第3章 "くるくる"は負けず嫌い

かちまけ

 "くるくる"は常に他者を見ていた。どうにか個性を出したいと考えていた。もっともそんなことを考えている者はほかにいなかった。彼女が目立とうとするだけで、その条件は満足された。

 彼女は不満を高めつつあった。比較は常に、出会いがしらに一対一で行われる。彼女が勝ち、相手は負ける。淡々とした構図である。あっけないのである。

「なにかこう……圧倒的に勝った気分になってみたいわね」

「僕は?」

「駄目よ。あんた物足りないもの」

 この時代としては驚くべきことだが、彼女には決まったパートナーがいた。彼は"よわのろ"と言い、体の回転は遅いが頭の回転はもっと遅かった。つまるところ、負け役を用意していたのである。誰にも会わなかった場合の鬱憤は、彼に向けることでいくらか発散できた。それでも残るイライラは、彼を狩りに追い出すことで発散した。"よわのろ"も、二頭分の食料を確保できるだけの力はあったのだ。もっともあまりに不器用だったため、調理は"くるくる"の担当であった。

 "くるくる"はことあるごとに"よわのろ"を虐げたが、出来レースにはいい加減飽き飽きだった。

「もう一頭捕まえて来ようかしら」

「僕は?」

「あんたも残るの。そしたらもっとたくさん勝てるじゃない……そうだわ!」

「?」

「わからないの?」

「わからない」

「ありったけ集めるのよ! そしたらその中でも私が勝ってるってことがすごくわかりやすいわ!」

「僕は?」

「あんたも負けてるの」

「?」

「……わからないの?」

「わからない」

 あまりに頼りないパートナーの返答をもって、彼女は確信した。もっとすごいやつを連れてこないと意味がないわ。勝ったと実感できるまで何頭でも集めてやる。

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