第469話 専門家との信頼関係

「今回の領地開発事業において、水車小屋を10軒配置します。その際、建設や修理を行えるように部材や部品を共通の規格として欲しいのです」


「ええと・・・規格というのは、何でしょう?」


エイベルが尋ねる。


「そうですね。同じ形状、同じ寸法の部品ということです。例えば最初の1軒目に使った部品は、2軒目でも使えるし、3軒目でも使える。そういう状態を作り出したい、ということです。10軒の水車小屋を建てるわけですから、どこの水車小屋でも同じ部品を使いたいのです」


「なるほど。クレイグ、どう思いますか?」


エイベルはクラウディオの説明に頷くと、傍らのクレイグに確認した。


「いやあ・・・オレは丁寧な言葉づかいは苦手で言い方は難しいんだが、何ていうか、それはモノを作ったことのない人間の意見だと思うぜ」


「クレイグ!もっと言い方を・・・」


「だってよう、そんなんで失敗して責任を取らされるよりも、先に言っておかねえと」


「それはそうですが・・・」


エイベルが恐縮して、こちらの様子を伺う。


「・・・代官様、いかがしましょう?」


クラウディオもこちらの態度を確認してくる。

ここらで選手交代しておいた方がいいか。


「クラウディオ、ご苦労でした。ここからは私が代わりましょう。クレイグさん、共通の部品を使うという考えのどこが問題となるでしょう?」


仮にも代官である人間が、自分の考えを否定されたにも関わらず怒らず、むしろ穏やかに対応したことで技術者の2人は意表を突かれたように見えた。


「・・・そりゃあ、部品は同じに作れても、現地の状況はいろいろだからな・・・考えたとおりにはいかねえもんだ」


クレイグは躊躇いつつ答えた。何と表現して良いものか、言葉がうまく出てこないのかもしれない。


「そこをもう少し教えて下さい。現地の状況がいろいろであるから、共通の部品に意味がない、というところを」


現場の人間が直感的にダメだ、というからには原因がある。

だが、施行者ができないというのそのままを受けて、物分りの良い施主となるつもりはない。

現場の人間がダメだと言うなら、その理由と原因を知っておきたいし、解決に向けて努力する。

それが依頼する者にとっての責任感というものだ。


「そうだなあ・・・例えば水車を作る場合、水の流れの強さや幅が場所によって違う。だから、水車は一つ一つが違う作りをしてんだ。こういう言い方でわかるか?」


「わかります。ですが、今回は村内の同じ場所に建設を予定しているわけですから、それは問題にならないのでは?」


「同じ場所?なんだい、そりゃ」


なるほど、情報の共有ができていないわけか。

村内の正確な地図についてはまだ出来ていないが、後で測量士も交えて話し合う必要がある。

個別に専門家と話し合うのも良いが、領地開発の全体像について、専門家全体に説明会を行う機会を設けるべきだ。


「官僚に行った連中が、レクとか言ってたな。このことか」


小さな声で、この世界では自分だけが理解できる内容を呟いた。

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