第688話 公園造成計画

羊皮紙を睨んでいると、最近は地下の倉庫に籠もりきりのゴルゴゴが珍しく仕事部屋の方に顔を見せた。


「ちょっと相談があるのじゃがな。例の遊具とやらで」


忘れていた。公園のアイディアと遊具のデザインについては、こちらで指示をしないと計画が動かない。


「そもそも、どこの土地に置くのかも問題じゃろ。村の土地は柵内には余りがないと思うが」


ゴルゴゴが確認してきたように、柵に囲まれた村の中心地近くの土地に、余計な空き地などない。

最近は怪物の脅威も減少してきたことから、村の柵で囲む範囲を広げようという動きもあるが、未だに手はつけられていない。


「一箇所、いい場所が余っているじゃないか」


地図を指すと、俺以外の全員が顔を見合わせた。


「それっていいの?」


「まあ、確かに余ってはいるが」


口々にあげられる疑問には肩をすくめて答える。


「村の中に遊ばせていく土地なんてない。それに村の中心近くで便利じゃないか」


指差した先には、元村長屋敷、という注意書きがあった。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


とはいえ、村長の屋敷を解体するわけではない。


まずは庭先を公園として解放する。


「ただ、この広さでは遊具は置けないから、河に向かって拡張する」


先の代官の苛政の責任をとって追放されたのは村長だけでなく、一族も同時に辺境の領地へと移転させられた。

そうした無人の屋敷群が、村長宅の近くには幾つもある。


「村長の屋敷は作りも良いし勿体ないからそのままにするが、その他の屋敷は邪魔になるなら解体して移築する」


機械式の製材機などない世界では、真っ直ぐに加工された木材や板は貴重品である。

家屋は綺麗に解体し、他の屋敷でもリサイクルされるのだ。


「それに解体なら手の空いている連中がいるだろう?」


幸いというか、この土地には余っている男手がある。


「男たちに伝えてやってくれ。明日の朝から仕事がある、と」


玄関先に控えていた3人組の子供に伝言を頼むと、我先にと走っていった。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「それにしても、子供たちのためというには、少し大げさじゃないですかね。いや、反対しているわけじゃないんですが」


キリクが言わずもがなの補足をしたのは、サラが鋭く睨んだからだろう。


「いや、キリクの疑問は最もだ。これだけ広い土地を公園のためだけに用意するわけじゃない」


「すると、いったい何のためなんでしょうか?」


「あ、待って待って!あたし考える!」


サラが制止したので、少しだけ時間を置くとキリクやパペリーノもじっと考え出した。

最近は疑問を持つだけでなく、こちらで問いかけずとも意図を読み取ろうとしてくれる。

大変に良い傾向だ。


「なんでしょう?例えば家屋の端材を用いて集合住宅を作るとか」


「いや、それなら最初から解体なんてしない方がいいだろう。そのまま別れて住ませたほうが楽だからな。例えば広場にして訓練場にするとか、どうだ?村を広げようと思えば怪物の掃討は必要だ。村の連中も訓練した方がいい」


「子供の近くで、そんなことしたら危ないでしょ!そうね、やっぱり畑にして豆を植えたり鶏を育てるとか」


「それこそ、広場を作る理由はないでしょう。どこの家にも庭と畑があるのですから、まずはそこで育てるでしょうし」


3人で話し合うと、いろいろとアイディアがでるのは相変わらずだ。

こちらの意図とは違ったが、参考になる意見もある。


「場所がヒントだな。今回は河に向かって拡張している、というところが」


ヒントを出すと、サラが目を輝かせて答えた。


「わかった!倉庫をつくるのね!」


「だいたい正解」


正確には、製粉工場を建設する際の一時的な資材置き場に転用するわけだ。

工場建設には正確な測量が必要なため、専門の職人が来ていない今は作業をすすめることはできないが、作業が始まった時に円滑に進むようインフラを整備することはできる。


家屋を解体した資材は一部を公園の遊具に転用し、残りは他の村民の家屋の補修資材として活用しても良い。


「製粉工場の建設のための職人達が村に出入りするようになったら、また別の場所に公園を作ればいい。その頃には、この領地も今よりは豊かになっているはずだからな」


解説を聞いて、パペリーノが「教会のやり方とは違いますね」と、なぜか肩を落としていう。


それには「うちの領地は貧しいからな。金持ちの組織とはやり方が違う」としか答えようがない。


貧乏で資源が限られているからこそ、1つの施策はドミノを倒すように他の物事へも良い影響を与えるように計算する必要がある。

一石二鳥ならぬ、四鳥も五鳥も狙っていくぐらいの貪欲さが求められると思うのだ。

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