第453話 人喰い巨人の生態

人喰い巨人オーガの生活は、ゴブリンと比較してあまり知られていない。

個体数自体が少ないこともあるし、人喰い巨人と交戦したパーティーは勝ったとしても疲弊が大きく撤退を選ぶことが多いからだ。例え怪我なく倒せたとしても、巨大な体躯が振り回す棍棒を相手にした冒険者パーティーからすると、用意した武器が欠ける、柄が折れる、盾が割れる、用意した太矢が尽きるなど装備面で不安を抱えての連戦は難しい。

もし人喰い巨人の集落などというものがあり、そこにぶち当たってしまったら、それは死を意味する。


「人喰い巨人については、いくらか調べた」


偵察隊が発見した場所へ徒歩で向かいつつ、男爵はジルボアに事前調査の結果を説明していた。

調査行の前に男爵の方で冒険者ギルドの記録にあたり、人喰い巨人討伐の件数や種類についてまとめていたのだ。


「その件数よりも、目を惹かれたのは性別だな。ほとんどがオスの個体だった。頭数については1頭、もしくは2頭、ごく稀に3頭ということもあった」」


「たしかに、我々も1頭、多くて2頭と相対することが多かったですね」


「対象がオスだけというのには、2つの仮説が考えられるな。1つめはオスが狩りをして、メスが家を守る。ある種の狩猟を生業とする人間達と同じ暮らしをしている、という説だの」


「なるほど、あり得る話です。ですが・・・」


「そう。そのためには人喰い巨人が2、もしくは3頭で行動している理由が必要となるのう。兄弟、もしくは親子か。そういう関係である、という証拠が必要になるな」


「兄弟・・・人喰い巨人に兄弟がいる。言われてみれば当たり前かもしれませんが、なんとも違和感のある言葉ですね。怪物というよりも、人間や動物を表現しているようです」


怪物は怪物、動物は動物、人間は人間。そのように認識しているジルボアにとって男爵の表現は怪物をあまりに人間くさく描写していて、違和感を覚えずにはいられない。


「ふむ。そうだな。だが我々はあまりに怪物についての知識が足りない。そうは思わないかね?まずは怪物を不可思議な脅威でなく、我々が理解できる言葉で表現できるものだと認識する、そこから始めるべきだと思うがね。ふむ、なにかおかしなこと言ったかな?」


男爵はジルボアが笑みを浮かべるのを見て怪訝そうに尋ねた。


「いえ、男爵様と話していると、ある男のことが思い浮かぶものですから」


「そうかね。まあいい。ところで2つ目の仮説だが、オス達は修行に出された若い者達だ、という説だ。ある種の集団の動物では、一定の年齢に達すると若いオスは群れから追い出される。そうして新しい群れを探すのだな。人喰い巨人達も、そうして新しい縄張りと群れを求めて彷徨っている、そういう説だ」


「まるで人間の村のようですね。畑がもらえない次男や三男が村を出て傭兵になったり、冒険者になったりするのと同じに見えます」


ジルボアの回答を聞いて、男爵は手を叩く。


「まさしく、その通り!いや、全くそうだ。つまりだね、人喰い巨人の住処を発見したということはだね、この先にオスがいるか、メスがいるか。大人しかいないか、子供もいるか。それを明らかにできれば、人喰い巨人がどうやって集団の秩序を維持し、暮らしているのか。その一端を明らかにできる、ということだよ!」


「なるほど。興味深い」


今度のジルボアの反応に不満だったのか、男爵は言葉を続けた。


「興味深い!それどころではないよ。つまりだね、住処にメスと子供がいれば、人喰い巨人は縄張りを持つ動物のような暮らしをしている、ということになる。もしオスがいるようなら・・・」


「いるようなら?」


「人喰い巨人は、大きな集落を築いている可能性が高い、ということになるな。我々人間は、人喰い巨人の社会、という敵と、いずれ相対することになるのかもしれん」


男爵の大胆な仮説に、ジルボアは思わず目を瞬(しばたた)かせた。

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