第504話 協力体制

「あまり複雑な機構にすると、故障した時に修理ができなくなります」


クラウディオが自動化のリスクを指摘する。


マルタはあくまで王都を拠点としている機構士なので、急な故障の際に呼び出すことができない。

自動化で少し効率が上がったところで、水車小屋が故障で停止する期間が長引けば、結果的にパフォーマンスが落ちる。

自動化と耐久性のバランスをどこに置くのか、リスクを勘案した方が良いとの意見と捉える。


「そんなに難しくなるものだろうか」


水車動力を起点とする以上、全ての機構は目に見えるレベルの技術であって模倣は容易に思える。

とはいえ、危惧を覚える者達がいる以上は自分に理解できていないだけの可能性もあるから、その手のリスクを無視することもできない。


少し考えて、折衷案を提案する。


「こういう言い方をしたら気を悪くされるかもしれないが、マルタ殿が設計された機構を、エイベル殿が修正するというような役割分担をすることはできないだろうか」


先程から話しを聞いていても、マルタは複雑で繊細な機構の制作を得意としており、大型の設備を製作した経験がないように思える。耐久性や素材を勘案した上での設計はエイベルに任せたい。

実務家の手を経ることで、発明家の設計を保守的なものに修正することができるのではないか。


「ふうむ・・・そうだのう・・・」


マルタは整えられた顎髭を弄りつつ考えこむ様子を見せた。


「エイベル殿は、どう思われますか」


エイベルにも設計者としてのプライドはあるだろう。

人に貰った設計をするということには、抵抗があるかもしれない。


「ぜひ!高名なマルタ殿の設計を手伝わせてもらえるのは、光栄なことです!」


ところが、エイベルは予想よりも前向きな反応を見せた。


「マルタ殿の設計の力量を勉強させていただきたいと思います」


ああ、なるほど。


エイベルの顔を見て、理由を理解できたように思う。

この世界では、ノウハウは極めて貴重なものであり学ぶ機会は制限されている。

建築関係の書籍などがあるわけではないから、技術者が学ぼうと思えば弟子入りするか実際の工事で実地で学ぶしかない。

まして、分野は違えども高名な技術者であるマルタから学ぶ機会というのは、きっと貴重なものなのだろう。


「そういうことであれば、是非もないな」


マルタとしても自分の技術が認められるのは嬉しいのか、満更でもない様子で頷いた。

エイベルとマルタは畑違いの技術者であるから、エイベルの技術が向上したとしてもマルタの仕事を奪う可能性が少ないということも、手伝いを受け入れる理由になったのかもしれない。


「しかし、素晴らしいことですね!分野の異なる才能が協力して設計をするとは!他では聞いたことがありません!」


「そういうものなのか?」


バンドルフィの賛辞は、少しばかり大げさに思える。


「いや、それは彼の言うとおりです。前任の設計者の改良を依頼されることはありますが、それは前の設計者が解雇(クビ)になった場合です。今回のように協力するという形になるのは経験したことがありません」


エイベルの説明に頷きつつも、納得はできない。

他所ではできなくて、この領地ではできる。

契約や体制に違いがあるのだろうか。

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