第21話 突入! 洞窟の奥には何がある?
「それじゃあ、作戦を確認するね」
月の明るい夜空の下、トルが全員を振り返る。
「今回の突入作戦の目的は箱物の生態調査・討伐ならびに拉致被害者の奪還。ただし、拉致被害者が存在する確証はないため箱物の生態調査・討伐を優先すること」
緊張の無い落ち着いた口調で語られる概要にイガルガが口を挟む。
「箱物がいるっていう保証もないけどね」
「いいや、いる。必ずな」
それを真っ向から否定してからリクはトルに続けろと視線で促した。
「箱物の潜伏先である洞窟には構造を知ることのできる資料がないため、これを作成しながらの攻略となる。よってこれより先は分隊せず固まって行動をする。フルーナちゃん、ネルマちゃんが先行して後続をイガルガちゃんとアリちゃん、リクとオズベルちゃんと続いて最後尾は私。この隊列を崩さないこと。会敵したらイガルガちゃんはいきなり魔法を使わないで温存。オズベルちゃんもカードの使用は避けて。可能な限りフルーナちゃんとネルマちゃんで対処する。でも疲れてきたらそのときは後衛も戦闘に参加するから遠慮なく言ってね」
「承知しました」
「はい……」
その他諸々の説明と荷物の分担を行って、いよいよリクたちは洞窟に足を踏み入れた。
「ほんとに真っ暗ですね」
月明りが届かなくなり、反響しないようにアリが掠れさせた小声で呟いたのを合図にトルは懐から拳大の球を取り出し放り投げた。途端に球……ライトボールは眩しく発光し始めて洞窟の中を照らす。この魔導具は大きさによって光の強さが違う。拳ほどの大きさとなると真っ暗闇で50メートルほど先まではなんとか見通せるようになる。もちろん、暗闇の向こうからこちらが丸見えにはなるが、50メートルともなればそうそう奇襲される恐れはない。せいぜい超遠距離魔法に対処が少し遅れるぐらいだ。
模擬戦の際には月明りのおかげもあってもう少し小さめのライトボールを使用していた。ライトボールもカードと同じく使えば消える消耗品だ。
その宙に浮かぶライトボールをトルが時折ポンと叩いて前に押しながらそれに合わせて隊は奥へと進んでいった。
「なんていうか、何もありませんね」
アリの言葉にイガルガが鼻を鳴らす。
「まったく。こんななら装備なんか整えないでさっさと突入すればよかったわよっ」
時折、大きな窪みを現しては分かれ道かと誤解させる洞窟は、まっすぐではないものの、果てしなく一本道だった。幅・高さともに5メートルはあろうかという通路は壁も床も天井も固くて簡単には崩れそうにない。もっとも、舗装されているわけでもないため無暗に傷付けるようなこともしないが……。とにかく安全に気を配っておいて損はない。
「けれど、ライトボールが有ると無いとでは大きな差があります」
「んなの、アタシの魔法でどうにでもなるわよ」
フルーナの指摘にもイガルガは強がってみせる。もちろんどこまで続くかわからない道をずっと魔法で照らして進むなど底の見えない水底を触れにいくようなものなのでイガルガがテキトーなことを言っているのは明らかだったが、目くじらを立てるようなことでもなかったので特に誰も何も言わなかった。
イガルガがもう一人ぐらいいればツッコミを入れたかな、などとオズベルが馬鹿なことを考えていると不意にすぐ隣くを歩くリクが口を開いた。
「待て、死角がある」
リクの指摘通り、ライトボールで照らしても壁がへこんでいて陰になった地形が20メートルほど先に見えた。
オズベルは10を超えたあたりで数える必要性がないことに気付いたのでやめたが、それでもこうして窪みが姿を現す度に慎重にならざるをえない。果たして今回も窪みの中に何かが潜んでいることはなかった。
「何も……いませんね」
フルーナが気を抜かずに確認するように言うとリクも「そうだな」と頷いて、そこでようやく皆の緊張を解かれた。
やれやれ、これで何度目だ。さあ、進もう。と言う空気がメンバーの間に流れる。だが、リクの言葉には続きがあった。
「生き物はいないが、何かある」
「えっ!」
慌てて武器を構え直す隊員たちを押しのけるようにリクが進み出ると、トルがオズベルに「後ろお願い」と囁いて続いたため、オズベルは後方より何か迫ってきていないか見張りに着く。
ふと、トルはどうやって歩きながら後ろを警戒しているんだろうなどと考える。無論振り返ればいいのだろうが、そのときには前に注意が向いていないことになるわけで、咄嗟に後退しなければならないような事態になったらとても危険だ。音や気配を感じ取っているのだろうか。オズベルは模擬戦で交差のカードをほぼノータイムで見破られたことを思い出した。
リクは窪み前にしゃがみ込むとさっと岩壁を撫でた。埃や泥を落とすような仕草を何度か続けると乳白色っぽいつるつるとした壁が顔を覗かせた。
「リク、これって……」
「ああ」
神妙な顔つきでリクが頷くと、何だろうと覗き込んでいた者たちも固唾を飲んで次の言葉を待ち受けた。
「箱の表面だ」
「ぃやっぱし! これで箱物の野郎がここにいるってのは確定したわねッ」
イガルガが指を鳴らす。その音声が洞窟の奥まで響いていき、咎めるような視線でリクに睨まれるとバツが悪そうに顔を背けた。彼女にしては殊勝な態度だ。
「これがランドさんが調査してた箱なのかな?」
「十中八九違うだろうな。こんな地中に少しだけ見えているような箱の目撃情報など出てくるはずがない。奴の調査していた箱物の入っていた箱自体はどこか別の場所にあるはずだ。つまりこれは別の箱物のものだ。……見えている部分が少なすぎて規模が分からないな。ただ…………」
「ただ……?」
不意に切った語尾を追及されてもリクが答えることはなく、代わりに天井を見上げた。つられて他の者たちも見上げるが、そこには他と変わりない天井があるだけだった。
「ただ、これは本来の調査対象じゃない。先を急ぐぞ」
やがてリクはトルの問いに答えるように言葉を発したが、きっと別のことを言いかけたのだとオズベルは予感していた。
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