第514話 小会議

職人達は、後から後からやってきて、様々な事柄について話した。

説明会では発言の機会を見つけられなかった者達も、上等な麦酒と上等な肉の脂が潤滑油になったのか、事業について思うところや、自分達の技術について、いろいろと話してくれた。


さすがと思わせる専門的知識に基づく指摘もあれば、既に知っていることの繰り返しであったり、単なる追従であったり、酒の上での下ネタの話もあったが、その全てを黙って聞き、頷くようにした。


何かあった時にだけでなく、何もなくても闊達に話せる空気というチームワークの基礎は、事業を進める上で何ものにも換え難く、それを作り上げるのは自分の態度にかかっているとわかっていたからだ。


「わかっておられますか!代官様!石臼の石は、あれは岩です。固くて重い、火山の近くで露出する一枚岩で、重ければ重いほどよろしい。それを金属のノミで何週間も削っていくとですな、岩の目が見えてくるんですな。こう、最初から形があって、それが顕れたような・・・わかりますか、代官様!やはり、石はいい・・・」


「・・・ビルホネン殿、このへんでそろそろ・・・」


「いや!代官様に火山で取れる岩の良さをわかっていただくまでは・・・」


などと、慣れない上質な酒で気分が盛り上がり過ぎて、いろいろと絡まれたのも仕方ないことである。

いい仕事さえしてくれるのであれば、そんなことは問題ない。


かえって、周囲の職人達が気を使って、彼を引き離しにかかったほどだ。

俺は冒険者相手の飲みや偉いさん相手の胃が痛くなるような酒席の経験もあったので、職人達の酒の上での無礼など全く気にならない。

それに、無礼講と言っておいて「無礼な!」とやってしまうような無様な真似はしたくなかったので、無用の心配ではあった。


◇ ◇ ◇ ◇


一応、明日の予定もあるということで宴席はほどほどに切り上げ、会社の事務所の方に戻ることにする。

専門家達は2等街区の宿に分宿しているらしく、挨拶もほどほどにバラバラと帰っていく。

飲み足りない奴等は宿に帰ってまた飲むのだろうが、明日の会合に差し支えない程度にしてもらいたいものだ。


そして俺は、残念ながらもう少し仕事だ。

事務所に戻ると、新人官吏達が数名、先に戻ってきていた。

彼らも宴席に散らばって、情報収集をしていたわけで、その一次情報を劣化しない内に聞いておきたかったのだ。


この手のちょっとした情報収集とミーティングを繰り返すことで、イベントの運営や成果は驚くほど変わる。

一応、気づいた点を全員から情報収集する。


「それで、彼らの理解度はどうだった?全て完全に理解したという状態を5点とすると何点だろう?」


「3点が4名、2点が1名」


「4点が1名、3点が3名、2点が2名」


「4点が1名、2点が4名」


質問に対して、報告があがってくる。

数字で上げさせるのは、できるだけ回答者の主観を削ぐためだ。

新人官吏達も人間なので、どうしてもこちらが喜ぶ情報を上げたくなる。

それでは現状の適切な把握に支障をきたす。


主観については「他に何か気づいたことは?」という形で別途、報告してもらうようにしている。

新人官吏達からは


「現地を見たい、という声がいくつか」


「出来上がったイメージがわかない、という声も多いです」


という声があがる。


なるほど、言葉を重ねても出来上がりイメージが共有できていないわけか。

やはり、絵を描いてもらうか、模型を作って見せる必要がある。

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