第三十五章 駆け出し冒険者を支援します
第578話 3人組の話
話を聞くために、3人組を連れてギルドの隅にある椅子に陣取る。
先客がいたのだが、俺がキリクを連れて近づくと恐れをなした冒険者たちが譲ってくれたのだ。
「小団長、ここでいいんですかい?何なら事務所に連れて行くほうが邪魔が入らないのでは?」
「いいんだよ、ここで」
キリクが善意で申し出てくれているのはわかるが、言っている内容がまるで暴力団だ。
ガチガチに固まっている少年達を、護衛を連れた金持ちが外に連れて行くのは、人身売買のようで外聞が良くない。
粗い木の板を組み合わせただけで、何の詰め物も敷かれていない固い椅子が懐かしい。
俺もサラもすっかり多忙になってしまって、駆け出し冒険者向けの相談に乗れていない。
靴の販売で間接的に大勢の冒険者たちを助けているはず、と統計的な数字を思い浮かべてみるが、それでも最底辺の駆け出し連中をサポートする仕組みが欠けている事実は動かせない。
「いいから、座ったらどうだ」
すっかりしゃちほこばって立ったままの3人組に椅子に座るよう促す。
「あ、あの・・・そちらの方は」
3人組で鍋を背負った少年が躊躇する。
どうやら、俺の背後に立ったキリクのことを気にしているらしい。
教養がない農村出身のわりに、なかなか礼儀を知っている。
「彼は護衛だ。立っているのも仕事のうちだから遠慮するな」
着席を促すと、それでは、と3人組も椅子に座る。
そのままだと背もたれに背負った鍋が当たるので、膝に抱え込むようにして座りなおす動作が、なんとも子供らしくて笑みが浮かんでしまう。
「すげえ・・・剣牙の兵団の人が護衛なんだ・・・」
「やっぱりあの人は偉い人なんだ・・・」
周囲からはヒソヒソと剣牙の兵団が護衛についていることに驚きの声が上がっているが、キリクがヒト睨みすると外野の喧騒も収まる。
椅子に座った3人組が固まったままなので、こちらから少し雑談をふって緊張を解してやる。
「礼儀正しいんだな」
「え・・・?」
「椅子に座るか、気にしただろう」
「あ、はい。俺、いえ自分達は大人の冒険者のパーティーに加えてもらう機会が多くて、そういったことをうるさく仕込まれたので」
「その大鍋が理由か?」
「そ、そうです。自分達は若くて力がないんですけど、飯係としてなら雇ってもらうことが多くて」
なるほど。
以前、サラが話していたことを思い出してきた。
たしか、村から出てきたばかりの子供の3人組に、とりあえず経験を積ませるために飯係として仕込んだという話だった。
それで複数のパーティーを渡り歩いて、今でも生き残っているし、大人のパーティーに加わることで色々と教わってきたわけだ。
「すると、料理が得意なんだろうな」
褒めたつもりで言葉をかけたのだが、3人組が少し下を向いてしまった。
「それが・・・自分達、ぜんぜん料理の種類が増えなくて」
「麦粥はうまく炊けるようになったんですけど、宿で教えてもらったりとかもできないし」
話を聞くと、どうもサラに教わってからメニューが増やせていないようだ。
農村にいた時は料理などしなかったし、街では冒険者に料理を教えるような酔狂な人間はいない。
そもそも料理のレシピは飲食店や宿にとって文字通り飯の種であり、それを他人に教える理由がない。
酒場で食べるような食事は安全な街中で時間をかけて材料を調達できてこそ出来るものであり、野外で限られた材料を元に旨い料理を作るようなレシピを研究している人間もいなければ、広める人間も存在しない。
保存食としての固いパンや干し肉はある。
ただ、まともな調理の技能を持つ人間は冒険者にならないだけだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます