第494話 水車の原理

エイベルが、手持ちの小さな水車をクルクルと回して見せながら解説をする。


「水車の模型を作るように、と言われた我々は、まず水車の大きさを決めようと考えました。一般的に水車は大きければ大きい方が良いと言われていますが、どの程度まで大きければいいのか、また、大きくしたときに性能にどの程度の差がつくものなのか、具体的に把握したいと考えたのです」


勘だけでは、領主様がダメだと言いそうでしたので、と軽口を挟むだけの余裕がある。


「というのも、1基だけであれば、建設予定地にできるだけ大きいものを建てれば良いわけですが、10基も建てて、しかも同じ大きさの水車を作るとなると、大きさの直径を慎重に決定する必要があると考えたからです。

ええと、なぜ同じ大きさにするかというと、これは代官様のご要望なのですが、なんと言いましたっけ・・・」


エイベルがこちらに話を振ってくるので、回答する。


「標準化、ですね。用途の同じものは同じ素材、重さ、形状を用いることにして相互の交換を可能にする、という考え方です」


「その、標準化というやつです。言われてみれば、水車の板や枠は同じ大きさや形の部品を幾つも使っているわけですし、またそうでなければ中心がズレてしまうわけです。それを他の水車でも同じものにしよう、というだけの話なのですよね。そういうわけで、いろいろな大きさの水車を作り、試してみることにしました」


エイベルの行っているのは、実験そのものだ。


「それで、まず、水車の効率がどれだけ良いかということを具体的に測れないかと考えました。水車は小麦を製粉するために石臼を回すわけですから、決まった水の量で石臼をどれだけ回せるかを測ろうとしたのです。具体的には、水桶一杯の水を管に流すことにして、水車の軸に糸と軽い重りをつけまして、どのくらい糸を巻き上げることができるか、ということですね。言葉だけではわかりにくいですから、ちょっとやってみましょう」


水車を模型にセットし、エイベルがクレイグに合図をすると、クレイグは水桶を傾けて木管に水を流す。

すると、管の先から勢い良く出てきた水が水車をクルクルと回す。

回った水車は、重りのついた糸を巻き上げていく。


「この、どれだけ重りを巻き上げられるか、が、言わば水車の効率になるわけです。これを測れば、効率がわかります。そうして、適切な水車の作りや大きさというのを決めていったわけです」


ここまでの話でも十分に驚くべき内容であったが、エイベルが続けた内容は、それ以上のものだった。


「それでですね、ある時、水を流しすぎたせいか木管が外れまして、水の流し方を誤ったわけです。ご覧のように、木管は川の流れを表しているので水車の下に水を流れるようにしているわけですが、管が外れたせいで上から水が流れたのです。こう、水車の上に水がかかるように」


説明に合わせて、エイベルが木管の水の出口の位置を水車の上部に動かす。

こぼれた水が模型の水車にかかり、回り出す。


「すると、これまでになく勢い良く回ったのです。原理はよくわかりませんが、水の重さが水車にかかるので楽に回るのだと考え、幾つかの高さで試してみました。すると、やはり一番効率の良いのは上からかける方式です。意外だったのですが、水車の上からでなくとも、途中までの高さからでも効率はあがるのですね。ただ、やはり高いところからの方が断然、効率がいい」


模型から手を放して、エイベルが長くなった説明を締める。


「要するに結論としましては、水車の直径は領地の川の落差に合わせるか、全く合わせないかのどちらかにするべきだと考えます。測量の結果を待って水源地、つまり山の手側に高地があれば、そちらから川面までの高さに合わせて水車を決定します。もし落差がなければ、そこは水車をできるだけ大型化するつもりです」


つまりは、効率の良い水車の設置は、領地の水路工事が鍵となる。

確かに、元の世界で見たことのある水車は上に水のといのようなものがあったような記憶がある。

あれはあれで効率が良かったということか。

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