけどね。」

「でも出て行こうとしたらノマドは泣きついてきたよね。」

「泣いてはいねぇよ!」

「はっはっはー。まさかここの社員。ヒト以外の種族が半分じゃないか!結構凄いことだよ。ノマドクン!」

 確かにヒト以外の種族が他の会社に比べて多い。二人とも昨日入ったばかりだけど。だけど正直一番驚いたのは。

「まぁアゲーラさんがエルフだったのが一番ビックリだったけど。」

「なぁに?アタシが人じゃなくて幻滅したぁ?」

「むしろ萌えますね。」

「ならよかった!今日も一日頑張ろう!」

 アゲーラさんはそのまま依頼の確認をしにロビーへ行った。後ろ姿が結構ご機嫌に見えた。

「アゲーラさんって変わってるね。」

「だからこそアゲーラさんなんだ。アレに俺は何度も助けられてる。」

「で、追っかけないの?」

「なんで追っかける必要があるんだ?」

「アゲーラさん、下着のままだよ。」

 俺は最速ラップを刻む勢いでロビーへ駆け出した。

 ようやく、ロビーに着いた。やっぱり下着姿のアゲーラさんがいた。

「アゲーラさん、その、本当に言いづらいのですが。」

「なんだい?ノマドクン?」

「その、下着のままです。」

「あぁ、そういえば服着てなかったなぁ。ちょっち待ってくれ。」

 そうしてアゲーラさんは荷物の所に向かった。替えの下着やら服やらに着替えるのだろう。

 とりあえず今日の予定を全体に話すため、招集放送をした。3人しか聞いてる奴いないけど。

「お兄様、お待たせしました。今日はどうしましょう?」

「今日の予定は皆が集まってから発表するからちょっと待て。」

 やっぱり一番にロビーに普通の恰好でロビーに来たのはミウラだった。その次にアゲーラさんなのだが。

「アゲーラさん、なんで水着なんですか?」

「いやぁ替えの下着と服がなくてねぇ。取り敢えず外を歩ける恰好をしてきたのだが、どうかな?」

「いやいや、どう考えても外歩ける恰好じゃないからね!いくらこの作品が異世界アクション作品(作者のこじつけ)だからってここ近代だからね!そんな恰好の人いないからね!」

 そう、この作品は読んでいてわかる通り、作者のこじつけによる異世界モノなのである。

「いいじゃないか。減るもんじゃなし。もしかしたら増えるかもよ?」

「その可能性はないと思います。」

「なんだとぉ!アタシにだってまだ伸びしろあるよ!多分・・。」

「ちなみにアゲーラさんは何歳なんですか?」

「96歳だった気がする。」

「わお、俺それ初めて聞いた。そんなに歳だったんだ。」

「なにそれ、アタシが年増だって言いたいの?」

「いや、それはそれでアリだなと。」

「に・い・さ・ま?義姉が増えるとどうなるか。前にも説明しましたよね?」

「いやいや、そんなつもりはないよ!」

「相変わらず怖い妹分だねぇ。本当に怖い。」

「とりあえずアゲーラさんは俺のパーカー着てください。そのままでいるとこっちが恥ずかしいですから。」

「お、気が利くねぇ、ありがとね。」

 ・・・・水着にパーカーって逆にエロいと思います。やっちまった。

 そんなこんなでグダグダしているとようやくラウダがきた。

「皆さん早いですね。何かあったんですか?」

「お前が遅いんだよ!朝礼の招集から何十分かかっていると思っているんだ!」

「皆さんが早すぎるのですよ。で、今日は何をするんですか?何か依頼でも来てたのですか?」

「いや、今日は依頼はしない。」

「じゃあ何するんですか。ボクは寝てたいのですが。夕方から訓練があるので。」

「今日は全員参加の買い物に行く。」

「買い物かぁ~いいねぇ~。ちょうど服がなかったし。」

「兄様にまた服を選んでいただける。・・・フヒッ。」

「えぇ~この服だけでいいよぉ~一応魔王の正装だし。」

 そのゴスロリ服が正装なのかよ。案外魔族ってセンスあるのな。

「だけど普段着にそれはきついだろ。俺の奢りで好きな服買ってやるから。」

「う~仕方ないですね。」

「じゃあ、各自準備ができ次第、街乗り用の方の車に乗車しろ。解散!」

 くー。なんかPMCというより軍隊っぽい~。しびれるぅ!

「なんかノマド、ニヤニヤしてますよ。とってもキモイです。」

「お前な、人がせっかくいい気分だったのにぶち壊すなよ。」 

 よし、まず金庫の中から金を出してこないと。あと普通の服を着てこないと。

 という事で。

「俺はもう準備できたぞ~!」

 とりあえずの服と十分なお金を持ったので俺の準備は完了した。だが。

「アゲーラさんとラウダは揃ったか。まぁミウラの事はいつもの事だからエンジンだけ掛けとくか。」

「ミウラはなんで遅いんだい?」

 ラウダはちょっと怒り気味に言った。まぁこれも仕方がない。コイツも家でゴロゴロしていたいと思うだろう。だが、ミウラは女の子だ。久々の依頼以外のお出かけだ。というよりコイツらが早すぎるんだよ。服も服だし。水着とゴスロリ一択て、おい。

「ラウダちゃん、女の子は外に出るとき。結構な時間をかけるんだ。咎めちゃあいけないよ。」

「そ、そうなのか。ボクはこの服しか持ってないからわからないなぁ。」

「お待たせしました。では行きましょう。」

 ようやく来た。今回の車は街乗り用に愛用している方にした。観音開きの4ドアクーペなのだ!とってもカッコいいのだ!

 危ない危ない。久しぶりに愛車に乗ったからとっても興奮してしまった。おにぎりを讃えよ。

「ねぇ、これから何処に行くの?」

「とりあえずつい最近できた近くのデパートに行こうと思っている。取り敢えず見ておきたい設備もあるからね。」

「そこは駄菓子売り場あるのかい?アタシ最近駄菓子が食べたくてね。」

「ありますよ。駄菓子専門店みたいな所が。」

「よっし!これであの漫画に出てきた駄菓子が食べれる!」

「相変わらずアゲーラさんもオタクですね。」

「兄様のオタクの感染源はアゲーラさんでしたか。」

「まぁな。そのうちミウラがオタクになるかもな。」

 そう、オタクは伝染するのだ。俺もアゲーラさんから伝染した。きっとアゲーラさんも誰かから伝染したのだろう。オタクとはそういう者なのだ。嬉しくも悲しくも、楽しくも苦しくも

「いや、私は伝染しませんよ。兄様一筋ですし。」

「そう言って一か月後、私は完全なオタクとなっていた。」

「アゲーラさん。変なアフレコしないでください。殴りますよ。」

「そう怒んなさんなって、冗談だよ冗談。悪かったよ。」

 ミウラさん怖えぇ。初めて運転した時なみにハラハラしちゃうよ。

 ちなみにラウダはもう寝ている。まぁ車の中にいると眠くなるよね。揺れとかが心地よくて。しかもこの車のエンジンの特徴は低振動だからな!おにぎり万歳。

 だがそろそろ着いてしまう。起こさなくては。

「アゲーラさん。ラウダを起こしてくれませんか?そろそろ目的地に着くので。」

「おうわかったよ。どんな起こし方してもいいかい?」

「許可する。」

「りょーかい。」

 こうして車の中はラウダの媚声が響いた。後ろの一名はもちろん。前の二名もニヤニヤした笑みを浮かべた。対向車線の向かってくる車からみたら異様な光景だったであろう。


 デパート「ひととき」

 

 このデパートはつい先月オープンし、色々なお店が出ており、日常的な服からサバイバルな服、果てにはコスプレ用品などアニメグッズも多数取り揃えている。去年オープンした俺の町のアウトレットよりも品ぞろえがいい。だからこっちにした。町おこしとか知るか。変なゆるキャラまで作るし、隣の市町見習ってほしい見た目のキャラだし。

 とまぁ自分の居る町をディスるのはここまでにしておいて。ここからまず服を見に行こう。俺が見たかったのも見に行く途中にあるし。

「兄様!このお店行きましょう!」

 いきなりミウラがデパートの地図の中のパフェの所を指さしながら言った。答えはもちろん決まっている。

「おう、服を買い終わったらな。その後に休憩も兼ねてそこのパフェに行こう。皆もそれでいいよな?」

「うん!ボク、パフェ食べるの初めてなのだ。すっごく楽しみなのだ。」

「お前の服を選ぶのに一番時間が掛かりそうだから早めにしてくれよ。アゲーラさんもそれでいいですよね。」

「・・・・。」

「アゲーラさん?」

「・・・っあ、すまん、聞いてなかった。」

「いや、服買い終わったらパフェ食べましょうって話です。」

「ああ、いいよ。甘いものは大好物だ。それにしてもノマドクンはミウラちゃんに甘いな。」

「まぁ可愛い妹分ですし。家族がいない俺には家族のように大事な人ですし。」

「アタシは家族に含まれないのか。残念だなぁ。」

「俺の前から居なくなって時間が経ちすぎましたからね。それに家族というよりアゲーラさんは・・・。」

「おう、何だい何だい?恋人だっていうのかい?」

「アゲーラさんはお母さんって感じですから。」

「結局家族みたいな物じゃないか。てか、アタシはまだそんな見た目の歳じゃねぇ。」

「実際は俺にとっては、おばあちゃんみたいな歳じゃないですか。」

 次の瞬間俺は気を失っていた。

 目が覚めた時には一時間経っていた。アゲーラさんが回復魔法を使っていてくれたようだ。

「兄様!大丈夫ですか!?」

「あぁ、大丈夫だ。問題ない。」

 そういった後、ミウラとアゲーラさんは、ほっとした表情を浮かべた。よっぽど心配してくれたようだ。

「もう。兄様。乙女に歳の話は厳禁ですよ。もっとデリカシーを持ってください。」

「すまん。まさか気絶するほどクリーンヒットするとは思わなかった。申し訳ない。」

「いや、俺も悪かったです。すみません。」

 さすがにアゲーラさんに歳の話はNGだったか。反省しなくては。

「では兄様。早速服を見に行きましょう!ラウダさんは先に行っています!」

「あ、あぁ。じゃあ行くか。」

「ではアタシも着いていきますか。」

 とりあえず、一通り見て、買い物し終わった。

「えへへ~。兄様が凄く可愛いって言ってくれた~。」

 現在進行形で今の「にへら~」って表情も可愛いのだが。

「で、終わったのでパフェ行きましょうパフェ。もちろんノマドの奢りで!」

「兄様、早く行きましょう。」

 二人とも凄く目をキラキラさせている。よっぽど楽しみなのだろうか。というよりラウダは本当にパフェの事を知っているのだろうか。

「お前ら、ちょっと落ち着けよ。パフェは逃げないからそんなに急がなくても。」

「時間は有限です!ボクはこの後訓練がありますから!」

「はいはい、わかったよ。」

「ノマドクン、ちょっといいかい?」

 突然アゲーラさんが袖をグイッと引っ張ってきた。しかも耳元で話しかけてきた。

「やっぱりさ、何か怪しいと思うんだよね。なんか不自然な奴らがいる。」

「あぁ、知ってる。まぁ大丈夫だろ。」

「本当に大丈夫なのかい?とっても不安なのだが。」

 バンッ!

 いきなり、その怪しい奴らがハンドガンを天井に発砲した。

「全員頭の後ろに手を組んで座れ!おとなしくしろよ!」

 どうやら強盗っぽいな。まぁこのご時世、強盗とかテロに合う確率上がってるしな。ラノベの中では。

「おい、そこの奴ら。さっさと頭の後ろで組めっつってんだろ!」

「調子に乗るなよ。この」

「黙れ、ラウダ。おとなしくしとけ。」

 ここでラウダの能力を使って場を収める事はできるかもしれない。だが、ここは人質もいるデパートだ。二次災害の危険性もある。

 そしてこの施設の最大且つ、公表されてない特徴がある。実は俺はその特徴が一番の目当てだった。

 全員が座った中、俺一人がこの設備を知っていたらしく、俺の顔だけ緩んでいたようだった。

「おい、そこ何笑ってるんだ!なめとんのか!」

 おそらくそろそろ作動するかな。

「おいおい、俺はノンケだぜ?男のナニなんて舐めたかねぇよ。」

「ちょ、ノマド!?」

「ノマドクン!?死にたいのか!?」

「よほど死にたいらしいじゃねぇか。」

「兄様!」

「俺達に逆らうとどうなるか。教えてやんよ!」

 俺に向かって引き金を引こうとした次の瞬間だった。

「あばばばばばばばばb」

「ふう、ちびりそうだったぜ。」

 目の前には電気ショックで気絶したテロリストの姿があった。

「え?なにが起こったんだい?これ?」

「まぁ、この施設の最大の特徴が働いたって事だよ。」

「大丈夫だろってこの設備があったからかぁ。いやはや、たまげたな。」

 この施設の最大の特徴、テロ対策が世界でも有数のレベルである事。今、作動した電気ショックはテロ対策の一つである。一つの店舗と店舗の間などにスタンガンが設置されており。犯人めがけて針が飛んでくる仕組みだ。

「に・い・さ・ま?なぜあんな事をしたのですか?」

 おぉ怖い怖い。いや、マジで怖い。

「いや、あれは犯人が動かなくなるのが条件に入ってるから。」

「それでもです!あんな危険な事はしないでください。」

「いや、傭兵だからいつもの事じゃないか。」

「今は傭兵の仕事じゃないのですから!必要のないリスクは背負わないでください!」

「ご、ごめん。」

 まさかここまでミウラが怒るとはな。いつも傭兵の稼業をしているからそういう事には鈍感だと思っていたよ。俺もまだまだだな。

 ちなみにこの設備をプロデュースした人物と知り合いだったりするのだ。だから知ってたんだけど。

「とりあえず、このフロアの人質の人に伝えて、しばらく、ここを動かないで欲しいって。」

「ノマドクンは?」

「とりあえず、俺は寝る。」

「ボクも。」

 ソファー売り場が近かったので俺達はとりあえずその試乗用の物で寝た。とってもフカフカしていた。

「おい。」

「んあ?」

「起きろ。」

「ああ。」

 一時間ぐらい寝ていたようだ。テロリストたちも無事捕まり、警察達が事情聴取を始めていた。まぁ目の前の奴は警察ではないのだが。

「お前は何をしているんだ。ノマド。」

「あぁやっぱり来ると思ったよ。ファル。」

 この目の前にいるスーツ姿の人物は相模ファル。俺と同じ名前形式のコードネームを使用している。まぁコイツがパクったのだが。そして、

「ノマド!起きたんだ。で、この目つきの悪いおねぇさんはだれ?」

「ん?あぁ。コイツはPMCのCEO仲間だ。同じ町の。」

「あ、そうなんですか。どもども。」

「ちなみにこのテロ対策の設備のプロデュースもコイツだ。」

「ふえ~凄いひとなんですね!」

「そうでもないけどな。コイツこういう事しないと会社が持たないだけだからな。」

「人聞きの悪い事をいうな。ノマド!むしろお前はこういう事をしないでよく会社が持つな!」

「お前と違ってこっちは個々が強いからな。」

「個々って二人しかいないじゃないか!貴様が私の会社に入っていれば私がこんな事しなくてもいいのに・・・。」

「いや、最近二人増えたよ。」

「そうなのか。まぁ一人は予想がつく、そこの小娘だろう。」

「あぁそうだ。んでもう一人が。お、きたきた。」

「ごめんごめん、ノマドクン。ミウラちゃんとお花摘みにいってたよ。」

「ミウラ、アゲーラさん。おかえり。」

「あ・・・あ・・・。」

「アゲーラさん。紹介するよ。この町のもう一つのPMCのCEO、相模ファルだ。」

「へぇ~この子もおっぱい大きいねぇ~。」

「ひゃ、ひゃじめまして!アゲーラさん!相模ファルです!会えて光栄でございましゅ!」

 ん?喋り方がおかしいぞ?なにが起きたんだ?

「よろしくぅ~ファルちゃん。」

「はい!こちらこそよろしくお願いします!」

 どうにもおかしいので、ファルに小声で聞いてみた。

「お、おい。ファル。どうしたんだ?」

「どうしたもこうしたも、アゲーラ・ケーニッヒさんじゃないか!どういう事だ!?」

「いや普通に俺の会社の社員だけど。」

「えぇぇぇ!?アゲーラ・ケーニッヒさんってどういう人か知っているだろう!?」

「さぁ?」

「おい!まったく、貴様は。アゲーラ・ケーニッヒさんは依頼達成率99.9%を誇る伝説の傭兵だぞ!その伝説はかの蛇とも並ぶって。」

「あぁそうなんだ。で、それが何か問題?」

「はぁ、貴様はアゲーラさんを何で雇ったんだ?金か?それともアゲーラさんに恥辱を味合わせて・・貴様地に落ちたか。」

「何を考えてるんだお前は!?ちげーよ。ただ、昔、師匠をして貰ったから、その縁でだよ。」

「え?あのアゲーラ・ケーニッヒさんが?貴様に?冗談はよせよ。」

「本当だよぉ~。」

「あ、アゲーラさん!?いつの間に!?」

「そりゃぁいきなり仲間外れにされたから悲しいじゃん?だから無理やり入ろうってね。」

「と、とりあえず私は仕事に戻る。あ~企業向けのレポート提出しなきゃ。」

 なにかに悩まされながらファルは去っていった。傭兵なのにアイツは傭兵らしい事しないな。相変わらず。まぁ俺たちのような「好きに生き、理不尽に死ぬ」ような傭兵の時代は過ぎ去っていってしまったのかもしれない。

 まぁアイツに関しては他に理由があるんだけどな。まぁそれは追々。

「またあの人来てたのですね。」

「あぁ。」

「いつも兄様をこの会社から引き抜こうとしてますけど。」

「まぁ、あっちの会社とは経営概念が全然違うから俺は行きたくないかな。行ったとしてもすぐ抜ける。」

「なら安心です。」

 アイツの会社、堅苦しそうなんだよな。絶対行きたくねぇ。

「じゃ、そろそろ帰りますか。」

「パフェは?ねぇねぇパフェは?」

「テロがあったばかりだ。ここでは食えん。」

「えぇー、そんなー。」

「大丈夫だ。何とかする。」

「ホントに?」

「ああ、本当だ。ミウラ、ここから石橋屋までのルートに持ち帰りのできるパフェはあるかい?」

「この近くにパフェの売っているコンビニがあります。そこにしましょう。」

「おし、じゃあ行くか。」

「ノマドクン。」

「なんですか?」

「さっきの子の事なんだけどさ。」

 真剣なトーンで言った。なんか嫌な予感がする。

「今度会ったらおっぱい揉んでもいいかな。」

「だめだよ!」

 やっぱりそうだったよ!真面目に聞いて損した!


 石橋屋二日目(訓練最終日)


 石橋屋に着いた頃にはパフェも食べおわり、ラウダもやる気十分になっていた。

「今日こそ訓練を全部おわらせますよ~。」

「頑張れよ。これをこなせないと依頼に連れていけないからな。」 

 そう、これが終わらないと依頼に連れていけないのだ。なんたって危険だからな。ラウダ自身じゃなくて俺達が。ラウダ自身が危険なのは知ったこっちゃない。

「へぇ~最近はこんなカリキュラムもできたのか。時代は過ぎ去っていくものだな。」

「おう、ノマド。ちと頼みたいことが・・っておい!アゲーラじゃねぇか!?」

「お久しぶりぃ~テンチョ!」

「まぁ生きてるだろうなとは思っていたがよ。ちと遅すぎるんじゃねぇかい?」

「あはは~。色々あったのだよ。いろいろ。」

 生きてるんだと思ってたんだったら言えよこのクソ店主。

「ノマド。この会社も凄いメンバーになったな。これからもご贔屓によろしくな!」

「まぁ、信頼できるのがここしかないからな。こっちからもよろしく頼む。」

「で、本題なのだが、できるか?」

「またかよ。しゃーねぇな。」

「悪い、お前のほうが適任だからよ。」

「ん?なにが始まるんだい?」

「まぁ後のお愉しみさ。」

 そして俺は準備に入った。その間ラウダは訓練項目をこなしているだろう。

 俺はこの後の役目のため、感情を確認する。俺が手に持つのはリボルバーだ。この銃ほど扱い易い銃はない。無論つかうのはシングルアクションのみ。6発。銃に入っている弾は6発なのだ。久しぶりの感覚。誇りと技術を相手に叩き込む。これぞウエスタン。血が


燃える。相手側の準備は終わった。俺は前にでる。

「さぁ!最高の舞台。ド派手に暴れようかぁ!」


 一方、ラウダの訓練は


「あぁ~つらい。こんなの半日でやれって鬼畜すぎるよぉ。でも次で最後の訓練だ。気合い入れてやるぞ。」

 と意気込み、目の前の扉を開いた。

「ラウダちゃん、今回はより、実践的な訓練を行う。この眼鏡と銃を付けてくれ。」

「はいはい。」

 眼鏡を掛けたとたん。銃がボクの愛銃に変わった。

「なんですか!?これ!」

「すごいだろ。今回はそれで戦ってもらう。反動や動作は殆ど実銃に近い。それでこの先の相手と戦ってほしい。これで最後だ。」

「本当に、最後なんですね。これでようやくノマドに認めてもらえる。」

「ルールは簡単、相手に一発でもあてればラウダの勝ち。ラウダに30発当たれば相手の勝ちだ。簡単に言うとサバゲーみたいな物だ。当たっても死にはせんから思う存分やってくれ。ちなみに弾薬は現実的に持てる数だけだからそれも把握しながら戦えよ。」

「わかりました!では、行ってきます!」

 なんかボク有利のルールだけど気にしない。甘えにはとことん甘える。ぬるま湯には頭からダイブして長時間ぬくぬくしているのが、ボクの信条の一つさ!

 今回のルールの中にボク側にフィールドの散策が許されている。

 ということでフィールド散策をしているのですが。ここは市街地戦、廃墟のようなステージですね。色々なバリケードや建物。果てはよく分からない建造物まであります。

 しばらくは相手が入ってこないので今のうちにフィールドの形を覚えちゃいましょう。これでどんな相手が来たって大丈夫です。しかもフィールドはちょっと狭い。とっても覚えやすいフィールドです。

 そろそろ相手側が来ます。ちょっと身構えないと。で、この時にアナウンスが流れた。

「ここに相手があらわれます。相手出現まで10、9、8、」

 ご丁寧に出現位置まで教えてくれるみたいです。とてもありがたい。ですが開幕3秒は相手を撃ってはいけないみたいです。取り敢

えず、相手の武器の把握に努めるのが一番いいみたいです。

「3、2、1。状況開始!」

「さぁ!最高の舞台。ド派手に暴れようかぁ!」

 え、ノマドじゃないですか。これは楽勝っぽいですね。この前なんて寝てましたし。しかもノマドの銃はリロードに時間が掛かりそう且つ、弾数も少なそうな古そうな銃一つだし。これは勝ちましたね。

 パァン!

 ノマドが空に向かって銃を撃った。なにをしているのだか。ボクには理解できない。やっぱりノマドは頭が・・

「みぃ~つけた。」

「ひぃ!」

 パァン!

「ラウダ、ヒット、残り29」

 あ、残り残機もコールしてくれるのね。

 って思ってる場合じゃない!逃げなきゃ!

「普ッ通~に逃げてるだけじゃぁ楽しくないよぉ~。もっと考えて逃げなきゃ。」

 パァン!

「ラウダ、ヒット、残り28」

 てか誰ですかあの人!全然ノマドっぽくないんだけど。取り敢えず逃げなきゃ。

「しゃーないなぁ。一度ここで待っていてあげるよぉ~あひゃひゃひゃひゃ!」

 なんてこった!ノマドの頭がいかれちまった。

 今の内に逃げないと!

「あーあーラウダちゃん、聞こえるかな?」

 いきなり耳元に声が聞こえてきた。この声には聞き覚えがある。

「アゲーラだけど、無線でできる限りサポートさせてもらうよ。」

「ありがとうございます。で、あれ。本当にノマドですか?」

「あぁ、そうみたいだよ。ノマドクンは戦闘時感情を変える事によってその戦闘に合っているスタイルに変えるんだ。アタシは「感情操作」って呼んでるけど。今回のは初めて見るね。いつもの戦闘時の感情操作は冷静さを上げながら他の感情のパラメーターを操作する事が多いけど。これはテンションアゲアゲだね。さしずめ、『ウエスタンモード』かな。見てて怖い。」

 本当にノマドみたいだ。なにかあったのだろうか。

「テンチョが初めて見つけたみたいなんだけど、この訓練でリボルバーを持たせてみたら、ああなったらしい。」

「リボルバーを持つことになにかあったんでしょうか。」

「多分ゲームのやり過ぎ。」

 さいですかー。ゲームのやり過ぎであんなのになるのですかー。ゲーム、コワイ。

「とにかく、アタシにもよくわからないから、考察しながらサポートするから頑張ってねぇ~。」

「頑張ってって・・・。どうやって勝てばいいんですか。」

 パァン!

 また撃ってる。あの銃でよく無駄撃ちできますよね。

「みぃ~つけた。」

「また!?」

 パァン!

「ラウダ、ヒット、残り27」

「ラウダちゃん!横に不規則に逃げて!」

「はい!」

 横方向に不規則な速度、方向に動いた。意外と避けれるみたいだ。これなら逃げれる。

「よ~やく逃げ方がわかったみたいだねぇ~。そうそう、そうやって機会を窺うのは大事なことだぞぉ~。フヒッ。」

 なにあれ、本当にキモイ。なんで位置がわかる訳!?

「エコロケーションか。」

「え?なんて言いました?」

「エコロケーション。反響定位とも言う。コウモリやイルカとかが使っている壁とかを音の反響で把握する能力の事だよ。」

「それをノマドがやってるのですか!?人間のノマドが!?」

「そうみたいだ。元々耳が良かったのだが、ここまで鍛えるとは。だがしかし、多大なデメリットがある。」

「そんなのあるの!?教えて!」

「一つは発砲音で場所がバレる。」

「なるほど!では次の時に」

「だけど、すぐ移動するから無意味になるんだよね。」

 ズコー!

「それ、言う必要あったんですか!?」

 勢いよく転んじゃった☆こんな所ノマドに見られたらやばいなぁ。

「やあ。」

「へ?」

 パァン!

「ラウダ、ヒット、残り26」

 なんでこういう時に限っているのかなぁ!

「ずっとすぐ近くにいたよ。」

「本当ですか!?キモッ!」

「うん、こっちは位置情報見れるからさ。」

「なら教えてくださいよ。」

「無理だね。ルールで決まってるからさ。」

 そこもルールで決まってるんですね。

「それでは、もう一つのデメリットを教えてください。」

「もう一つのデメリットは弾を無駄に使う事だね。あの銃の装弾数は6発。二丁持ってるならマシなのだが。一丁しか持っていない。その上あの銃はリボルバーだ。つまりリロードに時間が掛かる。その隙をつけば、なんとかなるかもしれない。残り一発のハズだから、今なら勝機があるかもしれないね。」

「わかりました!」

 なるほど、あの古そうな銃にはそんな欠点が。まぁ、考えたら分かるかもしれないけど。これならボクにも勝てるかもしれない!

「よし、来い!」

「おぉ、出てきたね。じゃあ始めようか。見せてみな。お前の実力をさ。」

 とりあえず正面突破、そのあと背後から撃つ!一発目はできるだけ避ける!

 パァン!

 ギリギリ避けれた。あとはこっちのモノだ!

 と思って撃とうとした瞬間バリケードに隠れた。だけど今の走りの速度ならリロード時間に間に合う!

「いっけぇえ!」

 タァン!

「残念。俺じゃなかったら満点だったのにな。」

 パァン!

「ラウダ、ヒット、残り25」

(え?今何が起きたの!?とりあえず逃げなきゃ。)

 近くにバリケードがあったのでそれを伝って逃げた。逃げている最中にアゲーラさんから無線が入った。

「チィッ!やっぱり対策してきてたのか。やっぱり愛弟子はやるなぁ。」

「感心してる場合じゃないですよ!」

「とりあえず今アタシが見た情報を伝えておく。奴はローダーを使っている。」

「ローダー?」

「リボルバーをリロードするための物だ。これがあるだけで格段にリロード速度が上がる。しかも。」

「しかも?」

「銃を回転させて空薬莢を排出している。これは完全にゲームのやり過ぎだ。しかも見事に実用化されている。並のかじっただけの奴より手強い。」

「もう打つ手はないんですか!?」

「いや、わからない。思いついたら、また連絡する。」

「わかりました。」

 さぁここからどうするか。とりあえずこの銃は単発だけどオートマチックだから指の速さ次第ではこっちは連射できる。これなら真正面からごり押しすれば勝てるかも知れない。

 パァン!

 よし今だ!

「今度はそっちから出てきてくれたんだね。」

 タン!タン!タン!

「正面突破か、悪くない。自分の方が残機多いし、オートマチックだからね。だけど。」

パパァン!パパアァン!

「へ?」

「ラウダ、4ヒット。のこり21」

 なにあれ本当に怖い!なんで連射できるの!?逃げないと。

「あんな技術をモノにしているとは、やっぱりノマドクンは凄いや。」

「感心してる場合ですか!このままじゃボクがやられちゃいます!あの銃は連射できないじゃないんですか!?」

「いや、できるよ。正確に当てるには凄い技術力と鍛錬が必要になるけどね。」

 そうだったんだ。知らなかったです。今度教えてもらおうかな。

「あと、たった今逆転できる方法が見つかった。」

「そうなんですか!教えてください!」

「フィールドは把握したんだよね。」

「ハイ!」

「じゃあ隠れられそうな所に行って。」

「わかりました!」

 とりあえず一か八か。やってみるしかない!

 パァン!

「そこにいるな!」

 ノマドが曲がり角から出てきて構えた。

「ん?だれもいないなぁ。何処かに逃げたかなぁ。ウグッ!」

 ノマドはその場に倒れた。

「う、動けん!ば、バカな!」

「ノマド君、ボクじゃなかったら勝てたかもね。ボクは魔王だよ。電気の魔法なんてお手のものさ。」

 タァン!

「ノマド、ヒット。状況終了!」

「ボクの勝ちです。」


 訓練後


 やっぱりラウダはある程度強いみたいだ。ウエスタンモードで勝てないほど成長するとは思っていなかったが。

「兄様、お疲れさまです。」

「おう、ミウラ。ありがと。」

「やったー。ノマドに勝った!」

「ほとんどアタシの指示だったけどね。」

「アゲーラさん、それ言わない!」

 だろうな、じゃないとあんなの思いつかないだろう。

 あの時、俺が反響定位をしたときは動かず、その直後ラウダは魔法を使って隠れたみたいだ。そしてアゲーラさんが考案したであろう、ホテルの設備みたいな電撃を俺に食らわせたのだろう。まぁこんなところか。

「これでボクはノマドより強いって証明されたね!」

「「「「それはない。」」」」

「全員で言わなくてもいいじゃないか。」

 ここにいる全員でハモってしまった。すてきなハーモニーだった。

「なんで?さっき勝ったじゃん。」

「兄様の本気があの程度だと思っているのですか?」

「違うの?」

「あれは訓練限定です。ウエスタンモードは二丁持ちから本気です。」

「やっぱり二丁持ちするんだぁ。本当にあのモードはゲームのやり過ぎで生まれたモードだね。」

「仕方ないだろ。男の子だから憧れるの!ああいうのには!」

「だが、ノマド相手に21も残機残すのは異例のことだぞ。大体は残機3くらいでノマドが飽きるからな。そこで勝つ奴がほとんどなのだが。」

「やっぱり?ボクってそんなに凄いの!?」

「魔法があったのも大きいがな。」

「でもこれでようやく、正式に仲間にしてくれるんだよね。」

「おう、訓練が終了したからな。これからもよろしく頼むぞ!」

「やった!勝ててよかった!」

 あれ?勘違いしてない?とりあえず勘違いを解くため、一つだけ言っておくか。

「盛り上がっている所悪いが、勝っても負けても訓練課程は修了だから負けても仲間になれたぞ。」

「先にいってよぉ!」

 こうして魔王ラウダが正式な仲間になった!

 RPG風に言ってみたけど、魔王が仲間になるRPGってなんだよ。しかもまだ序盤なんだけど。

 アゲーラさんが近くに寄ってなにか話したい事があるようだ。聞いてみよう。

「そういえばアタシは訓練しなくていいのかい?」

「したら速攻で終わらせちゃうでしょ!あなたは!」

 愚問だった。

 とりあえず石橋屋を後にし、家兼会社に向かった。

 家と会社が一緒って普通に聞くとブラック企業みたいだよね!それでも安心してください。ワタシの会社はホワイトです。たまに死にますが。

「疲れたー。お風呂ー。」

「兄様、先に入りますね。」

「おう、わかった。明日の予定立てておくから、ゆっくり入ってきな。」

「覗いたらダメぞぉ~。」

「覗きませんよ。」

 とりあえずこっちは明日の依頼を確認しなければっと。

 ということでロビーに来た。デパートに行く前に依頼ボックスを置いといたので、依頼が来ていたらボックスの中に紙があるはずだ。来ていれば。

 中身を見てみたら、とりあえず依頼はあった。よかった。内容はどうだろうか。ふむ、雑魚狩りか。これがちょうどいいだろう。今回はちょっと遊ぼうか。

 まぁラウダの訓練後初の出撃としてはちょうどいいモノかな。まだゴミムシレベルだし。

 という事で明日の予定は決定。弾薬と武器の準備をしておかないとな。ちょうどあの格好もしてみたいし。多分ミウラに怒られるけど。

(それにしても昨日だけで二人も増えるとは。改造車、もう一つ作るかな。前作った奴と一緒の構造でいいよな。うん、それでいいだろう。)

 とこんな感じで今後の経営方針を考えていると、ミウラ達が風呂から上がってきた。

「兄様ーお風呂空きましたよー。」

「ふぅ~。漫画で見たものよりとっても大きかったなぁ~。流石のボクも大満足さ。」

「ノマドクン。聞きたい事があるんだけどさ。」

 またアゲーラさんが真面目トーンで喋ってきたよ。もう慣れたよ。ハイハイ、ナニヲシタイノデスカ。

「なんで覗かないの?」

「覗く必要がないからだよ!」

「え~。ノマドクン男でしょぉ~。」

「朝の下着姿でこちとら満足なんだよ!言わせんな恥ずかしい。」

「へぇ~。下着姿の方が興奮するのか~。変態だね。」

「アゲーラさんには言われたくないです。」

「いやぁ。五十歩百歩だよ。変態なのには変わりない。悲しいけど。」

「最後重くしようとしてたけど、無駄だからね?この話の本題が変態の時点で『ふわふわ』してるからね!」

 なんか蒸気が漂っている。誰かお湯沸かしているのか?そう思って隣を見てみたら。

「兄様が私の下着で興奮してくれた・・・。ボフン!」

 すっごく赤くなっているミウラがいた。とっても可愛い。

 いけない、いけない。ここはクールにミウラの容体を聞かなければ。ゲームの主人公みたいに!ラノベの主人公みたいに!

「どうした?ミウラ。のぼせたか?」

「そ、そうですね。私は先にベッドに行って寝ています。」

 そう言ってミウラは素早く寝室に向かった。恐らく自分の。俺の寝室じゃない事を切に願う。

「ボクも今日は疲れたので寝ますね。」

 「ふぁ~」とあくびをして、ラウダは自らの寝室に向かった。アイツ、これが初めての自室での睡眠だが、寝れるのか?

 マズい。今気づいたけど。二人ともフラグが立っている気がする。とてもマズい。

 これでアゲーラさんも立ってしまったら本当にマズい。

 アゲーラさんの方をみたら・・・・やべぇ。この人察しちゃったよ。すっごくニヤニヤしてる。

「ねぇねぇ。ノマドクン。今日だけ一緒に寝させて~。」

「お断りいたします!なに言っているんですか!いい大人の癖に!」

「大人だからだよ。ノマドクンだって溜まっているだろう?」

「溜まってないよ!俺の貞操を奪おうとしないで!」

「なら夜這いしちゃおうかな~。」

「ヤメテ!まじでヤメテ!俺は明日の準備があるので先に寝ていてください!」

「はぁ~い。」

 今夜も自分の部屋で眠れないのか。泣けるぜ。

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