第754話 金を出すのは誰になる

新しい区画。新しいギルド。新しい商売。

新しい場所で新しいことをするのだから、これまで存在しなかった商売も発生するだろう。

新しくできる商売にはギルドはない。ギルドはないのだから制約もない。


「その制服っていうのは支給するの?買うなら高くつきそうだけど」


細かいところだけど、とアンヌが指摘する。


「それは貸すことになるだろうな。するとサイズが難しいか・・・」


この世界の服は基本的にオーダーメイドか古着である。

現に俺が来ている胡散臭い商人服(サラ談)も古着だし、それが庶民の普通というものだ。

祭りや儀式のための貸し服屋もないことはないが、そこでも古着を貸すのが一般的である。


「エプロンでいいじゃない?貴族家の給仕とかメイド風のデザインにしておけばいけるわよ」

「エプロンか・・・」


服のデザインとなると、よくわからない。

ただ、元の世界でカフェの店員なんかがお洒落な感じのをつけていたのは印象に残っている。

そのあたりはアンヌに任せた方がいいだろう。


「じゃあ、角の肉屋のおばさんもお店を出せるのね!」


「当然だな」


肉屋のおばさん、というのはサラが贔屓にしている店だろう。

新しく造る店舗でも引き続き商売の権利は保証する。


「ただ、肉の品質について検査はするし売り方についても口出しをする。エプロンもつけてもらうし営業時間もこちらで指定することになる」


元の店をどうするか。移転の保証を権利で払うのか金銭で購うのか。

新しい通りでの商売を保証するにしても、どの場所に店を出す権利を保証するのか。

新しい客層に対応するための商品開発にどこまで口を出すのか等、考えることは多い。


「道を造るから立ち退け。商売は廃業しろ」とやってしまえば簡単なのだろうが、そんなやり方はしたくない。


「しかし、ここまでの計画となると工事期間は延びますし必要資金は莫大になりますね。もちろん計画書さえあれば教会の方で貸付けてくれるとは思いますが・・・」


そんなことをすればニコロ司祭あたりが嬉々として証文片手に乗り込んでくるだろう。

新しい区画の核は教会になることは確かだが、商売まで握られてしまっては店舗での売り物が聖人人形と神書だけになってしまう。


「俺としては教会の御業よりも、もう少し卑俗に振りたいところだな。露天で肉も食べ歩きたいし酒も飲みたい。なあに金貸しの当てはあるさ」


「というと?」


「スイベリーの義理の父に話を通す。この街の大商人達に投資の機会をやってやるのも悪くないだろう?」


「・・・大商人ですか」


なぜか聖職者は酢を飲んだような顔をした。

教会としては、あまり好ましいことではないらしい。

しかし、教会に嫌がられているからこそ大商人達の出資は必要なのだ。


「うちの団長も金を出したがると思いますね」


「ジルボアが?」


ジルボアにそれだけの資金が・・・?と言い掛けたが、例えジルボア本人に金がなくとも、今やこの街で最強の戦力と名声を有するジルボアに金を出したい人間は幾らでもいる。

そして団長のジルボア名義であれば、小団長の俺は断れないし踏み倒すリスクもない。


「たしかに、ジルボアにも持ってもらった方がいいな」


新しい区画の開発には、教会と大商人と剣牙の兵団で金を出す形になるわけだ。


元の世界では、これをジョイントベンチャー方式という。

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