うぶごえ
彼らは飢えていた。しかし、その飢えという欲求を完璧に理解してはいなかった。彼らはがむしゃらに活力を求めたのである。
《まれびと》の来訪を経て、星はそれまでの軸と垂直に回転することとなった。自転はほぼ完全に横転し、暖極は常に光を浴びる一方で、寒極は常に背中側となった。
生命のうち、ある者は光に身を晒し、灼熱に生を得た。それらは常に暖かな場所にのみいられるよう、暖極付近に爪を立てた。またある者は星自体の熱を求め、外乱の穏やかな寒極から地へ潜り込み、深々と根を張った。結局境界に居た者が最も大きな自由を手に入れた。彼らは僅かながら、寒暖を選ぶ権利を得たのである。帯状に広がる境界領域で、彼らは互いを貪りながら、行きつ戻りつを繰り返してその身を太らせた。はじめ球状だった身体にはいくつもの支持脚が生え、暑さや寒さに取り残されないように忙しく動いた。そこには地を滑るように動く者、跳ねて隆起を跨ぐ者、膜のように身体を広げ可能な限り空を行く者が居た。しかし最終的に覇権を得たのは、摩擦による消耗の少ない転がる者だったのである。彼らは比較的柔らかな皮膚をうねらせるようにして瞬く間に移動し、他のあらゆる生命を捕食した。栄養の充足は繁栄を生み、やがて境界帯には、遍く彼らが満ちることとなった。
繁栄は必死の生命維持から遠く離れた余裕となり、生命のもつ能力は生存以外にも生かされるようになっていく。
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