第454話 人喰い巨人の捕獲

先導する団員に従ってしばらく歩くと、全員がしゃがむように指示される。

姿勢を低くしたまま来るよう指示された男爵は、ジルボアに続き這うようにして案内者のところまで進む。


「あの大きな木の陰です」


先導していた団員が指差した場所を眺めると、森林の中でも周囲から一際大きな木の根本に、枝葉を組み合わせて作られた円形の塊がある。

塊の大きさはかなりのものであるにも関わらず使用している素材のためか風景に溶け込んでおり、よほど近くまで寄らないと人工のものだとは気づけないかもしれない。


「あれがオーガの住処か?」


ジルボアの問いに対し、偵察に出ていた団員は「あの塊の陰で人喰い巨人が動くのを確かに見ました」と返答をする。


「どう思いますか?あれは何でしょう?」


ジルボアは少しでも情報を求めて男爵に尋ねる。

ジルボアとしても人喰い巨人の住処を発見するのは初めての経験となる。

もともと、剣牙の兵団の強みは捜索能力でなく戦闘能力である。

人喰い巨人と戦う時は、開けた場所に誘き出して正面から叩き潰す、という戦闘方針で戦ってきた。

参考となる情報は多ければ多いほど良い。


「ある種の住居というよりは、テントのようなものに見えるの。枝葉を組み合わせて雨露を凌げるようにしておるのではないかな」


「人が作ったものを利用しているという可能性は?」


「あれはかなりの大きさだ。ただのテントにしては人間が作るには労力がかかりすぎる。それに人喰い巨人が跋扈する、このような森の奥で暢気に野宿をする集団は少なかろう」


「たしかに」


自然の枝葉を利用したテントらしきものまでは距離があるので正確にはわからないが、人喰い巨人の出入りに不自由がない程度のサイズはありそうだ。あれほど大きいものを作る理由は人間にはないのだから、やはり人喰い巨人の手による住処と考えるのが妥当だろう。


「それにしても、奴等が自らの手で住処を作るだけの知性があるとは!これは大変な発見だな!」


興奮を押し殺し、できるだけ小さな声で男爵は囁いた。


「だが考えてみれば、両手があって指もあって、棍棒を振り回すだけの知恵があるのだ。枝を集めて住処を作るぐらいは、できて当然のことかもしれん。それにしても大発見だ。あとは、あそこにいるのは、どんな個体なのか。それが気になる。何とか殺さずに捕まえたい」


男爵の要望に対し、ジルボアも声を低めて答える。


「できれば、ですね。1頭だけではないかもしれません。それに中途半端に痛みを与えれば、狂暴化してやはり死んでしまいます」


「しかし!あの住居におる奴の重要性は話したであろう!何とかならんか?」


「人喰い巨人の狂暴化を防げば何とかなるかもしれません。何か考えはありませんか?」


ジルボアに問われて、男爵は目線を上に向けてブツブツと言いながら考え込むが、その独り言も長くは続かなかった。


「そうだな。痛み止めはあるか?」


「それは・・・輜重隊の方が用意していますが」


男爵の言葉にジルボアが怪訝そうに尋ねる。


「痛み止めを鏃にタップリと塗って撃ち込みたい。あの棘が生えた棒の武器にも塗るのだ。それで狂暴化を抑えることができるかもしれん」


痛みと死の恐怖が狂暴化を引き起こすのならば、それを緩和すればいい。

そのために武器には毒ではなく薬を使用する、という男爵の発想にジルボアは男爵を見直した。

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