第485話 普通の男に見える
測量士のバンドルフィも、同僚と共に今回の説明会に参加していた。
バンドルフィの仕事柄、様々な地域に出かけることは多いので色々な領地を見てきたが、この代官ぐらい変わった領地経営をしようとしている者はいなかったからだ。
「バンドルフィ、お前が言っている代官様かい?」
同僚の視線の先には、会場となる入り口で商人風の格好をして来場者を愛想よく迎える男の姿があった。
バンドルフィが頷くと、同僚は小さな声で感想を述べた。
「なんというか、見た目は普通の男だな。お前が興奮して持ち上げるから余程の切れ者かと思えば、大商人と言うには貫目が足らないし、元冒険者という経歴の割には威圧感を感じない」
「まあ、そうだな。実際、ものすごく頭がいいという感じは受けない。ただ、変わっているんだ」
バンドルフィの同僚には、ときどき物凄く頭の良い人間がいる。
さっと見ただけで地図を記憶してしまえたり、距離を測るための道具の複雑な使い方を見ているだけで理解してしまえたり、そういう類の頭の良さとは少し違ったものを感じている。
「なんと言っていいか、当たり前のことを話し、当たり前のことを返されていたはずなのに、気がついたら全く見たことも聞いたこともないところに連れて行かれているような・・・そんな感じがする」
「ふむ。本当の変人は普通に見えると言うからな。そういう方なのか」
「滅多なことを言うなよ。俺も後で知って驚いたんだが、代官様は開拓者の靴の開発者だぞ。測量士の大恩人だ」
「お前の自慢していた靴か!あの、靴に絨毯が敷いてあるという!」
測量士にとって、逃げ足は商売の一部である。
本当に危険な目に遭った時に頼れるのは、自分の二本の足だけなのだ。
バンドルフィがどうにかして手に入れた開拓者の靴は、その履きやすさと耐久性で同僚からの羨望を浴びていた。
その靴を、あの見た目に変わったところのない代官様が作ったというのか。
「すると職人を大事にされる方なんだな」
バンドルフィは同僚の勘違いを正した。
「違う違う。たしかに代官様は職人を大事にされる方らしいが、そうではなくて、この靴を発明したのが代官様なんだ。職人の手柄を奪ったわけじゃない。その上、冒険者の身で街中に土地を得て大きな工房を立ち上げ、今では代官を任されるまで出世されている。噂では教会の偉い方からの信任も厚いそうだ」
「なんと。すると元は俺達と同じ平民なのか。人は見た目によらないな、いや、見た目通りというべきなのか」
「そうだな。だが、興味深い人なのは確かだ。工房も大きかったし、見たことがない程の活気があった。あの人は、きっと当たりの依頼主だ」
挨拶の列が短くなる間、バンドルフィと同僚はひそひそと依頼主である代官についての噂をやり取りしていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
挨拶の列が途切れると、内部で案内をしていたパペリーノが早足で寄ってきた。
「出席状況の方はどうだ」
「はい。24名の参加予定でしたが、2名が欠席です。ただ、当日参加を希望された方が3名いらっしゃいまして、全体としては1名の増員です」
「当日参加?誰だ?」
「職人の方が2名、1名は教会からです」
教会から1名が当日参加。嫌な予感がする。
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