1-2 旅客機ごと消えた兄枢機

 そのときに枢機が乗っていたのは、戦闘機ではなく、旅客機だった。


 便は羽田空港発、那覇空港到着の始発便NL511便で、機種は座席数270席のボーイング767、そして消えた場所は三重県の東に位置する、フィリピン海沖の上空だった。


 列島の南岸をなぞるように南下中、紀伊半島脇にさしかかったところでふっつりと管制塔かんせいとうとの交信が途絶えたその直後、半島をジャンプ台にする形で、だしぬけに航路を逸らし、その十数分後に監視レーダーから忽然と姿を消してしまったのだ。


 乗客数は189名で、くしくもその中には、キリンの五つ歳上のお姉さんである、ユニカ先輩も含まれていた。枢機は研修が目的で、ユニカ先輩は短大の夏休みを利用して、友人と二人で二泊三日の沖縄旅行を予定していたということだ。


 その後事件はあっという間に大騒動に発展し、連日ニュースとワイドショーはこぞってその話題を取り上げた。日本のみならず、世界各国でも特集が組まれたほどだ。インターネットの巨大匿名掲示板には、関連スレッドが当然のように乱立した。


 はじめ人々は、オカルト的な怪異現象として事件を受け止めたようだ。

 何しろ二百人近くもの人間を乗せたあんなにも大きなものが、卒然と消えてしまったのだ。当り前のことかもしれない。


 それに、今は衛星写真や動画等の技術が極限近くまで発達しているわけだから、いくら飛行機本体からの情報が途絶えたのだとしても、ある意味でどこにも逃げ場など、ありはしないのだ。地底へでも潜らない限り、どこにも隠れることなんてできないのだ。よって事件を科学的に解釈しろという方が、どだい無理な話だったに違いない。


 しかもそのタイミングで、事件は予想外の展開を迎えることになったのだから尚さらだ。


 なんと、約半数の人間が戻ってきたのだ。

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