第499話 絡繰り
一つハッキリしたことがある。
水車の稼働時間を上げようと考えるならば、粉の粗さに応じた石臼の整備は既定事項と考えるべきだ。
そうであれば、最初の水車小屋は検証にあてるのが良い。
具体的には、各石臼の製粉の処理能力の計測と、長時間の運用体制の構築である。
「最初の水車小屋では、水車を3基稼働させたい。そこで石臼についても処理できる粉の大きさを変えて3種類用意して欲しい」
「大麦も処理できるように、ですか?」
「そうだ。大麦も、だ」
ビルホネンは不思議がっていたが、俺の趣味で大麦の件を押し通しているわけではない。
小麦などの穀物の生産が増えれば、酒の生産が増える。
麦酒の原料は大麦であるから、製粉などの処理の需要が増えると見込んでいるわけだ。
「自動化ができれば、製粉の手数料をかなりの程度、下げられるはずだ」
そうすれば、原料の安い大麦に市場のニーズはある、と読んでいる。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「次は、機構の専門家ですか」
クラウディオが「機構」という聞きなれない言葉に首をひねる。
川の流速を水で受け止め、水車の回転を適切に加減速して石臼に伝える機構の専門家。
歯車の組み合わせによって実現される動力伝達の仕組みは、たしかに機構という呼び方がしっくり来るような気がして、俺は気に入っている。
「通常の仕組みであれば水車の専門家の範疇だそうですが、水車の専門家に話したところ別の専門家を立てた方が良い、と言われましてね。伝手を辿って出来そうな方を呼んできました」
「それが、あれですか」
「あれ」呼ばわりは良くないと思うのだが、たしかに変わった格好をした男だった。
小太りで襟のあるシャツを着ており、ボタンが弾けるのではないかという緊張感を無駄に漂わせている。
外歩きが大きく、痩せて精悍な姿の聖職者の服を来た一団の中にあって、一人だけ私服で不健康そうな外見をしており、悪い意味で浮いている。
説明会の後で各班に分かれて議論する以上、専門家達は2、3人のグループで来ていたのだが、その男は一人だけであることからも、その保有する技能が特別なものであることが伺える。
「王都で貴族様の後援を受けて、いろいろと画期的な機構を作られているようです」
俺も伝聞でしか実績を聞いていないので、小声での説明にも説得力が薄い。
「どんな機構を作られたんですか?」
目を輝かせて聞いてくるクラウディオには悪いが、集めた情報の信憑性は薄い。
「なんでも、鳥を機構で作って、卵を産ませたとか・・・」
「たまご?」
おそらくは何か後援者の貴族向けの見世物的な玩具だろう。
とはいえ、何かの絡繰り仕掛けのようなものを作る技術力があるのは確かと思える。
問題は、大型の実用品を作ることができるかどうか。
最悪、仕組みだけ考えてもらって、実用品は水車の専門家達に任せてしまう手もある。
さて、どんな仕組みを考えてきたのだろうか。
期待と不安が半々で、奇妙な風体の説明を見守る。
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