第2節 文明の興り

第1章 "おひるね"と楽園

割拠

今週も地平線の彼方に『赤さ』が沈もうとしていた。追いかけるようにして地殻が冷えていく。すると獣どもがそこいらじゅうを走り出すより先に、大勢の人々が住処から現れ、互いに牽制を始めた。今や人々は自然に形成した洞穴になど住んでいなかった。彼らは地を穿ち、また残土を捏ねて得た煉瓦を積み上げることで、幾つもの小規模な巣穴を形成するに至っていたのである。ひとつひとつの巣穴には複数のつがいとその子らが住み、数十の巣穴の集合がひとつの村を編み上げている。そして村と村は対立し、互いに生存圏を競っているのであった。

ある村は巣穴の並びを不規則に変化させることで暮らしを気取られまいとした。またある村は連続した煉瓦の長大な壁が縄張りを囲っていた。山の頂上に居を構えることで、領地に転がり入ること自体を困難にする試みも見られた。そしていずれの村も、敵を効率よく狩れるように、袋小路を有する小さな迷路を備えているのだった。


"おひるね"にとっては、その全てがうんざりだった。彼女は発明家チームのリーダーである。ついこの間も、煉瓦を円く加工することで、地殻を引きずるよりもはるかに楽に動かせることを見出したばかりだ。自分たちが転がるように物も転がせばよい、というシンプルな発想を、彼女は気に入っていた。ところが、この発明は省みられることもなく、直ちに兵器に転用されてしまったのである。坂の上から転がり落とす煉瓦礫は老ぼれ達には好評であった。しかし彼女は、この技術を村の発展のために活かして欲しかった。何もかもをつまらない縄張り争いに適用してしまうモチベーションの短絡は、彼女をいい加減辟易させていた。

そしてこの寒週の始まり、ついに"おひるね"は爆発した。

「も〜イヤ! あたし独立する!」

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