たたかい
この星最初となるいくさは、たどたどしくも奇妙に行われた。
尖兵は領土に侵攻すると、まずは周囲の住民がどの王に帰属するかを聞いて回った。"くるくる"と答えた者は、状況を教え込まれ次なる尖兵と化した。一方"たかけり"派も、訳も分からぬまま説得され、結局"くるくる"に帰属したのである。
十週以上にも及ぶ無血の進軍の果てに、"くるくる"は"たかけり"の住処に到達した。"くるくる"は文官を外で待たせると、狩りの上手い数頭を連れて洞穴に入っていった。
"たかけり"の身の丈は"くるくる"の倍近くで、その触腕は幼体の胴回りほどもあった。彼は入ってきた異分子を不審そうに見つめると、"くるくる"に触れてこう言った。
「進物はどこだ」
"くるくる"は即座にこう答えた。
「お前がそれを差し出しなさい」
そして触腕を閃かせ、"たかけり"の急所に突き刺した。彼は瞬時に絶命した。
居合わせた者は等しく衝撃を受けた。同族殺しを試みた者は歴史上一頭もいなかったのである。彼らの頭には様々な思案が駆け巡った。
突如一頭が"くるくる"の背後に駆け寄ると、触腕で彼女を串刺しにした。更に一瞬後には、既に次の者が王に成り代わっていた。帰属意識は捨て去られていた。殺しが常識になった今、血みどろの禅譲は、動く者がほとんどいなくなるまで続いたのである。
「……わかった」
頭の回転の遅い彼は、争いも終盤になってようやく合点がいった。王を殺した者が次の王になれるのだと。
"よわのろ"は、死体の山に近づき最後の王を屠ると、洞穴の外に出た。待たされていた側近どもは、彼が触腕に触れて回るのを見て、主が変わったことを悟ったのだった。
弱くてのろまな新王は、わからぬことはすべて配下に任せた。存外その治世は、悪いものではなかったという。
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