14 意外にも教え上手な留学生ハクさん

 休憩が終わると晴夏はまた袋詰めと、テキストの確認を指示された。祐希はハクさんをレジに呼んで、晴夏をその横に付けるとまた先に帰ってしまった。晴夏は少しがっかりした。

 ところが、意外なことにハクさんはとても親身になって教えてくれた。それに、日本語は少したどたどしいのだが作業を教えることにはとても慣れているようで分かりやすかった。


 「テキスト今終わりです。やってみれば、それからまた読めば覚えます」


 ハクはまず晴夏に、お弁当をレンジで温めて、お箸を付けてお客様に渡すという動作を何度も繰り返し練習するように言った。


 「みんな、最初に忘れますから……お箸がないとお客様食べれないです」


 他にも、おでんを容器に取り分けて蓋をすることや、切手を切り分けて小さな袋に入れること……ハクさんは新人が最初に迷いやすい部分をよく分かっていて、次々に指示してはコツを説明したり、手本を見せたりしてくれた。

 おかげで、勤務が終わるころには晴夏はレジカウンター内にある様々な商材の扱い方をほとんど実際に体験し、何とか一人で出来るようになった。


 「おっはよー。晴夏ちゃん、昨日よりだいぶ慣れてきたんじゃない?」

 「えへ。そうですか? ハクさんのおかげですよ」


 出勤してきたヒカルにも褒められた。もちろん、まだまだ。でも今はしょうがない、まだバイトを始めたばかりなのだから当たり前。晴夏は少しだけ自信が付いた気がした。


 「ハクさんの説明、とても分かりやすいです。おかげで今日、けっこう自信付きました」

 「そうですか、良かったです」

 「はい。ありがとうございます。色々教えてくれるの、ハクさんだけです。仕事のことは祐希先輩に聞けって言われたんですけど」


 いっしょに退勤したハクさんと話しながら家路に着く。


 「はい~。私も、祐希さんに習っています。祐希さんに聞くの一番いいです」


 晴夏が少し驚いたようにハクさんの顔を見た。一瞬「ん?」という表情を返したハクさんは、しかしすぐに屈託ない笑顔に戻った。


 「祐希さんとても仕事が上手です。それに美人。私、祐希さんすごく尊敬してます」

 「そうなんですか。私も、最初見たときにはすごく優しそうで、仲良くなりたいなって思ったんだけど……なんか私、ダメみたいです」


 するとハクさんは急に立ち止まって、今までより少し強い声で言った。


 「ダメはないです。麻白さん……ダメはないです」

 「店長さん私に言いました。自分でダメって言う……失礼です」


 晴夏は言ってることが良く分からなかった。だが、とにかくハクさんが何かを伝えようとしてくれたことが嬉しかった。それから少し、二人とも黙ったまま歩いた。押井川にかかる大きな鉄橋の歩道を渡り切ったところでハクさんは立ち止まった。


 「私こっちです」

 「あ、そうですか。私はこっちです」


 晴夏はお辞儀をして、その場でハクさんを見送った。その後姿に向かって、さっき言われた言葉を一人呟いた。


 「……ダメは、ないです」

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