第484話 参加者の面子

「どうだ、緊張しているか」


「はい、少し・・・」


軽く声をかけてみると、クラウディオは強張った顔をして答える。

準備には相当の労力をかけたわけだし、成功するかどうかを自分ではコントールできないというのはストレスが溜まる。

一方で、サラは顔色も普段と変わりなく、比較的余裕がありそうに見える。


「終わった後は、すごいご馳走が待ってるもの!元気じゃないと勿体ないでしょ!」


ということらしい。

元冒険者にとってみれば、忙しいと言っても働けるのは明るい昼間のうちだけだし、3食とれて温かい寝床で睡眠も取れて、命の危険もない。根本から心身のタフさが違うのだろう。


2人が俺の側に控える一方で、残りの4人はイベント運営の裏方として走り回っている。

案内役の手配、出席者の案内と出席状況の確認、資料手配の確認、席順で揉めないよう着席までの案内等、することは幾らでもある。

人数が足りないので、リュックの実家と教会から数人の人手を借りている。

剣牙の兵団や工房の人間では、礼儀作法に不安が残るので仕方がない。


ことここに至っては、俺達に出来ることは少ない。

教会の入り口に立って新任の代官として顔を売りつつ、挨拶をするのが俺の今の仕事だ。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇


2等街区にある普段は閑静な教会は、朝から多くの人が訪れ、賑わっていた。

受付をする間、手持ち無沙汰の人間が教会の周囲に人垣となり、人目をひいている。

その多くが聖職者の格好をしていたが、微妙に衣装が似合っていない者が多い。

どの男も程よく日焼けをし、文弱の徒と陰口を叩かれることも多い聖職者とは程遠い印象を受ける。


「あれは、いったい何が行われているのか」と隣近所の者は噂をし、「畏れ多くも聖職者の格好をした不信心者がいる」との通報が衛兵に寄せられたのは、仕方のないところであったろう。


参加者の中には、水車の技術者として招かれたエイベルとクレイグの姿もあった。


「・・・あの代官様、口だけじゃねえな」


「ええ、話を聞いた時は、そんなことはできるはずがないと思っていましたが・・・」


周囲の参加者を見回した印象として、これまでの工事で何度か見かけた顔もいれば、初めて見る顔もある。


「当たり前だが、すげえ規模の工事なんだな」


クレイグの感想を、エイベルは否定する。


「そうでしょうか?確かに金額は大きいかもしれませんが、投資の規模としては中程度の規模ではないかと思います。領地もそれ程大きいとは思えませんしね」


領地の広さ、財政の豊かさだけを考えれば、大貴族の所管する領地の開発事業で、今より規模の大きいものはいくらでもある。

ただ、限られた期間と場所に参加するだけの自分達には全体が見渡せていないだけだったのだ。


「この面子を覚えておくべきだと思います。工事関係者の縁故(コネ)を持つことができるのは、限られた貴族だけの特権でしたから、これは貴重な機会です。きちんと顔を売り、我々の腕をアピールすべきですね」


エイベルは、同僚に囁いた。

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